30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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心の整理

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 目を覚ました隼人はガバリと起き上がった。


「……ごめん!! 花凛。……俺、花凛がその男性と歩いていくのを見て我慢ならなくなって……。……元はといえば俺が変な欲を出してお前の気持ちを裏切ったからなんだよな。それなのに、もう一度あの関係に戻りたいなんて勝手な事を……」

「……隼人。私達、付き合ってた訳じゃないんだから謝ってもらう必要ない。……でも隼人と私は友達以上にはなれないって思ってる」

「花凛……、でも俺は……!」

「隼人の気持ちは別の人が現れたら揺らぐ程度のもので、私の気持ちも一度離れた隼人をもう許せない程度のものだった。……お互い、その程度だったんだよ。私達が付き合わなかったのは必然だった」


 花凛は今まで隼人との関係で考え抜いて辿り着いた答えを口にした。
 惹かれ合っていると思っていた隼人が他の女性の所に行って、悩まなかったはずがない。……本当は、ずっと苦しかった。同じ部署内で2人が一緒に居るのを見ているのが。自分の誘いを断って彼女と出掛けて行く彼を見るのが───。

 幸い花凛の部署の仲間達はそんな花凛をいつも気遣ってくれた。そんなみんなの気持ちに応えるべく、花凛はだんだん隼人を吹っ切り別の未来へと向かっていけたのだ。


 そんな中花凛は今は都市伝説の如く『魔法使い』となり、更に違う方向に向かっている訳だが。

 それは花凛を魔法使いとして目覚めさせる為に西園寺咲良が動いたから。しかしそのせいで花凛が心に傷を負ったのだとしたら、どちらが良かったのかは分からなくはなるけれど。

 ……だけど結局は、2人の気持ちは咲良1人の存在で壊れる程度のものだった。……それに尽きるのだろう。


「……だから、隼人と私はこれからもただの同僚。友人ではあるけれど、あの時のようには決してもうなれない。
……さ、立って、隼人! もう大丈夫? 一人で帰れるわよね?」


 隼人は少し涙目で花凛を見て……そして言った。


「───ごめん、花凛。あの時の俺の弱さで、こうなる事はもう決まってたんだよな。それなのに悪足掻きして……、本当に済まなかった!
……あの、貴方にも、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!」


 吹っ切れたのか、隼人は以前のようにハキハキと2人に謝罪した。


「───いや、俺は気にしてない」


「ほら! 気にしてないって! 良かったね、隼人。私も……うん、気にしてないよ。また明日からよろしくね。……あ、でも周りのみんなは隼人を私に近付けないようにしてくれると思うんだけど」

「……それは、仕方ないと思う。暫く大人しくしてるよ。もう少し気持ちが落ち着いたらまた良き仲間として接してくれたら嬉しい。……本当にごめんな!
……失礼しました!」


 隼人は最後佑磨を見てそう言って頭を下げてから出て行った。



「……行ったな」

「───そうですね」


 ホッとしたような、ほんの少し切ないような……。
 隼人と共に過ごした、会社に入って出会ってからの事が走馬灯の様に花凛の中で流れた。


 花凛がそんな思いに浸っていると、隣から不意に爆弾発言が落とされた。


「そして、アンタもやっぱり『魔法使い』だったんだな」


「───ッ!」


 ───そうだった。私ったら佑磨さんの前で、堂々と魔法使っちゃってましたね!


 花凛は今更ながらそれに気付き、そろりと佑磨を見る。彼はジッと花凛を見ていた。どくりと心臓が鳴り冷や汗が流れる。


 ───まだ、隠しておくつもりだったのに! 隼人があんな風になっちゃうから、つい、反射的に三郎太先生仕込みの技が出ちゃった!
 ……しかし、私は認めないっ!


「……えー? なんの事ですかねー?」

「いや、とぼけてもムダだろ。目の前であんなに『力』を使っておいて」


 …………ですよねー。

 ひきつり笑いする花凛を、佑磨は席に座るよう促した。
 その時、丁度注文した料理が運ばれてきた。2人は無言で並べられる料理を見つめる。

 佑磨は余裕のある態度だが花凛はダラダラと冷や汗をかいていた。


 ……しまったなぁ。あのまま隼人を送って帰ってしまえば良かったんだわ……。

 でも2人の中で解決したとはいえ、まだ隼人と2人きりになるのは気まずかった。
 それに今日は佑磨とこの『力』やお互いの事について話し合う為に来たのだから。


 料理を並べ終え、店員は部屋を出て行く。

 暫く2人は黙っていたが、先に動いたのは花凛。


「あの、せっかくお料理が来たのでいただきましょうか! っいっただきまーす!」


 先手必勝! とばかりに花凛は料理に手をつけ出す。この店のオススメは『本日の創作和定食セット』。どれも美味しくて花凛のお気に入りだ。

 花凛が元気よく食べ出したので、佑磨も無表情で目の前の皿に乗ったモノをパクリと口にする。


「……美味いな」


 それを聞いた花凛はパァっと笑った。


「そうでしょう! ここのお料理はどれも美味しくって大好きなの。これなんかもパリッとしてて食感も楽しくて……」


 次から次へと楽しげに料理の紹介をする花凛の話を聞きながら佑磨も感心したように食べていく。

 そんな風に食事を楽しんだ後、2人は食後にコーヒーをいただく。


「佑磨さん。本当にお酒は良かったんですか?」

「ああ。花凛も男と2人で食事するのに酒なんか飲んだら危ないだろう」

「……あ、だから最初からお酒なしでって言ってくれてたんですね」


 花凛は成る程と感心した。……佑磨は紳士だった。

 食事のマナーも綺麗だし、何より食べ物を美味しそうに食べている。……人参が苦手なようでそっと横に避けてはいたが、『嫌い』とか『不味い』とかそんな余計な言葉は一切出ない。一緒に食事をするのが心地よい人だなと花凛は思った。

 そんな心地よい雰囲気を味わっていたけれど、今日は佑磨と『魔法使い』についての話をする為に来たのだ。


「……あの。先日も今日も、色々ありがとうございました」


 花凛はそうお礼を言って頭を下げた。





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