全力悪役令嬢! 〜王子の薄っぺらい愛など必要ありません〜

本見りん

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『悪役令嬢』になる決意

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 ――忘れもしない、あれは私が10歳の時。


 ファルシオン王国のスペンサー公爵家の令嬢であるレティシア スペンサー。私は両親に連れられた王宮で婚約者だというフィリップ王子と初めて会った。彼は私と同じ10歳ながら将来美青年となる事を予感させる美麗な顔。しかしその癖のある金髪と青い瞳を見た瞬間に、私は突然前世日本人だった事を思い出し……そして全てを理解した。

 ――ここは、前世でいういわゆる婚約破棄される悪役令嬢の物語。……そして、私レティシアはその悪役令嬢なのだと。

 そしてこのままいけば私は断罪される。


 我がスペンサー公爵家はこのファルシオン王国でも権威ある筆頭公爵家である。2代前にはこの国の王女も降嫁されている程。
 家柄もさることながら曽祖父が始めたという商売も非常に上手くいっており、財政的にも世間から一目置かれている。そんな私には歳の離れた兄ローランドとエリックがいる。

 そして今の王家には私と同い年のフィリップ王子ただ1人。

 今の高位の貴族にもたくさんの御令嬢はいるけれど、1番地位が高いのはおそらく私。そして、王家も我がスペンサー公爵家を味方につけておきたい。そんな王家の思惑から決まった婚約だった。


 私は10歳の時に自分が悪役令嬢役なのだと気付いてからは、なんとかこの婚約をやめさせようと努力した。……が、貴族の婚約など家同士の決まり事。しかも相手は王族。向こうが乗り気であるのにこちらから断れる訳もなく、また私の両親もこの話に非常に乗り気だった。

 更に2人の兄達も『お前が王妃になれば私達は将来宰相や大臣だな!』とプレッシャーをかけてくる。
 ……イヤイヤ、このままこの話が進めば私は婚約破棄され、おそらくお兄様達も出世街道から外れちゃうと思いますよ?


 勿論、自分が悪役令嬢と気付いてからは両親や兄達に何度もそれとなくその事を伝えたのだが……。まあ、信じられないわね、こんな話。
 家族からは単に私が王家なんて畏れ多いと思い嫌がっているだけだと思われたようだ。


 それから、私は悪役令嬢と後ろ指を指される事のないよう王妃教育に励みつつ、そして人に優しくをモットーとした。更にもし婚約破棄に至っても生きていけるよう密かに民の暮らしの勉強もした。……それは厳しい日々だった。


 しかし。どんなに努力をしても話の流れは止まらない。

 いつの間にか、私は人を見れば睨んでいると言われ、声を掛ければその言い方がキツいと言われるようになっていた。

 確かに私は妙に表情が出にくく、流れるような銀の髪に冷たいアイスブルーの瞳という外見もあり、おそらく他の人と同じ事をしても無表情で冷たいと感じられてしまうのだろう。……いやどうしたらいいんだ、これ。
 だからといって、公爵令嬢などの高位貴族はそれ程喜怒哀楽を出してはいけない。特に、王妃教育ではそのように厳しく躾けられた。



 しかし私が14歳の時。……ある日のお茶会で、私は我が公爵家と対立関係にある侯爵家の令嬢と婚約者フィリップ王子が話しているのを聞いてしまった。

「……レティシア様は氷のように冷たく、思いやりのないお方ですもの。殿下のお辛いご心中お察しいたしますわ」

「……彼女はまるで月の如くに、僕には遠い存在だよ」

「まあ! ……うふふ! それでは私が殿下の御心を温めて差し上げますわ!」

 そうして2人は腕を絡めた。

 その時はなんだか聞いていられなくて、私はついその場を離れてしまった。だが後で考えればその場で姿を現したら2人がどんな顔をするのだか見てやれば良かったと思う。

 ……そう。私はその時まで、なんとか優しい令嬢でいよう、悪役令嬢なんかにならない! と努力をしてきた、……つもりだった。

 だけどどれだけ努力をしても、結局周囲は私を『悪役令嬢』に仕立てあげてくる。心遣いをしても何をしても、なんだかいつも反対に悪く取られてしまう。

 ――急に、馬鹿馬鹿しくなって来た。


 その時、私は心からそう思った。……そして、決めたのだ。

 ……もういいわ……! 周りがその気ならその『悪役令嬢』、とことんやってやろうじゃないの!!



