30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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『祠』での攻防

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 ───花凛は奏多のプロポーズ的なアピール発言に内心かなり動揺しながらも、奏多の跡をついて整備された山道を『祠』に向かって歩く。

 あれから少し照れたような奏多はそれ以上は何も言わなかった。そして花凛も何も言えずにいた。


 ……奏多さんは本気、……なのかな。
 確かに鞍馬の力の事を考えれば私は鞍馬一族の誰かと結婚する事が望ましいんだろうけど……。


 花凛はそう考えながら奏多の背中を見つめた。するとピタリと奏多は足を止めた。


 ぼふっ
「ぶっ!」


 考え事をしていた花凛は奏多の背中にぶつかる。しかし防御の力のお陰でダメージがある訳ではない。透明のクッションにぶつかった感じだ。


「何してんだよ、花凛。……俺に抱きつきたいなら力を解除しろよ」

「は? 何言ってるの、奏多さん! ……て、あれが……?」


 奏多の背中の向こうには、岩場の前に作られた立派な祠があった。


「……そうだ。ここが始祖様の末の孫様の封じられた『祠』。……一族の者なら子供の頃に必ず連れてこられる場所だ。……結構立派だろう?」


 岩場の前に立つ立派な大きな一枚の大岩。よく見ると石碑になっていて、文字が彫られている。その奥にかなり古いが立派な祠があり、そして横には大小の石が置かれていた。


「───うん。こんなに立派なものだとは思わなかったよ」


「この周りの石が当時末の孫様と戦って命を落とした方々の墓でもある。その中で1番大きいこの石が……末の孫様の双子の妹の墓だ」


 そう言ってその末の孫様の妹の石に手を合わせる奏多を花凛は不思議に思う。


「……? ねぇ奏多さん。ここにある他の石の方々も同じ様に末の孫様と戦ったんでしょう? どうしてその妹様を先に拝むの?」


「ん? ああ、どうしてって妹様は末の孫様と一緒にこの祠に封じられたから。始祖様は妹様が兄を押さえたその隙に2人を一緒に封じたんだよ。……だから始祖様は最期までそれを悔やんでおられた。それが後世にまで伝わってるんだ」

「妹様も一緒に? じゃあ、ずっとこの祠に何もしていない妹様も封じられて……?」

「───そうだ。だからここに来る時は皆、先に妹様の墓を拝むんだ」

「……そんな……。それはあまりにも悲しすぎるよね……」


 花凛は胸の痛みを抑えながら、妹様の石に手を合わせて心から冥福を祈った。


「───さ。それじゃあこの辺りを掃除してしっかり祠にお参りしようか」

「───うん」


 そう言って2人は祠の周りを掃除した。しかし普段からきちんと整備されているので、それはそれ程時間はかからない。


「……うん。綺麗になったな。じゃあ拝もうか」

「そうだね……、……?」


 花凛は後ろに何か気配を感じて振り向いた。


 ───そこには、もやった黒い霧のようなものがあった。


「ッ! 奏多さん、後ろ!」

「ッ!? 『妖』! こんな所に!?」


 奏多は素早く花凛の手前に立ち臨戦態勢になる。


「───ああ、そんなに怯えなくとも大丈夫ですぞ? ……私はお前の味方。かの方はお前の力を欲しておられる」


 黒い霧の後ろから現れたのは、1人の男性。細い目の壮年の男性だった。


「そんなに『妖』をベッタリくっつけておいて何言ってるんだ!? お前はいったい何者だ!」


 奏多は花凛を庇うように前に出ながら言った。
 花凛もいつでも力を使えるように体制を整える。


「ふふ……。私も一族の1人ですよ。しかしながら私の中の鞍馬の血は濃くはない。そして私は大いなる力を手に入れる為に、『かの方』の手となり足となったのですよ。……ほぅらっ」


 そう言ってその男はニタリと笑いながら奏多に向かって黒い霧が伸びたものが攻撃してきた。

 勿論、その程度の攻撃は奏多は跳ね除けだ。


「ッコイツ……! 随分な力を持ってるんじゃないか!? ……それはまさか『妖』を付けてるからか!?」


 奏多は思ったよりも強い攻撃力を持った俺その男に驚く。男はニタニタと笑った。


「……そうでしょう、そうでしょう!! 
……私は強い! 兄よりも誰よりも強くなったのだ……! それにお前を『あの方』に差し出せば、更なる力を私にくださると約束していただいているのですよ!」

「あの方……?」


 この男は、何を言っているんだろう? まさか、『妖』をも操るような何かが存在する? 


