念願の異世界に召喚されたけど役に立ちそうもないんでその辺で遊んでます~森で謎の姉妹に出会って本物の勇者を目指すことに~

朱衣なつ

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第110話 ピンチはピンチです

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 「サーシャ! 止せ! そいつはまだ何か力を隠している!」

 「嫌です! ……私は……私は父とレナードの死を受け入れらず、ずっと逃げてました……」

 「サーシャ……?」

 「ですがもう迷いません! 今度は……私がみんなを助けます!」

 バレンティスは興味深そうにサーシャに問いかける。

 「エスプリマの研究をしているお前が言うからには少しは期待していいんだろうな?」

 「ええ、あなたのそれとは違いますけどね……」

 サーシャは杖を逆さまにしてブレスレットを外す。

 「今こそ! アム・リゾナンス!」
 
 サーシャがそう叫ぶとバレンティス達と同じように全身から大量の光の粒子が溢れてくる。

 「答えて! オウル!」

 その言葉に呼応かのように光の粒子が更に輝きを増していく。

 今まで何が起きても動じることがなかったバレンティスが、その様子に目を見開いて独り言を呟く。

 「この光は……私達のものとは違うのか……」

 サーシャから溢れ出た光の粒子が杖に集まり、死神が持つような大きな鎌へと形を変えていく。

 その大鎌を手にしたサーシャはバレンティスの方を見据えて叫ぶ。

 「青き死神よ! 闇夜を徘徊し、獲物を捕食せよ! ボヤージュ・ドゥ・ラ・モール!」

 その直後、突然辺りが真っ暗闇になり静寂に包まれる。

 何が起きたのか解らず周囲を見回す。

 近くからヒュンッ! っと、何かが空を切り裂く音が聞こえ、バレンティスの方に一瞬だけ二つの光りが点滅する。
 
 次の瞬間、空間を切るように周囲の暗闇が半分に割れていき、本来の景色が姿を現す。
 
 それと同時にバレンティスの背中から血飛沫を上がり、直後に正面からも血飛沫を上げる。
   
 「ぐっ! バカな! 私のゼロ……リフレクトが破られるとは……!」

 バレンティスは自分の身に起きた現象に驚き、倒れてそうになりながらもなんとか堪える。

 「……まさか今ので死なないとは思いませんでした……。本当に……あなた達は何者なんです?」

 「……くっくっくっ……はーはっはっはっ!!」

 サーシャの質問に対して含み笑いをした後、嬉しそうに腹の底から笑い声を上げる。

 「なるほど! オルビルトがお前達に固執していた理由はこれか! ならば!」
 
 バレンティスはフラスコを投げ捨て、マントから両手を出す。

 両手から光が漏れ出して、次第に全身から光の粒子が溢れ出てくる。

 足元からも溢れ出た光でマントがめくり上がり、大気が細かく振動し始める。

 こいつもエルザと同じか!? でもブレスレットを外した様子もないし、そもそもエスプリマを発動させてないぞ。

 そのとき、森の影から五人の人間が姿を現し、俺達の方に声を上げながら向かってくる。

 「遅くなってすまねえみんな! ラスネル達を連れてきたぞ!」

 「ベドルフさん! それにラスネルさん達も!」

 ベドルフさんがラスネル達さんを連れてきてくれたようだ。

 「途中までデンバーをつけてたんだけど、見失っちまってな。それで先にラスネル達を呼んできたんだ」

 「それよりもこいつはどうなってんだい!? 一体どうやったらこんな惨劇になるってんだ!」

 ラスネルは血で染まった戦場を見て衝撃を受けている。

 「皆さん気をつけて下さい! あの男はただの人間じゃないようです!」

 「あいつがこれを一人でやったのかい? みんな! あいつをやるよ!」

 ラスネルの号令を受けて仲間がバレンティスに向かって武器を構える。

 「フンッ。何人集まろうと所詮は烏合の衆だという……!」

 喋っているバレンティスに向けて、突如一発の銃弾が飛んでくる。

