30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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鞍馬本家の戸惑い

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 八千代を始めとする本家全員と南家当主夫妻、そこに西家と東家北家の当主が揃い、数台の車に乗り合わせて『祠』に向かっていた。……その後に佑磨達の車が続く。



「母さん、……まさかだろう!? そもそもあの娘は治仁に似ていない! いや、全く似ていない事もないが……。治仁に子供が生まれていた話は聞いていた……。だがあの『妖』騒ぎで親が死んでまだ赤ん坊だった子供だけが生きているはずがないだろう!?」


 八千代を始めとする本家全員が乗った大型の高級ワゴン車で、篤之が母八千代を問い詰めていた。
 鞍馬家で篤之が合流し花凛に対する真実を告げられた後、今はとにかく『祠』に向かうからと一切質問は受け付けられなかったのだ。
 車に乗り込んだ篤之はすぐに母八千代に向かって質問を始めた。


「───治仁が『妖』に襲われた後、駆け付けた私達が見たのは既に事切れた治仁と血溜まりの中泣き続けるまだ赤子だった花凛。2人で必死に花凛を守ったのだろう。そしてその花凛を予想される揉め事から逃す為に密かに人に預けたのだ」

「ちょ、……ちょっと待ってくれ母さん! 予想される揉め事ってまさか、俺がその子供を虐げるって意味じゃないよな!?」


 篤之は人聞きの悪い事をとばかりに慌てて聞いた。自分が姪を虐げるようなそんな愚か者だと思っているのかと。


「……虐げるとまではいかなくとも、もしこの家に引き取ったならあの子は肩身の狭い思いをして育った事だろう。
今のあの子があるのは間違いなく今の家族のお陰だ。自分達の子供と分け隔てなく接し健やかな良い子に育ててもらって、心から感謝している」

「───それは……。確かに俺はその子を可愛がってまではやれなかったかもしれないが……。しかしあの家は、血も繋がらない子供をそこまで愛して育ててくれたというのか……」


 仲がそう良くなかったとはいえ篤之と治仁は兄弟。その弟の娘ならば可愛いとは思っただろうが我が子と分け隔てなくとはいかなかっただろう。……特にあの当時は、皆に慕われる治仁をまだ若かった篤之側は当主争いの事もあり遠ざけていた。

 しかし治仁が居なくなりせいせいするかと思ったのに、そうはならなかった。いつも心の奥で物足りなさ寂しさを感じ、子供の頃の楽しい思い出だけが胸の中に過ぎる。……ずっと、自分が歩み寄らなかった事を篤之は悔やんでいた。
 篤之はそんな答えの出ないモヤモヤした思いをずっと抱えていたのだ。


「お義母様。……その時その子の母親はどうしたのですか!? その現場に母親は居なかったのですわよね? 『妖』が現れた時、治仁様や小さな子供を置いて逃げたのですか!?」


 これはやはり同じ母として気になったのだろう。その事に対して信じられないという怒りの気持ちで篤之の妻律子は義母八千代に尋ねた。


「花凛の母親……アオイ殿は、花凛を守り『妖』を退治したのだと思う。当時は妖に喰らわれたと思っていたが……。
しかしアオイ殿が退治したからこそ、あの後あの周辺でそれ以上『妖』の被害が出なかったのだろう」


 八千代は苦い表情でそう告げた。……八千代も、先程の楓の手紙を読んだからこそ思い至った答えだ。


「───? ばーさん、それって花凛の母親は鞍馬一族だったって事か? 花凛の母親は力を使えて『妖』を祓った……。
じゃあなんで当時2人の結婚は認められなかったんだ? 幾ら西家の横槍があったって本来鞍馬同士なら結婚に問題はなかったはずだろう?」


 正樹は花凛が本当は一族だったと知って、いとこではあるものの彼女との縁は鞍馬的に認められると内心喜んでいた。しかもその母も鞍馬なら自分とかなり釣り合いがとれると一瞬喜んでから……、治仁と花凛の母の結婚が認められなかった事に疑問を持ったのだ。


「それは……。その当時私達は花凛の母親が力を持つ事を知らなかったのだ」


「どうしてですか? 鞍馬本家の人間と結婚するのに、力を持つ事を話さないその理由が分かりません。治仁叔父さんも妻の力を知らなかったのですか?」


 大地は優秀な叔父の存在を、他の一族から聞かされてよく知っていた。……だからこそ疑問だった。その優秀な叔父が、何故力を得る30歳寸前で結婚してその権利を放棄し、更に妻が鞍馬一族であるのにそれを公表せず隠れ住み悲劇の死を迎える事になってしまったのかを。
 

「───治仁は、おそらく全てを知っていたのだろう。妻の正体も何もかも。そして覚悟を決めて『祠』の近くに隠れ住んだ」


 当時の息子治仁の気持ちを思いながら八千代は苦しい思いで言った。


「母さん、それはいったいどういう事だ?」


 この車に乗る鞍馬本家の家族は息を呑んで八千代の答えを待った。


「───それは、この後『祠』に行ってから皆の前で説明する。楓の手紙に書かれた推測ではあるが、おそらくはそれが真実に近いのだと思う」


 そう言ったきり眉間に皺を寄せ目を閉じ黙り込んだ八千代に、他の者はそれ以上何も言えず到着を待つしかなかった。



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