30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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篤之一家

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 鞍馬家に次々と訪れる客人達に不信感を抱いた長男篤之は、八千代達が話す部屋へと怒鳴り込む様にやって来た。
 八千代はまた話がややこしくなると、分かりやすく大きなため息を吐いた。


「篤之、落ち着きなさい。───もうここまで来たらバラバラに話をするのは面倒だ。正樹と大地も今日は家にいるだろう? ここに連れておいで」


 興奮状態の長男篤之を見て、八千代はため息混じりに言った。
 

「───お待ちください。ここでの話も大切な事かとは思いますが、今は花凛さんの安全を優先させたいと思います」


 しかし、西園寺佑磨は少し焦るようにそう進言した。
 普段の佑磨を知る者ならば彼がこんな風に焦っているのは珍しい事だと驚くのだろうが、普段の佑磨を知らない八千代にはそれが分かるはずもない。


「この手紙の内容が誠ならば、今のあの子をそれ程心配する事もないのでないか?」

「───いえ、しかし何やら胸騒ぎがするのです。確かに今彼女に敵う者は居ないでしょう。……けれども物事に絶対はないのですから」


 佑磨の真剣な言葉に八千代も考え込んだ。
 ───確かに大丈夫だと思っていた事が突然崩れ去る事はある。……まさに治仁の事がそうだったではないか。完璧な開かれた未来が待っていると信じていたのに、突然全てが崩れ去ってしまった。
 ……いや、全てではない。治仁の忘形見である花凛がいる。その大切な花凛を守る為に不安に感じることはきちんと万全の対策をしておく必要がある、ということなのだ。


「───相分かった。ではことの真実を知りたい者はこれから共に『祠』に来るが良い。そこで全てを話そうではないか」


「母さん!? 何を言ってるんだ! ここで話せば良いではないか! ……それに……花凛? なんだ、まだあの分家末席の血縁もない娘の事でごちゃごちゃと言っているのか!?」


 そしていつの間にか次男大地、篤之の妻律子と長男正樹もこの異様な雰囲気に気付いてやって来ていた。


「───お婆様! その女は昨日も我が家に来ていたでしょう? しかも奏多兄さんを誑かせた面の皮の厚いとんでもない女狐だ! あんな女と血縁じゃなくて本当に良かったよ。まったく、親の顔が見てみたいよね!」

「そうですわ、お義母様! 私も昨日の帰り際にその娘を見ましたが、品のない女でしたわ! やはり鞍馬の血を引かない者はダメですわ。きっとその親も碌でもない者たちなのでしょう。それなのにお義母様がそんな娘を気にかけるなんて……」


 篤之と次男大地、そして本家筋の分家出身である篤之の妻はそう次々と捲し立てた。


 八千代と百合そして佑磨も、花凛の真実を知らずに好き勝手言い続ける彼らに一瞬押し黙った。───いや、花凛は本当はお前達の身内だぞと心の中でツッコミながら。


「───そうかなぁ? 俺は花凛は可愛いと思うけど」


 最後に入って来た正樹がポソリと言った。

 すると一斉に皆の視線を浴びて正樹は少し驚いて怯む。ちなみに篤之一家からはギロリと睨まれ、八千代達からは『意外と正樹は人を見る目はあったのか』という見直すような驚きの視線だった。


「正樹ッ! ……まったくお前という奴は……」

「篤之。お黙りなさい」


 またぶちぶちと文句を言いかけた長男篤之に今度こそ八千代は待ったをかけた。


「ッなんだよ、母さん! だいたい……」

「黙りなと言ったのが分からないのかい? ……今回は正樹が正しかったようだ。意外とお前は人を見る目がある。……正樹、見直したよ」

「ッえ!? あ、ああ……なんだよ、珍しいじゃんかよ。俺を褒めるなんて」


 少し照れたように赤くなり俯く正樹を見て、自分はこの孫の事も守ってやれていなかったのだと気付き八千代は反省した。


「はん。正樹、お前はいつまで経っても半人前だな。何も物事というものを分かっておらん。……母さん、正樹を甘やかさないでくれよ」


 それでも正樹の父である篤之は正樹の事を蔑ろにしていた。彼にしてみれば、早々に力を持つ権利を失ってしまった正樹は辛抱の効かない愚か者という事らしい。


「何言ってるんだい。物事を分かっていないのはお前たちだよ。……正樹。私もお前の事を今までよく見てやれなくて済まなかったね」


 八千代は最後正樹を慈しむ視線を投げかけてから篤之一家の顔を見渡した。


「……お前達。ようくお聞き。
───鞍馬花凛は私の息子治仁の一人娘。つまりはお前達の姪でありいとこであり……、私の大切な孫である」
  

「「「……治仁(さん)の……娘!?」」」


 篤之一家は暫くその驚愕で動けなかった。


 そして西家の当主も。何せその治仁の子は自分の妹から婚約者を奪った憎い相手の子供という事なのだから。



「まさか……、あの娘が私の姪……?」

「え? 嘘。あの女……いや彼女、僕のいとこなの?」

「ああ……、あの娘はなんとなく品があったかもしれないわ。ええ鞍馬一族の持つ独特の気品というものが何処はかともなく、あった気はするわ」

「やっぱり俺の目に狂いはなかったんだ。花凛が鞍馬なら俺と一緒になっても……」


 篤之一家4人はそれぞれに驚きを隠せずに呟いた。



「末端分家で血縁のない家の養子にしていたのか……。ご当主様も考えられましたな。まさか楓の恋敵の子供が生きていたとは……」



 西家の当主がそう苦々しい顔で呟くのを、佑磨は静かに見ていた。





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