30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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心配と打算

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 佑磨との食事から帰った花凛がマンションの自分の部屋の玄関の扉を閉めようとすると、隣からバタバタと足音がして扉をガシリと掴まれる。


「ッ花凛!! お前こんなに遅くなるなら連絡いれろよ、心配するだろーが!」


 ……奏多だった。


「ちょっと! 危ないでしょ、危うく奏多さんの指挟むところだったよ? てか、付き合いで食事して帰る事もあるよ。それに私、奏多さんの連絡先知らないもの」


「…………あ、そうだった。いやでも、昨日の内に話してくれれば!」


「私の予定全部奏多さんに教える訳ないでしょー? 
……あ。そういえば今日の朝ご飯どうしたの? ちゃんとお店に辿り着けた?」


 とりあえず玄関先ではなんなので、2人は花凛の部屋に入りながら話をする。


「うっ……。あれからあちこち彷徨って……って、花凛! 何笑ってんだよ! 大変だったんだぞ」


 花凛は笑いながら奏多にテーブルの前のクッションに座るように勧めた。


「……ごめんごめん。でもスマホでマップ見たら分かるだろうに、……あーそういえば奏多さん小学校の遠足で遭難騒ぎ起こしてたよね。今も方向音痴だったんだね」

「お前……、俺の黒歴史を……!」


 『はいはい』、と言いながら花凛は荷物と上着を置いた後、奏多にお茶を出した。


「まあとりあえず、連絡先の交換をして……。あ、奏多さん夕ご飯はちゃんと食べた?」


 花凛は初めての一人暮らしの奏多が心配で尋ねた。


「子供扱いするなよ。ちゃんと自分の事は自分で出来る。……それより八千代様から連絡があって、もうすぐ花凛が例の『黒い霧』から助けてくれた奴と会うって話を聞いたんだけど。……俺も当然ついて行くからな」


「あ。ごめん、今日はその相手と会ってた」


「……おいおいおい! 花凛の側近として護りを任されている俺を置いていくなよー!」


 奏多はかなり悔しがったが、会ってしまったものは仕方がない。


「だってやっと今日都合が合ったんだもの。
それから今日は色々あってね……」


 花凛は一族で共有すべき問題だとして、奏多に自分の同僚が『黒い霧』に支配された事、それをまた『佑磨』が祓ってくれた事……。そして花凛の働く会社の親会社の一族が『ハグレ鞍馬』であるだろう事を話した。


「マジか……。『西園寺グループ』っていえば戦後頭角を現したデカい会社じゃないか。
まあ『力』を使ってたなら急速に大きくなったのも理解出来るか……。
『西園寺』……やはり『西家』のハグれと考えてよさそうだな」

「やっぱりそう思う? どこの家からとかは私は詳しくは分からないんだけど……。ただ三郎太先生から西家の話はチラッと聞いたよ」
 
「それなりの『力』を持ってて1番最近に出て行ったのは、その西家くらいだと聞いている。……ああそれと……いや、まあそのくらいだな」


 途中奏多が言葉を濁した。


「? 奏多さん、今何か誤魔化さなかった?」

「あーいや、細かい人まで話しても仕方ないかなって。ある程度の人数で出ていかないと、一族以外の人間と結婚してたらすぐに血が薄まって力も弱くなるだけだから」


「ふーん? まあそうなるよね」


 ……何かを誤魔化した訳じゃないのかな? 花凛はとりあえず奏多の話に頷いた。


「そーだろ? 俺の知り合いで末席に近い分家から出て一族以外と結婚した人の息子がいたんだけど、散々苦労して30才まで純潔を守ったのに目覚めた力はカーテンを揺らすくらいだってガッカリしてたよ」

「えー? そこまで弱くなっちゃうんだ。じゃあ本家や四家がこれだけの『力』を守ってるのはすごい事なんだね」


 東家のお婆様が『鞍馬の力は血の力』と言っていたけれど、本当にそういう事なんだと奏多の話に花凛は一応納得した。


「……だから一族はずっとあの鞍馬の街に残って血を守り続けてるんだろうな。それでも伝え聞く始祖様の時代からは随分と弱くなってるみたいだけど」


 なるほどねーと言いながら花凛は何かおつまみでも作ろうと席を立った。


 ……そんな花凛の後ろ姿を見ながら奏多は思う。


 ───だからこそ、花凛がこれだけの力を持つのは母親が一族の人間だったという事だ。
 その昔には本家の人間でも一族以外の女性と一緒になるとその子供の力は半分程に減っていたと聞く。

 それが花凛の力は南家当主の父をも軽く抑え込んでいる。少なくとも祖母八千代程の力を持っているのだ。

 
「はい、どうぞ。簡単なものだけど。奏多さん、初の一人暮らしで栄養偏らないように気を付けてね。好きな物ばかり食べてちゃダメよ」


 花凛が出したのはキャベツのナムル。
 奏多は一口パクリと食べてみる。


「……上手い」

「ふふー。そうでしょう! コレ、簡単だから覚えるといいよ。料理の出来る男はモテるよー」


 そう言ってフワリと笑う花凛。
 ……テーブルにさり気なく出された食事に2人の間に流れる飾らない温かな雰囲気。
 
 奏多はこういうのも悪くないな、と自然に思った。


「俺は出来なくてもモテてる。まあ、出来たらもっとモテるだろうな。……モテ過ぎたら困るから、ここに来て食べてやる」


 奏多の発言に花凛はキョトンとする。
 学生時代の奏多は優等生で冷たい雰囲気だった。こんな若干軽い意味の分からない発言なんてするようには見えなかったのに。


「え。イヤイヤ……。奏多さん、一応私の側近候補なんでしょう? なんで側近がその主人に料理してもらって食べる設定なの」

「花凛は当主になるのは嫌なんだろう? じゃあ俺の側にいればいいじゃん。結婚すれば万事解決だろ?」

「……は? 何言ってるの? つい昨日『今更ない』って断言してたじゃない。それに奏多さんは瑞季が好きなんじゃなかったの?」


 ……それになんだ、その全く色気のないプロポーズもどきは!! 花凛は少しイラッとした。


「瑞季の事は……、まあ好きだと思ってたけど婚約者がいるのは分かってたからダメ元でいってたんだよな。とにかくこれまでは『力』の強い女子が良かったんだよ」

「ストップ! それは瑞季にも私にも失礼だからね? そりゃ鞍馬一族としてはそういうのも考えなきゃいけないのはあるんだろうけど、それだけで結婚なんて出来ないんだから」

「……それは瑞季からも八千代様からもキツく言われた。それに少し前までは花凛とは絶対ないと思ってた。けど……。
今は意外に上手くいくんじゃないかと思ってる。こんな風にさり気なく美味い料理出してくれたりとか、結構グッとくる」


 やはり、婚約者のいる瑞稀に付き纏った事で八千代様からもお叱りを受けたらしい。
 ……でもそこからどうしてそうなる。


「それは幻想だよ? てか、こんなお手軽料理でグッとくるなんて奏多さんの胃袋チョロすぎない? まあとにかく、今も会えば口喧嘩っぽくなっちゃうし昔はお互い毛嫌いしてた。それが結婚なんて絶対あり得ないから」


 今のこんな関係での結婚も悪くないと思いかけている奏多は少しガッカリした。

 ……今奏多は実のところは花凛は自分にとって結婚するのに1番都合のいい相手、と考え始めている。打算的なのは自覚しているが条件も申し分なく、更に居心地のいい相手を選ぼうとするのは当然だろうと奏多は思う。


 

 
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