30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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残された一族

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「───連れて、行かれてしもうた……」


 八千代は茫然としながら呟いた。

 先程まで花凛と奏多が居た場所にポッカリと空いていた黒い穴は彼らを飲み込み、今はすっかり消え去って不気味な静かさが広がっていた。


「花凛様……、奏多……! ……ああ、なんという事だ……!」

「……アレは、『末の孫様』だったのか……!? まさか、封印が解けたというのか……!?」

「それこそまさかだ! 封印が解けたならば『末の孫様』は今この場に現れているはずだ!」


 南の勝治は嘆き、北と東の当主は信じらない事態に驚き恐れた。


「……しかし、あのような『妖』が他にいるはずもない。───アレは『末の孫様』の成れの果て、なのであろう。
先程奏多が言いかけていた……『花凛を形代』とするつもりで連れて行ったのかもしれない」


 八千代は先程花凛と奏多が消えた場所から目を離す事が出来ないままそう言った。

 その場に居る者はサッと顔色を悪くした。


「……それでも、やはり封印はかなり弱っていたという事ですな。祠の近くや繋がりを持てた者だけとはいえ自身の『声』を届かす事が出来、この男に力を与え操る事まで出来ていた。
そして更に先程のような大穴を開け外の人間を連れ去る事も出来るようになっていたとは……」


 東の三郎太は悔しげにそう言って、力によって縛られた信彦を睨んだ。


「───母さん。あの娘がこの祠の中に連れて行かれたという事は、遠からず『末の孫様』の封印は破られるという事じゃないのか……!? あの娘が弟治仁の子であり、末の孫様の双子の妹の娘という事は……おそらく今のこの世に存在する者で一番の力を有しているという事だ。そしてその身体を形代に取られるという事は……」


 当主八千代の長男篤之はそう言って絶望的な未来に愕然としていた。周囲の人達も同様に絶望的な表情をした。


「治仁叔父さんと末の妹様の娘……。……ははっ……、あの子、とんだサラブレッドだったんだ……。それが、敵に? ……もう、この世の終わりじゃないか」


 そう自嘲しながら投げやりに言った篤之の次男大地はヘナヘナと座り込んだ。大地は29歳で、まだ力に目覚めていない。もし今末の孫が現れても戦う術がない。


 皆が絶望的な雰囲気になっていた、……その時。


「───ッ馬鹿な事を言うなッ!! 花凛は闇に取り込まれたりなんかしない!! ……花凛は末の孫様をやっつけて出て来るさ!」


 昔から花凛が気になっていた正樹は高校時代までずっと彼女を見ていた。

 鞍馬の血縁ではない事で、一族から嫌がらせをされる事もあった花凛。しかし一時落ち込んだ様子を見せてもそれを跳ね除け、前を向いて進んでいたのを正樹は見て知っている。
 本家の長男としてのプレッシャーに押しつぶされそうな時、そんな花凛を見て好きになったのだ。……しかし結局は他の女性と付き合い力の資格を失ってしまったが。
 ……それでも正樹は今回花凛に会ったらあの時の甘酸っぱい思いが溢れてしまった。初恋とはこういうものなのだ。


「正樹……。……そうだね。花凛はきっと末の孫様を打ち破って出て来る! 奏多も……そして西園寺殿も一緒だ。……そこの方。西園寺殿も強い力の持ち主なのだろう?」


 正樹の言葉にハッとさせられた八千代は、あの穴に吸い込まれたもう1人西園寺佑磨の連れに尋ねた。


「……はいッ! 佑磨様は楓様を凌ぐほどの力をお持ちです。きっと花凛様のお力になってくださるはずです!」


 佑磨の友人でもある川東はそう力強く答えた。……彼も今は佑磨の無事をここから祈るしか出来ない。


「……だそうだ。そして奏多もいる。彼ら3人ならばやってくれると信じよう。ここにいる私達は万一の為に末の孫様を迎え撃つ準備と彼ら3人を保護する準備をせねばならない。」


 八千代も花凛達を信じることにした。
 ……そして花凛達を信じると言った孫正樹を心強く思って彼に微笑んだ。正樹も力強く頷いた。


「……そうですな。そして彼らの手助けが出来るよう、我らは万全の用意をして待ち構えておきましょう!」


 東の三郎太も彼らの無事を信じることにした。皆がそれに頷いた。


 そしてチラリと西家の善彦を見る。


 ……善彦は今までずっと妹の尻拭いをしているといつも不満だった。
 しかしそれを誤魔化し逃げている内に、自分こそがこの事態を引き起こした当事者となってしまっていたとやっと気付いたのだ。

 善彦は、強く拳を握りしめた。
 

「……私も……。私も、協力いたします……! いえ、させてください! 我が西家に連なる者達の過ちを挽回する為にも力を尽くします!」


 善彦も自身の身を守る事ばかりをしていた自分達の行動を恥じ、せめてここからは力を合わせて大きな敵『末の孫様』に立ち向かう事を決意した。


「……うむ。共に力を尽くそう」


 八千代はそう言って頷く。
 そして三郎太は笑顔で慶彦の肩を叩いた。
 善彦は涙を浮かべて大きく頷いた。


「───さて、では花凛達が満身創痍で出て来たならば治療を、末の孫様を引き連れて出て来たならば迎え撃たねばならない。
───皆。早速準備に取り掛かろう!」



 八千代の号令で、皆が一斉に動き出した。




 
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