30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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隼人襲来!

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「……え? 隼人? なんでここに?
てか、何言ってるの! 突然入って来るなんてどういうつもりなの!?」


 突然店の個室に入って来た隼人に驚き、花凛はかなり動揺して彼を見た。しかし隼人はかなり興奮気味に花凛を責めてきた。


「お前がそんな目立つ男と一緒に歩いてたのを見かけたから、心配で後をつけて来たんだよ! ……何が2人でお互いを知り合いましょう、だよ! お前には俺がいるだろう!」

「はあ? 隼人と私はただの同僚だよね!? そもそも関係がないし、何よりこちらの方にも失礼だとは思わないの!?」


 隼人の発言に花凛は訳が分からずそう言った。しかも関係のない第三者である佑磨まで変な誤解で絡まないで欲しい。


「……その男を……、庇うんだな。……俺を……俺をお前も捨てるのか……」


 不意に隼人の雰囲気が変わった気がして花凛は隼人をよく見た。……なんだろう、何か嫌な感じがする。見知った隼人が違う何かになってしまったような……。


「……ッ! 花凛、離れろ!」


 目の前で繰り広げられていた痴話喧嘩に近いような言い合いを初め黙って見ていた佑磨だったが、相手の男の雰囲気が変わった事で異変を察し一気に警戒態勢になった。


『花凛……どうして俺から離れていくんだ……。俺はお前が1番大事なのに……。許さない……、俺から離れていったお前も……俺をこんな目にあわせる原因を作った、あの女も……!』


 隼人の周りにだんだん黒い煙のようなモノが広かっていく。


「ちょっ……!! どうしたの! 隼人! 何か変だよ?」


 佑磨は隼人に近寄ろうとする花凛を強引に自分の方に引き寄せた。


「うわっ! ちょ、何するんですか、また隼人に誤解されちゃうじゃないですか!」

「だからアンタは! 奴から離れろって言ってるのに……!」

「いやいや、なんだか隼人がおかしいんですよ? あ、彼は私と同じ会社の同期で杉沢隼人といいまして……」

「今人物紹介してる場合か! よく奴を見てみろ!」


 なんですと? と思いつつ花凛が隼人を見ると……。


「ッ!! はや……と?」


 杉沢隼人は黒い霧のようなモノに包まれ、寄り添い合うような花凛と佑磨を仄暗い目で見ていた。


『花凛……、ユルサナイ……。俺カラハナレルナンテ……ユルサナイ!!』


 黒い霧のように成り果てた隼人は、そう言って黒い煙のようなモノをで花凛に向けてきた。


「ッ! 隼人!?」


 花凛は信じられない思いで隼人を見た。……違う。アレは隼人であって隼人じゃない。アレは……まさか黒い霧……『妖』なの?


 花凛は隼人の攻撃を反射的に『力』で跳ね返した。……三郎太先生仕込みの修行の成果である。


「花凛。……やっぱりそうだったか」


 花凛を助けるべく力を放とうとしていた佑磨は、素早く『妖』の力を跳ね返した花凛を少し驚いた目で見つめた。


「佑磨さん。とりあえずその話はまた後で!
……隼人! 私の声が聞こえないの!? アンタいつか自分の力で上に上り詰めてやるって入社した時から言ってたじゃない! そんなモノに負けちゃっていいの!?」


『グ……ッ。……ユ……ユルサナイ……、カリンモ……アノオンナモ……!」


 今度は黒い鞭のようなモノが飛んできた。勿論、それも花凛は跳ね返す。


 ……三郎太先生仕込みの技を舐めるんじゃないわよ! ……初めから最後まで、瑞季も加わってとんでもないハードモードだったんだからね!

 つい1週間前までの、あの辛い修行の日々を思い出しながら次々と繰り出される攻撃を返し続けた。


 ……攻撃を返すだけではダメだわ。でもこちらから攻撃したら隼人はどうなるの?


 花凛は黒い霧と同化した隼人が心配になって彼をじっと見た。


「……花凛、座れ!」


 その時後ろから佑磨の声が聞こえて花凛は隼人の動きを見据えながらも慌てて座る。すると、後ろから光の矢が隼人目掛けて放たれた。


「ッ! 隼人!!」


 光の矢は隼人の胸の辺りに当たり、黒い霧は霧散する。

 ───暫くして、黒いモノが無くなった隼人はガクリと倒れた。


「隼人! ……隼人! 大丈夫!?」


 花凛は倒れ込む隼人に駆け寄り息をしているか確かめる。


 ……生きてる。良かった、気を失っているだけなのかしら。

 けれど隼人の顔を見ると随分消耗しているような、生気を失って一気にやつれたように感じた。

 花凛は隼人の胸にそっと手を当てる。


 ……隼人の心が健やかになりますように。身体も良くなりますように。


 そう願いながら光の魔法をかける。

 隼人の身体がふわりと優しい光に包まれて消えた。

 その風景に、佑磨は目を見開いて驚く。


「う……」


 隼人がゆっくりと目を覚ましたので花凛は彼の身体が心配で呼びかけた。


「隼人! 大丈夫?」

「ッ。……花凛……? どうして……、ッ! 俺……俺とんでもない事を……!」


 仄暗い目をしていた隼人は、いつもの彼に戻っていた。



 

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