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本編
9:アロガスの小麦
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馬車は、領都の中を通りすぎる。領主の屋敷は、領都を越えた先。
町を通らなくても行ける街道があるみたいだけど、ここを通ってくれたのは私に領都の中を見せたかったんじゃないかなと思う。
「外から見ると綺麗な町でしたけど……中は活気がありますね」
「そうだね。この辺りでは一番の穀物庫でもあるから、他領からも買い付けにくる行商人がいるよ」
「確かに、アロガス領の小麦は評判がいいですからね」
農耕地の他に、山を背負う森から流れる川も有しているし、湧き水も豊富で、どこを掘っても水がでる立地。
乾燥に強い小麦ではあるけど、休耕地での家畜の放牧なども考えると水が豊富な事は良いことだ。
凶作の話もほとんど無縁の土地柄ゆえにここまで発展したのだろうなぁと活気のある町を眺めた。
「エリスは、アロガスの小麦で作ったパンは食べた事あるかい?」
「何度か。初めて食べた時は、こんなにも小麦で変わるのか! って感動しました!」
両親が夜会などでの話題作りに買ってきたアロガスの小麦で作ったパンの記憶を思いだし、力強く頷く。
製法もあるだろうけど、柔らかく甘く、それだけでも食べれてしまうパンは、今まで食べた事のあるどのパンよりおいしかった。
「ふふっ、そうなんだね。じゃあ、今日からはいっぱい食べれるよ」
「そ、そんな贅沢いいんですか!?」
穏やかに笑うアデル様の言葉に思わず声を上げる。
あのアロガスのパンを!? いっぱい!?
「贅沢もなにもうちの領で作っているからね。おいしく食べてもらえると、私としても嬉しいかな」
「アロガスのパンを毎日食べ放題……」
アデル様との会話なのに、色気より食い気が圧倒している事に、乙女としてどうなのかと思うけど、商人としても、乙女としても、貴族としても、美味しいものは大好きなのだから仕方がない。
「そうそう、パンより等級は低いけど、二等級の小麦で作ったお菓子も美味しくてね。是非、食べてほしいな」
「アロガスの小麦で作ったお菓子……」
アデル様。容姿だけではなく、乙女を美味しいもので誘惑するなんてなんて罪深い方……。
でも、その誘惑に耐えられる乙女なんて居るだろうか。いや、いない。
貴族の女として、美しさを保つのは仕事の一つだけど、美味しいものを食べて、話題にするのもまた仕事……。
そして、商人としては新しい小麦の売り方を編み出したいという欲求もある。
そう、これはアデル様の婚約者として必要な仕事なのだ!
「いっぱいおいしく食べてみせます!」
「本当かい? 嬉しいなぁ」
ふわふわと花が飛ぶような笑顔を見せるアデル様に心を愛おしさで打ちのめされながら私は領主の屋敷へと到着したのだった。
町を通らなくても行ける街道があるみたいだけど、ここを通ってくれたのは私に領都の中を見せたかったんじゃないかなと思う。
「外から見ると綺麗な町でしたけど……中は活気がありますね」
「そうだね。この辺りでは一番の穀物庫でもあるから、他領からも買い付けにくる行商人がいるよ」
「確かに、アロガス領の小麦は評判がいいですからね」
農耕地の他に、山を背負う森から流れる川も有しているし、湧き水も豊富で、どこを掘っても水がでる立地。
乾燥に強い小麦ではあるけど、休耕地での家畜の放牧なども考えると水が豊富な事は良いことだ。
凶作の話もほとんど無縁の土地柄ゆえにここまで発展したのだろうなぁと活気のある町を眺めた。
「エリスは、アロガスの小麦で作ったパンは食べた事あるかい?」
「何度か。初めて食べた時は、こんなにも小麦で変わるのか! って感動しました!」
両親が夜会などでの話題作りに買ってきたアロガスの小麦で作ったパンの記憶を思いだし、力強く頷く。
製法もあるだろうけど、柔らかく甘く、それだけでも食べれてしまうパンは、今まで食べた事のあるどのパンよりおいしかった。
「ふふっ、そうなんだね。じゃあ、今日からはいっぱい食べれるよ」
「そ、そんな贅沢いいんですか!?」
穏やかに笑うアデル様の言葉に思わず声を上げる。
あのアロガスのパンを!? いっぱい!?
「贅沢もなにもうちの領で作っているからね。おいしく食べてもらえると、私としても嬉しいかな」
「アロガスのパンを毎日食べ放題……」
アデル様との会話なのに、色気より食い気が圧倒している事に、乙女としてどうなのかと思うけど、商人としても、乙女としても、貴族としても、美味しいものは大好きなのだから仕方がない。
「そうそう、パンより等級は低いけど、二等級の小麦で作ったお菓子も美味しくてね。是非、食べてほしいな」
「アロガスの小麦で作ったお菓子……」
アデル様。容姿だけではなく、乙女を美味しいもので誘惑するなんてなんて罪深い方……。
でも、その誘惑に耐えられる乙女なんて居るだろうか。いや、いない。
貴族の女として、美しさを保つのは仕事の一つだけど、美味しいものを食べて、話題にするのもまた仕事……。
そして、商人としては新しい小麦の売り方を編み出したいという欲求もある。
そう、これはアデル様の婚約者として必要な仕事なのだ!
「いっぱいおいしく食べてみせます!」
「本当かい? 嬉しいなぁ」
ふわふわと花が飛ぶような笑顔を見せるアデル様に心を愛おしさで打ちのめされながら私は領主の屋敷へと到着したのだった。
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