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『防御』は最大の『攻撃』です?
しおりを挟む……ん? それで佑磨さんのお母様はなんて言った? 『佑磨さんの気を引く』? イヤイヤ……、それは違いますから!
「……先日から佑磨さんには色々助けていただきありがとうございました。それで……私が佑磨さんの気を引く、ですか? 確かに昨夜一緒にお食事をさせていただきましたが、それは助けていただいた御礼の為でそのような事は一切しておりませんが……」
……もしかして、『お母様』的には可愛い息子と食事する事もアウトになるのだろうか? 佑磨さんは30歳を超えた大人なのに、それは過保護が過ぎやしないだろうか?
「そんな事はなんとでも言えるわね。全く……、血縁関係もないのに『鞍馬』を名乗るような家の娘は本当に面の皮が厚いわね。……咲良もとばっちりを受けて可哀想に」
……うん? ちょっと待って。
私は対外的には『鞍馬家の血を引かない家』の娘だから、一つ目はまあ表面上は合ってる。何故この人が鞍馬の里の内情を知っているのか疑問だし、我が家は悪い事をした訳ではないんだけれど。
けれど、『咲良も可哀想に』、はなに?
咲良さんが辛い思いをしたのであろう事は昨日奏多さんに指摘されて分かったけれど、それが私のせいで可哀想な事になった、とまでされるのは如何なものだろうか!? 結果『力』を得た事は良かったのだろうけれど、咲良さんのした事は私が望んだ事では決してない。
「……咲良さんの事が私のせいだと仰るんですか?」
花凛は出来るだけ冷静に言ったつもりだったが、怒りを募らせていたのは向こうも同じらしかった。
「……まあ、その言い方! やはり鞍馬の血が流れていない娘は物事の良し悪しが分からないのね。身分が上の者に逆らうなんて!」
……随分な言われようだわ。
だけど、実は私は鞍馬の血を引いてるんですけどねー。まあそんな事言うつもりはないけれど。
「そうですか。それは失礼いたしました」
……これ以上咲良さんの事で私が何を言ってもこの人は多分納得しない。身分が下の者は上に反論する事も許さないと思っているようだもの。これは話をするだけ無駄なのだわ。
そう察した花凛はそれ以上反論せず、こちらを呼び出した用件を聞く態勢に入る。
楓はその様子を見てこちらが何も言えなくなったと思ったのか勝ち誇ったように微笑んだ。
「───ふ。いいわ。私がその生意気なあなたを教育し直して差し上げるわ!」
そう言った次の瞬間、楓の瞳は金色になった。
「……!?」
花凛は話を聞く態勢から素早く臨戦態勢に切り替えた。
部屋の空気感がさっと変わった気がした。
……鞍馬の血を引かないと思っている一般人に、力を使う訳!? 力で私を思い通りに動かすつもりなの?
楓は自分の『力』でこの部屋の空間を彼女の支配下においていた。そしてそれを操作し目の前の花凛を催眠状態……自分のいう事を聞く操り人形とするつもりだった。
───だが、いくら楓がその力を使おうとしても、目の前の花凛に全く効いていない。
「……!? なに、いったい何故私の力が効かないの!?」
楓はこの事実を受け入れられず、大きく動揺した。どくどくと心臓が鳴る。
……そして、思い出したくない過去を思い出していた。
───この無力感。そしてこの限りない絶望感。
……そうだ。昔感じた事があるではないか。自分の無力さを痛感させられ、いかに自分がちっぽけな人間であるかを思い知らされた事が。───あの、『祠』の中で。
この三十数年は思い通りになっていたから思い出さずにいられたのだ。
私はいったいどうしてそれを忘れていたのだろう───。それであの時自分の力の大半と鞍馬での生活を失ったというのに。
次第に恐怖と絶望感で楓の手足はガクガクと震え、思わず膝をついた。あの時の恐怖が楓を襲っていた。
花凛は楓の様子に驚く。……実のところは花凛は力で自身の身体を守っているだけで、それ以上は何もしていなかった。楓の攻撃は防御している花凛にはなんのダメージも与えてはいなかった。
花凛は何かをしようとしていた楓を警戒しつつ静観していたが、その内顔色が悪くなって震え出し膝を付いた事で彼女が何かの発作を起こしたのかと心配し立ち上がった。
そして花凛よりも楓の状況に驚き動いたのはこの会社の社長、西崎だった。
「西園寺様!! ───お前ぇッ! いったい奥様に何をしたッ!」
社長西崎は楓の様子を見て花凛を睨み付け、掴み掛かろうと手を伸ばした。
バチッ……
「うおぉッ!」
掴み掛かろうとしたその瞬間花凛の周りに纏わせている力によって、社長は弾き飛ばされた。
……あらら……。身体に力を纏わす方法って、意外に最強なのかも。今度三郎太先生に報告しよう。
などと考えながら、花凛は膝をつき茫然とする楓に手を伸ばす。
「───大丈夫ですか?」
そう声をかけると、楓はびくりと身体を震わせ更に顔が青褪めた。
……あ、さっき社長が私に触れて弾かれたからかしら。
そう思った花凛は自分の力を解除しようとそのイメージをする。
「ッ!?」
すると一緒にこの部屋に張られた楓の力も解除された。
楓も社長もそして秘書もそれに気付いたのか、驚いた顔をした後一斉に花凛を見た。
……しまった。一緒にこの人の魔法まで消えちゃった! 今この人達に見られてるのってもしかしてそれに気付かれたから? これって知らんぷりが通用するのかしら?
そして花凛は改めてひざまづき茫然とこちらを見る楓に手を差し伸べる。
「大丈夫ですか……」
「ッひッ!」
「奥様に触るな……いや触らないでくれぇっ!」
花凛は楓を気遣っただけなのに、この化け物を見るような対応はいったいなんなのだろうと花凛は少し悲しくなった。
「鞍馬様。……ただ今奥様と社長は気が動転しておりまして……」
そう取りなしてきたのは、先程からこの部屋の隅で控えていた秘書の男性。
「あの……。私は何もしてないですよ?」
花凛は両手をあげて無実だというジェスチャーをしながら秘書に言った。
「…………そうですね。鞍馬様は奥様方には何もされてはおりません」
……あれ? 何か含みがある言い方よね。でもこれは気にしたら負けよね。
「……奥様はご病気なのですか? 体調がお悪いようですので病院で診ていただいた方がいいのではないでしょうか」
「…………そうですね。どうやらショックで体調が悪くなられたご様子。すぐにかかりつけのお医者様に診ていただきましょう」
やはりお身体の調子が良くなかったのか。……それで『力』を使ったから余計に発作でも起こしてしまったのかしらね?
花凛は楓の様子をよく見てみる。まだ震えが止まらないようだ。顔色も悪い。……それは自分に怯えてるからなんて理由では絶対ない、はず。
「……あの、失礼します」
「……何を……!?」
花凛は戸惑う彼らが動くより素早く昨日隼人にも使った『光』の魔法を使う。
その光は楓の身体に優しく降り注いだ。
楓本人は勿論、西崎と秘書川西もそれに驚く。
光が行き届いた後には、彼女の震えは止まっていた。
そして西崎社長によって楓はソファーに座らせられる。
「……貴女は、いったい何者なの?」
楓は先程までショックで動けなくなっていた身体がすっかり良くなっていた。驚きながらもかろうじてそう尋ねた。
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