 ……それから私は悪役令嬢らしく過ごす事に決めたのだ。

 派閥の違う者、特に先日フィリップ王子にしなだれかかっていたあの侯爵令嬢などには、悪役令嬢らしく容赦なく厳しく対応する事にした。

 ある日の茶会で、例の侯爵令嬢は私に得意げな表情で声を掛けてきた。おそらく自分は王子に気に入られていると自信があるのだろう。

「あら、氷の……いえ、レティシア様、ご機嫌麗しゅう」

 ……ワザと間違えましたわね。

「……貴女は、随分と機嫌が良ろしいようですわね。お家が大変でいらっしゃるというのにそれをお見せにならないなんて……。流石でいらっしゃるわ」

「!? ……何を、仰ってらっしゃるのかしら?」

 侯爵令嬢は分かりやすく動揺している。……まぁ私達、まだ14歳ですものね。でもその歳で婚約者のいる王子に声をかけるなんて将来が思いやられるわね。それに派閥が違うとはいえ筆頭公爵家を敢えて敵に回すだなんて。私が言うのも変だけど。

 そして私はそんな彼女に追い討ちをかけるように言った。

「まあ。……まさかご存じでないのかしら? 貴女の領地の布織物の価値が、暴落したとお聞きしましたけれど。隣国から新たに絹という素晴らしい生地が入り更に他の産地でもとても質の良い布織物が出回り出したそうですわよ。今まで我が国では貴女の侯爵家がほぼ独占して来た市場が一気に崩れたようですわね」

「ッ!! な……! そんな、そんなはずないですわ!」

 侯爵令嬢は真っ青な顔をしてその場を離れていった。……私はクスリと笑う。

 そう、私はあれから動いたのだ! 

 あの侯爵家の領地は綿花と布織物の名産地。侯爵家はほぼそれで成り立ち市場を独占していると知った私は、ちょうど我が国に絹を輸出したいと申し出て来た商人に許可を出すようお父様や王宮の役人に働きかけた。まだ絹の価値を知らなかった周囲は初め難色を示したけれどね。……こんな時は王妃教育で王宮に通っているのが幸いしたわ。
 貴族の女性達は絹織物の美しさにすぐに虜になった。……勿論、我が公爵家が仲買人として儲けの独占をするのだけれど。

 ……ふふ。ほら、悪役令嬢っぽいでしょう?

 そして他にも我が国の別の布織物の産地を探し提携して後押しを進めている。やるならば徹底的にやらないとね。

 これからはあの令嬢の侯爵家は火の車で、余計なことなど考えていられないでしょう。


 そして私は今回の流れで気付いた。前世の記憶を生かして何かを成すことが出来るのでは? 例えば今回のように前世流行っていたものの歴史を辿り同じように流行りを作り出せるのだと。今回は絹、シルクだった。

 ……となると、この中世ヨーロッパ的にはやはり次はアレかアレ、なのよねぇ。私ももっと商人達と関わってこの世界の諸外国にある前世の流行りに近いモノを探していかなきゃね。
 そうして私は家業の商売関係にもどっぷりハマっていったのだ。


 そんなことをしながら、私はもう一切の気遣いなくバッサバッサと周りをぶった斬っていった。……どうせ、気を遣ったところで私は悪く言われるのでしょう? それなら最初から堂々と『悪役令嬢』で突っ走るわよ!


 そう、私はもう遠慮はしない。

 自分の信念に従って、他の者に遠慮などせずガッツリ参りますわ。


 『悪役令嬢』、全力でいかせていただきます!!
 
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