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祖父の見舞い
しおりを挟む「3人とも、そろそろ休憩にしなさいな」
瑞季の母親がお茶とお菓子を持って来てくれた。
「……はー! お父さん、ちょっとハードモード過ぎない? 幾ら花凛が明日には向こうに戻るっていってもさぁ」
瑞季はお茶を半分以上飲み干して言った。
「瑞季に今まで教えて来た事をギュッとまとめて1週間程で教えるのだぞ? 今回の稽古は今日の昼までなのだからな。……まあ1週間稽古を終えてほぼ力を使いこなせるようになられたのは流石というべきですな」
三郎太はそう言って、同じく息を切らしお茶を飲む花凛を見た。
「……お陰様で、色々教えていただいたので思うように力を使えるようになれたかな、と思います……。……確かにハードでしたけど」
花凛はそう言って苦笑いをした。
瑞季も加わってこの1週間、東家で三郎太先生に猛特訓を受けた。隙間時間には瑞季の祖母からの鞍馬家に伝わる話の座学もあり休む間もなかった。
「まあ一通りはお教えしましたので、またお帰りになった際に復習していただければと思います。
もう一汗かいたらご自宅に帰って親子水入らずでお過ごしくだされ」
「そーよね! ……また近いうちに帰って来られるんでしょ? 今度はこんなむさいおじさんの修行じゃなくて一緒に遊ぼうよー!」
「誰がむさいおじさんじゃ!」
2人の掛け合いに花凛はクスクス笑う。
「……ありがとうございます。
仕事次第で次の予定はまだわからないですけど、年末にはまた帰ります。
それにまた瑞季もあちらに遊びにおいでよ」
「あ! それもいーかも! また連絡するわ!」
……瑞季と次の約束をしてもう一度稽古をつけてもらってから、お昼過ぎには花凛は東家を出て向こうに帰る前迄に行っておきたかったある場所へと向かった。
◇
「おお、花凛! よく来てくれたのう!」
「おじーちゃんっ! ごめんね、なかなか来れなくて。それにもう身体は大丈夫?」
「ははは! もうすっかり元気じゃよ! しかし決められた日数は面会はダメだと言われてのう……」
花凛の義理の祖父は現在施設に入所中。帰ってすぐに会いに行こうとしたのだが、施設内で流行った感染症に罹り今日まで面会が出来なかったのだ。
3年前、義祖母が亡くなり義祖父は自ら施設に入所した。夫婦のどちらか1人になったら施設に入り、義息子家族に迷惑をかけないと夫婦で決めていたそうだった。
「でも元気な姿を見られて本当良かった。それに家に帰っておじいちゃんが居ないとなんだか変な感じだったよ」
「まあそれは、ある程度距離があるから思える事じゃ。迷惑をかけて嫌になられてからでは悲しいからの」
そう言って義祖父は寂しそうに笑った。
実の娘を失い、仲が良くても義理の息子夫婦と暮らしはそれなりに気を使ったのだろう。
「それよりも、花凛。今回お前が季節外れに帰ったのは……やはり『力』の件か? 『力』を得た、という事なのだな?」
義祖父は真面目な顔でそう切り出した。
義祖父は末席とはいえ鞍馬の人間。当然『力』の件は知っている。……そして、花凛が『養女』だという事も。
「おじいちゃん……。私が八千代様の孫だって事、知ってたんだよね?」
義祖父は少し困ったような顔になった。
「まあ、それはのう……。お前が私達の家に預けられる事になるとは当時は思いもしなかったがな。まあ『木は森の中に隠せ』というからなあ」
「おじいちゃんは、その……八千代様の次男の事も知ってるの?」
「勿論じゃ。八千代様や東家北家の当主方は当時治仁君……花凛の父親とその母親の事を必死で隠しておったがな。……ワシは偶然2人の隠れ住む家の近くに行く機会があったのでそこで知る事になった。おそらく他の者で知る者は少ないだろうし篤之君やその家族の方々は本当に知らないようだった。……そして、あの事件だ」
そう言って義祖父は表情を強張らせた。
花凛はドキリとする。
「───あの事件?」
「…………そうだ。花凛、お前が両親を失い我が家に来る事になった原因だ。八千代様の次男治仁君とその妻アオイさんが『妖』に襲われた、あの恐ろしい事件だ。……お前がまだ生まれて2、3ヶ月の頃の事だ」
花凛は東家のお婆様が話してくれなかった『妖が関わる事件』とはこの事だったのだと気付いた。お婆様が話そうとしなかったその事件の内容をしかし義祖父は隠すつもりはないらしく、淡々と話し出した。
───約30年前。
八千代の次男治仁は妻アオイとの間に生まれた花凛と親子3人でひっそりと幸せに暮らしていた。
元々次代の当主候補として人々に慕われていた治仁の所には、親から絶縁されてもかつての友人達はこっそりと彼を訪ね交流を続けていた。
30歳になる前に愛する人と出会い『力』を得る事なく結婚した治仁。本家の当主争いから離れ、このまま密やかに穏やかに家族で暮らしていく事を望んでいたようだった。
……そんなある日。
鞍馬一族である程度の『力』を持つ者は、その日大きな『闇』が蠢くのを感じた。しかしその時はそれが何処で起こっているかまでは分からず、30分程でそれは消えた。
それから暫くして、治仁の家を訪ねるとそこには……大量の血痕と恐ろしい『闇』の気配が残り、その家に居たはずの治仁一家は忽然と姿を消していた。
治仁の友人達は気付いた。
……あの時の、あの大きな『闇』の気配。
おそらくアレは、この家を……治仁達を襲ったのだ、と。
その事は、治仁と懇意にしていた限られた人達の中で話題となっていた。
……それから暫くして、鞍馬家分家の末席の家に当主八千代様と北家と東家の当主がやって来た。……その腕に小さな赤子を抱いて。
『お前の鞍馬の血縁でない義息子には最近思い人がいるらしいが、相手も鞍馬一族ではないのだろう。本来ならばその女性と結婚するのならこの鞍馬を離れなければならないが、一つ条件を呑むのならこのまま鞍馬としての生活を叶えてやっても良い』
その条件とは治仁の子を密かに自分たちの本当の子として育てること。すると意外にも義息子達はその条件を快諾した。嫌がるのではないかと思った義息子の新しい妻もその子を愛情深く育ててくれた……。
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