30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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楓との邂逅

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「……鞍馬さん。実は先ほどまた社長室から君に呼び出しがあってね……」


 事務所で仕事をしていると、係長がゲンナリした顔で言った。
 ……またか。コレ、係長も社長をパワハラだって責めてもいいんじゃないかしら?


 ここで自分が嫌がったりすると余計に係長が可哀想なので、花凛はひきつり笑いをしながら仕方なく素直に席を立つ。 

 そこに健二君が駆け寄り声をかけて来た。


「──鞍馬さん、大丈夫ですか?」


 花凛はその声にドキリとする。


「あーまー、うん。大丈夫でしょう! ちゃちゃーっと行って来るね!」


 昨日健二君にも告白めいた事を言われたばかりなのだ。……なんとなく意識してしまう。


 そして心配そうにこちらを見る健二君や他のみんなに見送られて、とりあえず笑顔で事務所を出た。



 ───そして、社長室の前。


 ……今まで全然ご縁のない場所だったのに、どうしてこんなに通う事になっちゃうかなぁ……。

 花凛は社長室の扉を見てため息を吐いてから思い切ってノックをした。


 扉を開けたのはいつもの秘書の男性。何故か今日はその顔に困惑が見受けられた。


「鞍馬さん……。度々申し訳ございません。今回は、その……」


 ……うん? 珍しく歯切れが悪いな?


 そう思いながら開かれた扉の部屋の中をチラリと見ると、そこには年齢不詳の美魔女がいた。

 明らかに高級ブランドのお洒落な服を着こなし、美しいネイルのついた手を首を傾げながら頬に添えてこちらを見ている。


 ……あー、すごく値踏みされてる感じ。


 そしてこちらを観察するような視線を送りながら彼女は言った。


「何しているの? 早く入っていらっしゃいな」


 美魔女はそう言うが、花凛は何度か来たこの社長室の何ともいえない違和感に気付いていた。


 ……この部屋……。この女性の『力』が覆ってるよね。この中はこの女性の思うように出来る空間……てとこかな?

 ここは入るべき? でも彼女のテリトリーにわざわざダイブするなんて……。
 ……ダイブ? じゃあ海に潜ったりもしくは宇宙空間みたいに自分の身体を潜水服か宇宙服みたいな『力』で覆ったらいいんじゃない?


 うん、いい考えだと自分で満足しながら、花凛は自分の身体を『力』で覆うイメージをする。……フワリ、と身体全体に力を纏わせられたと感じた。


 前を見ると、女性は花凛を睨むように見ていた。
 ……私ってこの女性とも初対面だと思うのだれけど、どうしてこんなに憎まれてるのかしら。ちょっと落ち込んでしまうわ。


「───失礼します」


 思い切って社長室……その空間に入ると、何かの境界線をくぐったような感覚があった。


「───?」


 この女性も何か違和感を感じた顔をしている。


 ……私が自分の『力』を纏った状態である事に気付かれたかな? まあいいけれど。


 花凛の身体の周りは『力』で覆われているので、この女性の力の影響はおそらく受けていない。


「───失礼いたします。お呼びと聞き参りました」


 社長の席の前の女性は花凛の力の違和感を感じていたのか最初少し怪訝な顔をしたものの、すぐに余裕のある微笑みを見せた。
 そしてその後ろから社長が言った。


「よく来てくれた、鞍馬君。……こちらはこの西園寺グループの総帥の夫人である、西園寺楓様だ。君の為にわざわざおいでくださったのだ。ご挨拶を」


 今回社長はホスト役に徹するようだ。少し緊張した様子で応接セットのソファーにかけるように勧めてきた。


「鞍馬花凛です。お会い出来て光栄です」


 花凛はそう言って礼をしてから勧められるままソファーに座る。……本当は余りお会いしたくはなかったなとは思う。この西園寺楓からはどちらかというと敵意に近い、そして見下すような雰囲気を感じるから。

 西園寺家が『ハグレ鞍馬』だとするならば、彼女は本拠地の鞍馬である花凛を尊重しようとするはずなのだが……。それをしないという事は、彼女は鞍馬一族との関わりを望んでいない側の人間ということ?


 花凛は楓の様子をよく見ながら彼女の対応を待つ。


「……貴女が鞍馬花凛さん。咲良が大変ご迷惑をかけたようで申し訳のない事をいたしましたわ」


 意外にも普通の謝罪だったので、花凛は少し拍子抜けする。前回の社長は全く謝罪になっていない謝罪だったから。


「いいえ。気にしておりません。……咲良さんにもそうお伝えください」


 昨日の奏多との話で咲良の思いを少し理解した花凛は、そう言ってこれでこの件は終わりにしたいと考えていた。


「───まあ、優しいのね。以前咲良本人に会った時は随分と怒っていたようだと報告を受けているのだけれど? それともそれは佑磨の気を引くための演技なのかしら?」


 ……ん? 今なんて言ったこの人。佑磨さんの気を引く?


「佑磨さんをご存知なのですか?」


「ええそれは勿論。だって私はあの子の母親ですもの」


「───え?」


 花凛は思わずその女性──西園寺楓を凝視した。──確かに似てるかも。その美しい目や醸し出す高貴な雰囲気が……。
 それに佑磨も咲良のいとこだと言っていたではないか。






 



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