 弾は見えない障壁によって弾かれしまうが、バレンティスは喋るのを止めて、自分を撃ってきた相手を見据える。

 「……ダメか。だが……寝てるわけにはいかなさそうだな……」

 「マリィ! 良かった! 意識が戻ったんだな!」

 「ああ……サーシャのおかげでな。しかし、リネットとフィオは早く助けないと手遅れになる……。さっさと協力してやつを倒すぞ」

 とは言うものの、マリィは立ってるのもやっとの様子でフラフラとしている。
  
 それでもトリガーガードを前に倒し、弾を装填してバレンティスに狙いを定める。

 「マリィ……。よし! 俺もサーシャの援護に回る!」
 
 俺はサーシャを庇うようにバレンティスの
前に立ち塞がる。

 「お前がどんな手を使おうとも俺達はお前を倒すぞ! バレンティス!」

 「下らんな……。茶番を見せられて興が削がれた」

 そう呟くとバレンティスの体から光が消えていき最初の状態に戻る。

 「茶番だと?! 」

 俺が声を荒げるもバレンティスは何も答えず右手を広げる。
 
 「アビスゲート」

 突如バレンティスの後ろにデカイ渦が出現する。

 あれは……。以前トレイン達が逃げるときに使ったやつか!

 バレンティスが手を前にかざす。

 すると、倒れていたアリシアの体が浮いて渦の中に吸い込まれていく。

 「サーシャよ。次を楽しみにしておけ」

 それだけ言い残し、エルザを抱えて渦の中に飛び込む。

 二人が入った後、渦は小さくなって消えていく。

 「……帰ったのか?」

 「そのようですね……」
  
 驚異が去って一瞬気が抜けてしまうが、すぐにリネットとフィオのもとに駆けつける。

 「そんなことよりもサーシャ! 二人は助かりそうか!?」

 「ええ、今の私なら出来るはずです! その傷はただの傷ではないはずですから、すぐに二人を私のところに運んでください!」

 ラスネルさん達と協力して二人を運ぶ。

 リネットの服にはべっとりと血が付着していて嫌な予感が頭をよぎる。

 それを振り払うかのように頭を横に振り、リネット達をそっと地面に置く。

 サーシャが大鎌を逆さまにして刃部分を地面に向ける。

 すると、光を放ちながら太陽を彷彿とさせる杖に形を変えていく。

 「リザレクション!」
 
 サーシャがその杖を天高く掲げて叫ぶ。

 杖から光が放出してその光が二人とマリィを包む。

 光に包まれたフィオの手が僅かに動いて目を覚まし、リネットの方も斬られた傷がみるみると塞がっていく。

 「フィオ! どうだ?! 痛いところはあるか?」
 
 「ううん、痛いところはないけど頭がボーとするよ。あっ、そういえば敵は?」
 
 「こんなときにそんな心配をするな。すぐに病院に連れていくから、そこで寝ててくれ」

 フィオはまだ元気の無い口調だがひとまず安心してよさそうだ。

 少しするとリネットも目を覚まして、ゆっくりと腰を上げる。

 「あれ? 私どうしてたんだっけ?」

 「おお! リネットも蘇ったぞ! 良かったなぁ!」

 俺が泣きそうになりながら近づいていくも、リネットはそれを気持ち悪がる。

 「なんなの……? そんな顔して近づいてこないでよ」
 
 「今サーシャに二人を助けてもらったんだよ。それにしてもスゴいなサーシャ! 回復力が桁違いじゃないか!」
 
 俺は歓喜の声を上げて振り向く。

 しかし、サーシャは杖を支えにして地面に座り込んでいる。
 
 「力を……使いすぎました。しばらくすれば治ると思います」

 サーシャがブレスレットを装着して杖を光の粒子に変える。

 そうだよ……あれだけの力を使い続けられるわけない……。
 
 「ごめんサーシャ! 無理させてしまった!」

 「ソウタさんのせいではありませんよ。遅かれ早かれこうなっていたはずですから」

 サーシャは俺の体に手を当てて傷を癒してくれる。

 「……すまない」

 後悔や反省など、あらゆる感情が自分の中で交錯して拳を強く握りしめる。
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