30歳、魔法使いになりました。

本見りん

文字の大きさ
67 / 97

『祠』での攻防

しおりを挟む





 ───花凛は奏多のプロポーズ的なアピール発言に内心かなり動揺しながらも、奏多の跡をついて整備された山道を『祠』に向かって歩く。

 あれから少し照れたような奏多はそれ以上は何も言わなかった。そして花凛も何も言えずにいた。


 ……奏多さんは本気、……なのかな。
 確かに鞍馬の力の事を考えれば私は鞍馬一族の誰かと結婚する事が望ましいんだろうけど……。


 花凛はそう考えながら奏多の背中を見つめた。するとピタリと奏多は足を止めた。


 ぼふっ
「ぶっ!」


 考え事をしていた花凛は奏多の背中にぶつかる。しかし防御の力のお陰でダメージがある訳ではない。透明のクッションにぶつかった感じだ。


「何してんだよ、花凛。……俺に抱きつきたいなら力を解除しろよ」

「は? 何言ってるの、奏多さん! ……て、あれが……?」


 奏多の背中の向こうには、岩場の前に作られた立派な祠があった。


「……そうだ。ここが始祖様の末の孫様の封じられた『祠』。……一族の者なら子供の頃に必ず連れてこられる場所だ。……結構立派だろう?」


 岩場の前に立つ立派な大きな一枚の大岩。よく見ると石碑になっていて、文字が彫られている。その奥にかなり古いが立派な祠があり、そして横には大小の石が置かれていた。


「───うん。こんなに立派なものだとは思わなかったよ」


「この周りの石が当時末の孫様と戦って命を落とした方々の墓でもある。その中で1番大きいこの石が……末の孫様の双子の妹の墓だ」


 そう言ってその末の孫様の妹の石に手を合わせる奏多を花凛は不思議に思う。


「……? ねぇ奏多さん。ここにある他の石の方々も同じ様に末の孫様と戦ったんでしょう? どうしてその妹様を先に拝むの?」


「ん? ああ、どうしてって妹様は末の孫様と一緒にこの祠に封じられたから。始祖様は妹様が兄を押さえたその隙に2人を一緒に封じたんだよ。……だから始祖様は最期までそれを悔やんでおられた。それが後世にまで伝わってるんだ」

「妹様も一緒に? じゃあ、ずっとこの祠に何もしていない妹様も封じられて……?」

「───そうだ。だからここに来る時は皆、先に妹様の墓を拝むんだ」

「……そんな……。それはあまりにも悲しすぎるよね……」


 花凛は胸の痛みを抑えながら、妹様の石に手を合わせて心から冥福を祈った。


「───さ。それじゃあこの辺りを掃除してしっかり祠にお参りしようか」

「───うん」


 そう言って2人は祠の周りを掃除した。しかし普段からきちんと整備されているので、それはそれ程時間はかからない。


「……うん。綺麗になったな。じゃあ拝もうか」

「そうだね……、……?」


 花凛は後ろに何か気配を感じて振り向いた。


 ───そこには、もやった黒い霧のようなものがあった。


「ッ! 奏多さん、後ろ!」

「ッ!? 『妖』! こんな所に!?」


 奏多は素早く花凛の手前に立ち臨戦態勢になる。


「───ああ、そんなに怯えなくとも大丈夫ですぞ? ……私はお前の味方。かの方はお前の力を欲しておられる」


 黒い霧の後ろから現れたのは、1人の男性。細い目の壮年の男性だった。


「そんなに『妖』をベッタリくっつけておいて何言ってるんだ!? お前はいったい何者だ!」


 奏多は花凛を庇うように前に出ながら言った。
 花凛もいつでも力を使えるように体制を整える。


「ふふ……。私も一族の1人ですよ。しかしながら私の中の鞍馬の血は濃くはない。そして私は大いなる力を手に入れる為に、『かの方』の手となり足となったのですよ。……ほぅらっ」


 そう言ってその男はニタリと笑いながら奏多に向かって黒い霧が伸びたものが攻撃してきた。

 勿論、その程度の攻撃は奏多は跳ね除けだ。


「ッコイツ……! 随分な力を持ってるんじゃないか!? ……それはまさか『妖』を付けてるからか!?」


 奏多は思ったよりも強い攻撃力を持った俺その男に驚く。男はニタニタと笑った。


「……そうでしょう、そうでしょう!! 
……私は強い! 兄よりも誰よりも強くなったのだ……! それにお前を『あの方』に差し出せば、更なる力を私にくださると約束していただいているのですよ!」

「あの方……?」


 この男は、何を言っているんだろう? まさか、『妖』をも操るような何かが存在する? 


