30歳、魔法使いになりました。

本見りん

文字の大きさ
77 / 97

蠢き出した闇

しおりを挟む



 ───暗闇に、人影が現れた。


 人影とはいってもそれは実際の肉体を持たない精神体。しかし生前は強い力を持ち、その力を『闇』へと変えた……『妖』。 

 その『闇』の人間『蘇芳』としての記憶は、自分の足元にも及ばぬ『力』の人々と自分を軽くあしらった一族の始祖である祖父への歪んだ憎しみ。

 そして自分をこのように1000年以上封じた一族への怨み。そしてかつては自分と一つであったはずの双子の妹『葵』。


 この憎っくき『封印』を解き、彼らを掃討した時初めてそこで自分は解き放たれ自由を得る事が出来るのだろう。……そこからは自分の思う通りに生きる事が出来るはず。


 その精神体───『蘇芳』はこの暗闇の中に閉じ込めている、自分の形代となる妹の娘の様子を見に来た。



『───そろそろ身体が闇に染まった頃か』


 久々に使う能力なので3日は闇に漬けようかと考えていたが、待ちきれず2日で様子を見に来た。それでも昔は1日も漬ければ闇に染まったのだから、これでも充分だろう。

 あの憎き妹の娘の身体で封印を打ち破り、鞍馬一族の前に現れればどのような事になるのか? ……それを想像するだけでゾクゾクする。
 一族は恐怖に慄き、こちらに媚びて服従するとでも言って来るだろうか?


『クク……。そう簡単には我はあ奴らを許してはやらぬぞ? ……そうだな、助けると見せかけて散々に痛めつけてから……』


 自身が『形代』の身体に入るのも、久しぶりだ。なにしろ1000年以上この祠に封じられていたのだから。
 あの信彦とかいう男のように欲に貪欲な人間ならば入り込むのは簡単だろうが、妹の娘はどうだろうか。あの妹の子ならこの闇の中でかなり抵抗しただろう。……しかしこの私の『闇』に2日も入れておけば、本人の意思は無くなり私専用の身体となるのだ。


『それに一緒に闇に飛び込んできた2人の男も力も強く美しい肉体だ。……私はついている。暫くは3つの身体を自由に使って楽しめそうだ』


 嗤いながら蘇芳は自らの闇に封じ込めた花凛達の元へと進む。
 そして闇の中に倒れ込む3つの身体を見付けた。1人の女性と2人の男性。3人ともまだ30歳程の瑞々しい身体。

 ……蘇芳はこれからの事を想像して笑いが止まらなかった。


『……ふ、ふふふ……、ふははは……!! さあどの身体から入ろうか? どの身体で彼ら鞍馬一族の元へ行けば一番恐怖に慄くだろう? それとも突然攻め入ったりせず密かに入り込んでゆっくりじわじわと恐怖を味合わせてやるのがいいだろうか?』


 歪んだ妄想がどんどん広がる。蘇芳は愉快で仕方なかった。
 そしてゆっくりと3人の身体に近付いた。


『……まずは、葵の子からとするか』


 そう呟いてその闇の影が『葵の子』……花凛に伸びていった。
 そして花凛に触れようとした、その瞬間。


 パシィーンッ!!

『う、うおぉぉぉッ!!』


 蘇芳の闇の触手は花凛に触れる直前に、あえなく弾かれてしまう。


『な……ッ!?』


 一瞬何が起きたのか理解出来ずに蘇芳は茫然とする。

 ……今、まさか自分の手は弾かれた……、のか? ……まさか! 自分の闇に2日も浸けて闇に染まらなかった者など居なかった……。そう、祖父である始祖と妹アオイだけには最初から闇を跳ね除けられてしまったが。


 もしや……、この妹の子も私の力を寄せ付けないというのか? 確かに妹の子だけあってかなりの力だったとは思うが、それこそまさかだ! 


 蘇芳は改めて妹の子を見た。


 妹の子は、ゆっくりと起き上がった。


 ◇
 

 ───時は少し遡る。


「花凛。……大丈夫か?」


 『末の孫』蘇芳の闇の中で、アオイは花凛達3人と話し合った後に兄と外の様子を見て来るわと球体の結界から出て行った。

 アオイ曰く、『3人を形代とする為に最低1日はこのままここに接触はしてこないと思うわ』とのことだったので、とりあえず3人は来るべき時に向けて身体を休めつつ話をしている。


「ん……。大丈夫。……それよりも、……ごめんなさい。2人を巻き込んでしまって」


 花凛は奏多と佑磨に頭を下げた。

 末の孫様が狙っていたのは花凛。佑磨の叔父が言っていたように、花凛を『形代』としてこの世に復活しようとしていたのだから、2人は完全に花凛に巻き込まれたのだ。


「……花凛。俺はあの時わざと花凛と一緒にここにきたんだ。花凛1人を連れて行かれる訳には行かなかった。自分で納得して来たんだから花凛が気にする事じゃない」


 奏多はそう言って花凛を見つめた。


「私もそうだ。……花凛があの黒い穴に吸い込まれそうになった時に身体が勝手に動いたんだ。花凛に追い付けて良かった。私は一緒に来た事を後悔していない」


 佑磨は花凛を優しく見つめそう言って微笑んだ。


「奏多さん、佑磨さん……」


 花凛は2人を交互に見てから困ったように微笑んだ。

 ……というか、花凛は本当に困っていた。


 ……うーん、なにこれ! 気にしなくていいと言ってくれるのは有り難いんだけど……。自分の思い上がりでなかったら、なんだかまるで2人に好意を寄せられてるみたいじゃない? それにどちらを見て良いのかも分かんない!

 ……コレって、私はこの後に控えてる『末の孫』様との戦いを前に現実逃避をしている!? 最後に勝手に都合のいい夢を見ようとしているのかしら!?
 ……こんな時に、私ったらいったい何を考えているのかしら! 


「奏多さん……、佑磨さん……。……本当にありがとう……」
 

 そう言って花凛はとりあえず小さく微笑んで見せてから俯いた。
 どちらとも視線を合わせにくかったのと自分が都合の良い勘違いをしてしまったのが恥ずかしかったからだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

処理中です...