30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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西園寺家と本家当主

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「───奥様ッ! 西園寺家の皆様がお見えでございます!」

「───来たか。して? ……誰がやって来てどのような様子だったのか」


 八千代は慌てて入って来た使用人に、少し落ち着けとばかりにゆっくりと諭すように尋ねた。


「……ッ。西園寺家当主と、今回亡くなった方の妻とその娘のようです。当主はゆったりと構えておりましたが妻と娘は苛々とした様子でした」


 使用人は八千代の意図が分かったのか、今度は慌てずきちんと説明する。
 八千代は頷き、指示を出す。その様子を見ていた篤之と四家の当主そして奏多も頷き動き出した。



 ◇


「───ッ! お父様!! しっかりなさって! ……目を……目を開けてください……! お父様ぁっ!」


 信彦の娘咲良は変わり果てた父の姿を見て駆け寄りすがりついた。

 その後信彦の妻も駆け寄り名を呼んで泣き崩れる。


「───信彦……! なんという事だ……! 何故このような事に……」


 信彦の兄である西園寺家当主光彦もそう言って涙ぐむ。

 しばらく彼らが信彦の前で泣き暮れていたが、近くにいる使用人に向かって言い放った。


「───これは、一体どういう事であったのかご説明いただけるのでしょうな? この2人の大切な父であり夫であり、そして私のたった1人の弟である信彦がどうしてこのような事になったのか……!!」



 そして3人は本家の応接間に案内された。


 ───前に座るのは、鞍馬本家の当主。


 ……光彦は老齢ながら明らかに大きな力を持つ女性を見て少し冷や汗をかいていた。
 光彦も『力』を持つ一族の端くれだから分かる。この女性がこの鞍馬一族を取り仕切る、本物の大きな『力』を持つ存在であると。

 しかし自分もこの日本有数の大企業の総領である身だ。はなから負ける訳にはいかない。何としても、自分たちの『利』となるように持っていかなければならない。


「初めてお目にかかります。私は『西園寺光彦』。ここで亡くなった『信彦』の兄でございます。
……そしてご存じかも知れませぬが、我らは元は同じ一族でありました」

「───私はこの鞍馬一族の当主。
お前達の出て行った祖先は私の父と当主争いの末に出て行った西家の者。当時は我が父と張り合う程の力を持っていたと聞くが……。
そして『信彦』殿は『力』を欲し、手を出してはならないものに手を出した」


 八千代は先制攻撃とばかりに信彦の事を告げた。……今の光彦達には大した力も無く、信彦もそれ故に力を欲し罪を犯したと言外に告げたのだ。

 八千代にしてみれば、『信彦』は大切な息子治仁を『妖』を操って死なせ、更に最近の『30代直前の独身』を襲い被害を出し続けた完全なる犯罪者。決して許せるものではない。

 ……しかしそれは、『妖』の話。国家権力である警察では裁けない。
 そして鞍馬の犯罪は鞍馬で解決するのが常なのだが、今回のように『ハグレ』ではどこまでそれを当てはめられるのかが曖昧だ。


 だからこそ、相手の反応を見ようと思ったのだが───。


「お父様……お父様を死なせたのはあなた達なの!? ッ……、ひどいわ……。……返して……。お父様を返してよぉッ!!」


 信彦の娘咲良はそう言って掴みからんばかりに前に詰め寄った。……しかし。


 バチッ……!
「きゃあッ!!」


 咲良は八千代に近寄る事も出来ずに弾かれ座り込んだ。


「咲良ッ! ……酷いですわ! 若い娘になんて事を!」


 咲良の母は娘を庇うように前に出て八千代をキッと睨み付けた。


 そんな2人の様子を見て、八千代は呆れたように言った。


「私はこちらに悪意を持った者は『弾く』事にしている。……年寄りにいきなり掴みかかる事は『酷く』は無いのかい? 
……そちら側の常識はそんなものだという事か?」


 ───父や夫を突然失い動揺する気持ちは分かる。しかしこちらも大切な息子を奪われしかも『末の孫様』の手先となりこちらに害をなそうとしたその男の被害者なのだ。しかもその男はおそらく自ら身を滅ぼした。


 その強い意志を持った八千代の言葉を聞いた光彦は慌てて取りなそうとした。


「……お待ちくださいッ! この娘は突然父親を失い動揺しているのです」

「……動揺していたら暴力を振るうのは仕方ないと?」


 冷たくそう言い放つ当主に、光彦は背中に冷たいものが流れるような気がした。……しかしここは勝負時なのだ。


「いいえ、そうは申しませんが……。
───しかしかくいう私も、弟の突然の死に疑問を抱いておるのです。……何故突然、弟がこの世を去ったのか。つい3日前までは彼は元気にしていたのです。ここに来て、急に死に至るなどとてもではありませんが心が追いつきません」


 光彦の話を聞いた八千代は呆れたような顔をした。


「この者がここに来た理由を知らぬと? そしてそちら側で起こっていた『黒い霧』の事件を知らぬのか?」


 ───どうしてここであの『妖』の事件の事が出てくるのだ? 光彦は疑問に思う。

 昨日光彦の元に届いた『弟の死亡』の知らせ。そして息子佑磨も意識を失った状態と聞き、弟の妻とその娘と共に『鞍馬一族』の住むこの地へ光彦は乗り込んだ。
 妻楓はこの鞍馬の地に入る事が出来ずしかし唯ならぬ思い入れがある事を知っている。今回妻にはこの事を敢えて知らせなかった。


「……何故その話が今関わってくるのかは分かりませんが、あの件は我が家の息子が解決いたしました。我が息子佑磨がアレを消した後、事件は起きてはおりません」


 どうだ、自分達は周りで起こる『妖』退治もきちんとこなしているのだぞ、と光彦は胸を張って主張した。

 しかし八千代はそれを鼻で笑った。


「……ふ。そうであったな。
そしてそのご子息もそなたの弟を警戒しておった。何かよからぬ事を考えているようだと私に報告をしてくれたのだぞ?」

「───は? 佑磨が……信彦を警戒? しかし信彦と佑磨の『力』の差は歴然でしてそのような事をいうはずもありません」


 本家の当主が何を言いたいのか分からず戸惑いながらも、これはこちらを混乱させるつもりかとその表情を探るようにじっと見た。


「───佑磨さん……。そうよ、佑磨さんはどこに居るの!?」


 佑磨の話が出ると先ほど暴れた後は母に抑えられ大人しくなっていた咲良が反応した。

 それを聞き光彦もまた八千代を見る。
 八千代は表情を変える事なく口を開く。八千代もまた、ここから彼らが食い付く所だろうと分かっているのだ。



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