「そうですよ! ……まさか血縁なしと思われたお前があの方の探されている鞍馬だとは思いもしませんでしたがね! せっかくあの年齢の鞍馬の人間を襲わせていたというのに……あれはとんだ無駄な労力でしたよ」


「っ!?」


 花凛はこの男の言った事に驚く。


「まさか、あの30歳直前に『黒い霧』に襲われる事件はあなたが仕組んだ事だったの!?」


「ふふ……そうだ! しかしお前は力を得てしまった……! ……本当に咲良は役立たずな愚かな娘だ。力を得られなかったくせにこの任務だけは成功してしまうとはな」


 思わず花凛と奏多は目を合わす。

 ……あれは、本当は花凛が狙われた事件だった!? それにこの人は咲良を知っている? という事は、この人ははぐれ鞍馬?
 

「───まあ良い。かの方はお前を有効に利用する方法を考えられた。お前はあの方の形代となるのだ! 光栄に思うが良い!!」


「───は? なに『形代』って」

「花凛、呆けてる場合か! お前を『形代』にするって事は、お前の中に誰かが入るって事だ! つまり力を使えるお前の身体で好き勝手されるって事だぞ!」


「えええっ!? ナニソレ気持ち悪い!! そもそも誰なのよ、『あの方』って……!」


 花凛は思わず鳥肌がたった。身震いしながらもその男に尋ねる。


「ははは……! 畏れ多くもかの方とは始祖様の末の孫様であられる、蘇芳様だ! 喜べ、お前は偉大なる蘇芳様に身体を捧げられるのだからな!」


 その男はそう言って、また高笑いをした。


「『スオウ』さま……? ……ってもしかして?」

「名前まで知らなかったけど、この流れでいくとこの『祠』に封じられているはずの『始祖の孫様』の名前なんだろうな。
……てかマジか! そもそも1000年破られなかった封印がなんで今破られるんだ?」

「本当に破られてるならもうとっくに出てきてるんじゃない? この男の人を手先にしてるって事は完全には封印は解けてないんだよ、きっと」

「そうか……! そうかもな。でもここからヤツはどうする気なんだ? お前の中に入るっていうならまずコイツに入っているはずだ。……て事は、まだ何か縛りがあるんだろうな」


 2人は周りに警戒しながらもそう相談し合う。

 奏多と花凛はまだ高笑いを続ける男の姿を若干引きながら見ていたが。彼らの後ろからシュルシュルと黒い霧の触手のようなものが近寄っていた。そしてそれが花凛たちの身体に触れようとした時───。

 ビリッと少し何かが触れる感覚がしたかと思うと、その黒い霧は霧散した。
 奏多はそれを見て少し驚いてからヒューと口笛を吹く。


「……わお。これが花凛が言ってた『防御は最大の攻撃』ってヤツか。見事に相手をやっつけたな」

「ふふ、そーでしょう? やっぱりコレはなかなかいけると思ったのよね~」


 奏多と花凛がそう笑い合っていると、前の男は信じられないと驚愕していた。


「な……っ!? なんだとぉ!? 何故お前たちに触れられない? 何故触れただけでやられたんだ!? くっ……、お前達、笑うなぁ! この……! 俺を馬鹿にしやがって……! 許さん……許さんぞぉ!!」


 その男はいつの間にか全身が真っ黒になり、全力で攻撃をしてきた。


「───人が人に向かって、こんな力を使うなんて」


 その黒い攻撃は彼らのちょうど中間で止まっていた。
 花凛は片手を前に出し、その力を受けとめていた。


 男は信じられない思いで前を見ると、そこには金色に光る瞳でしっかりこちらを見据える女性。


「こんなの相手に当たったらどんな事になるのか、分からないの!? 一度自分で受けてみたらいいんだわ!」


 その黒い力は、方向を変え男の方に向かっていった……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

処理中です...