30歳、魔法使いになりました。

本見りん

文字の大きさ
48 / 97

『防御』は最大の『攻撃』です?

しおりを挟む


 ……ん? それで佑磨さんのお母様はなんて言った? 『佑磨さんの気を引く』? イヤイヤ……、それは違いますから!


「……先日から佑磨さんには色々助けていただきありがとうございました。それで……私が佑磨さんの気を引く、ですか? 確かに昨夜一緒にお食事をさせていただきましたが、それは助けていただいた御礼の為でそのような事は一切しておりませんが……」


 ……もしかして、『お母様』的には可愛い息子と食事する事もアウトになるのだろうか? 佑磨さんは30歳を超えた大人なのに、それは過保護が過ぎやしないだろうか?


「そんな事はなんとでも言えるわね。全く……、血縁関係もないのに『鞍馬』を名乗るような家の娘は本当に面の皮が厚いわね。……咲良もとばっちりを受けて可哀想に」


 ……うん? ちょっと待って。

 私は対外的には『鞍馬家の血を引かない家』の娘だから、一つ目はまあ表面上は合ってる。何故この人が鞍馬の里の内情を知っているのか疑問だし、我が家は悪い事をした訳ではないんだけれど。

 けれど、『咲良も可哀想に』、はなに?
 咲良さんが辛い思いをしたのであろう事は昨日奏多さんに指摘されて分かったけれど、それが私のせいで可哀想な事になった、とまでされるのは如何なものだろうか!? 結果『力』を得た事は良かったのだろうけれど、咲良さんのした事は私が望んだ事では決してない。


「……咲良さんの事が私のせいだと仰るんですか?」


 花凛は出来るだけ冷静に言ったつもりだったが、怒りを募らせていたのは向こうも同じらしかった。


「……まあ、その言い方! やはり鞍馬の血が流れていない娘は物事の良し悪しが分からないのね。身分が上の者に逆らうなんて!」


 ……随分な言われようだわ。
 だけど、実は私は鞍馬の血を引いてるんですけどねー。まあそんな事言うつもりはないけれど。


「そうですか。それは失礼いたしました」


 ……これ以上咲良さんの事で私が何を言ってもこの人は多分納得しない。身分が下の者は上に反論する事も許さないと思っているようだもの。これは話をするだけ無駄なのだわ。

 そう察した花凛はそれ以上反論せず、こちらを呼び出した用件を聞く態勢に入る。

 楓はその様子を見てこちらが何も言えなくなったと思ったのか勝ち誇ったように微笑んだ。


「───ふ。いいわ。私がその生意気なあなたを教育し直して差し上げるわ!」


 そう言った次の瞬間、楓の瞳は金色になった。


「……!?」


 花凛は話を聞く態勢から素早く臨戦態勢に切り替えた。

 部屋の空気感がさっと変わった気がした。


 ……鞍馬の血を引かないと思っている一般人に、力を使う訳!? 力で私を思い通りに動かすつもりなの?


 楓は自分の『力』でこの部屋の空間を彼女の支配下においていた。そしてそれを操作し目の前の花凛を催眠状態……自分のいう事を聞く操り人形とするつもりだった。


 ───だが、いくら楓がその力を使おうとしても、目の前の花凛に全く効いていない。


「……!? なに、いったい何故私の力が効かないの!?」


 楓はこの事実を受け入れられず、大きく動揺した。どくどくと心臓が鳴る。
 ……そして、思い出したくない過去を思い出していた。


 ───この無力感。そしてこの限りない絶望感。

 ……そうだ。昔感じた事があるではないか。自分の無力さを痛感させられ、いかに自分がちっぽけな人間であるかを思い知らされた事が。───あの、『祠』の中で。
 この三十数年は思い通りになっていたから思い出さずにいられたのだ。

 私はいったいどうしてそれを忘れていたのだろう───。それであの時自分の力の大半と鞍馬での生活を失ったというのに。


 次第に恐怖と絶望感で楓の手足はガクガクと震え、思わず膝をついた。の恐怖が楓を襲っていた。


 花凛は楓の様子に驚く。……実のところは花凛は力で自身の身体を守っているだけで、それ以上は何もしていなかった。楓の攻撃は防御している花凛にはなんのダメージも与えてはいなかった。
 花凛は何かをしようとしていた楓を警戒しつつ静観していたが、その内顔色が悪くなって震え出し膝を付いた事で彼女が何かの発作を起こしたのかと心配し立ち上がった。

 そして花凛よりも楓の状況に驚き動いたのはこの会社の社長、西崎だった。


「西園寺様!! ───お前ぇッ! いったい奥様に何をしたッ!」


 社長西崎は楓の様子を見て花凛を睨み付け、掴み掛かろうと手を伸ばした。


 バチッ……
「うおぉッ!」

 掴み掛かろうとしたその瞬間花凛の周りに纏わせている力によって、社長は弾き飛ばされた。


 ……あらら……。身体に力を纏わす方法って、意外に最強なのかも。今度三郎太先生に報告しよう。

 などと考えながら、花凛は膝をつき茫然とする楓に手を伸ばす。


「───大丈夫ですか?」


 そう声をかけると、楓はびくりと身体を震わせ更に顔が青褪めた。


 ……あ、さっき社長が私に触れて弾かれたからかしら。


 そう思った花凛は自分の力を解除しようとそのイメージをする。


「ッ!?」


 すると一緒にこの部屋に張られた楓の力も解除された。

 楓も社長もそして秘書もそれに気付いたのか、驚いた顔をした後一斉に花凛を見た。


 ……しまった。一緒にこの人の魔法まで消えちゃった! 今この人達に見られてるのってもしかしてそれに気付かれたから? これって知らんぷりが通用するのかしら?


 そして花凛は改めてひざまづき茫然とこちらを見る楓に手を差し伸べる。


「大丈夫ですか……」

「ッひッ!」

「奥様に触るな……いや触らないでくれぇっ!」


 花凛は楓を気遣っただけなのに、この化け物を見るような対応はいったいなんなのだろうと花凛は少し悲しくなった。


「鞍馬様。……ただ今奥様と社長は気が動転しておりまして……」


 そう取りなしてきたのは、先程からこの部屋の隅で控えていた秘書の男性。


「あの……。私は何もしてないですよ?」


 花凛は両手をあげて無実だというジェスチャーをしながら秘書に言った。


「…………そうですね。鞍馬様は奥様方には何もされてはおりません」


 ……あれ? 何か含みがある言い方よね。でもこれは気にしたら負けよね。


「……奥様はご病気なのですか? 体調がお悪いようですので病院で診ていただいた方がいいのではないでしょうか」


「…………そうですね。どうやらショックで体調が悪くなられたご様子。すぐにかかりつけのお医者様に診ていただきましょう」


 やはりお身体の調子が良くなかったのか。……それで『力』を使ったから余計に発作でも起こしてしまったのかしらね?

 花凛は楓の様子をよく見てみる。まだ震えが止まらないようだ。顔色も悪い。……それは自分に怯えてるからなんて理由では絶対ない、はず。


「……あの、失礼します」


「……何を……!?」


 花凛は戸惑う彼らが動くより素早く昨日隼人にも使った『光』の魔法を使う。
 その光は楓の身体に優しく降り注いだ。

 楓本人は勿論、西崎と秘書川西もそれに驚く。

 光が行き届いた後には、彼女の震えは止まっていた。
 そして西崎社長によって楓はソファーに座らせられる。


「……貴女は、いったい何者なの?」


 楓は先程までショックで動けなくなっていた身体がすっかり良くなっていた。驚きながらもかろうじてそう尋ねた。


 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...