「そうですよ! ……まさか血縁なしと思われたお前があの方の探されている鞍馬だとは思いもしませんでしたがね! せっかくあの年齢の鞍馬の人間を襲わせていたというのに……あれはとんだ無駄な労力でしたよ」


「っ!?」


 花凛はこの男の言った事に驚く。


「まさか、あの30歳直前に『黒い霧』に襲われる事件はあなたが仕組んだ事だったの!?」


「ふふ……そうだ! しかしお前は力を得てしまった……! ……本当に咲良は役立たずな愚かな娘だ。力を得られなかったくせにこの任務だけは成功してしまうとはな」


 思わず花凛と奏多は目を合わす。

 ……あれは、本当は花凛が狙われた事件だった!? それにこの人は咲良を知っている? という事は、この人ははぐれ鞍馬?
 

「───まあ良い。かの方はお前を有効に利用する方法を考えられた。お前はあの方の形代となるのだ! 光栄に思うが良い!!」


「───は? なに『形代』って」

「花凛、呆けてる場合か! お前を『形代』にするって事は、お前の中に誰かが入るって事だ! つまり力を使えるお前の身体で好き勝手されるって事だぞ!」


「えええっ!? ナニソレ気持ち悪い!! そもそも誰なのよ、『あの方』って……!」


 花凛は思わず鳥肌がたった。身震いしながらもその男に尋ねる。


「ははは……! 畏れ多くもかの方とは始祖様の末の孫様であられる、蘇芳様だ! 喜べ、お前は偉大なる蘇芳様に身体を捧げられるのだからな!」


 その男はそう言って、また高笑いをした。


「『スオウ』さま……? ……ってもしかして?」

「名前まで知らなかったけど、この流れでいくとこの『祠』に封じられているはずの『始祖の孫様』の名前なんだろうな。
……てかマジか! そもそも1000年破られなかった封印がなんで今破られるんだ?」

「本当に破られてるならもうとっくに出てきてるんじゃない? この男の人を手先にしてるって事は完全には封印は解けてないんだよ、きっと」

「そうか……! そうかもな。でもここからヤツはどうする気なんだ? お前の中に入るっていうならまずコイツに入っているはずだ。……て事は、まだ何か縛りがあるんだろうな」


 2人は周りに警戒しながらもそう相談し合う。

 奏多と花凛はまだ高笑いを続ける男の姿を若干引きながら見ていたが。彼らの後ろからシュルシュルと黒い霧の触手のようなものが近寄っていた。そしてそれが花凛たちの身体に触れようとした時───。

 ビリッと少し何かが触れる感覚がしたかと思うと、その黒い霧は霧散した。
 奏多はそれを見て少し驚いてからヒューと口笛を吹く。


「……わお。これが花凛が言ってた『防御は最大の攻撃』ってヤツか。見事に相手をやっつけたな」

「ふふ、そーでしょう? やっぱりコレはなかなかいけると思ったのよね~」


 奏多と花凛がそう笑い合っていると、前の男は信じられないと驚愕していた。


「な……っ!? なんだとぉ!? 何故お前たちに触れられない? 何故触れただけでやられたんだ!? くっ……、お前達、笑うなぁ! この……! 俺を馬鹿にしやがって……! 許さん……許さんぞぉ!!」


 その男はいつの間にか全身が真っ黒になり、全力で攻撃をしてきた。


「───人が人に向かって、こんな力を使うなんて」


 その黒い攻撃は彼らのちょうど中間で止まっていた。
 花凛は片手を前に出し、その力を受けとめていた。


 男は信じられない思いで前を見ると、そこには金色に光る瞳でしっかりこちらを見据える女性。


「こんなの相手に当たったらどんな事になるのか、分からないの!? 一度自分で受けてみたらいいんだわ!」


 その黒い力は、方向を変え男の方に向かっていった……。



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