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西園寺家の思い
しおりを挟む「───西園寺家のご子息は、信彦氏も関わったこの地に棲まう『妖』との戦いの後、他の者達と共に意識を失った状態で発見された」
「ッ!? 佑磨様は無事なんでしょうね!?」
咲良が顔色を変えて叫んだが、八千代はそれ以上何も言わずに黙って光彦を見ていた。
それを見た光彦も何かを感じ取ったのか表情が消える。
「───まさか、佑磨はまだ目覚めていないのですか?」
その問いに、八千代は頷く。
「───ッ!! あなた達、お父様だけじゃなく佑磨様まで……!」
「……咲良! 少し黙りなさい。
───ご当主。何故我が家の2人がここでそのような事になっているのですか? まさか、本当にあなた方が……」
「……そのようなはずがないだろう。
彼と共に意識を失っていた者達は今日目覚めた。佑磨殿もその内目覚めると我らも信じている。
今回佑磨殿とこちらにやって来た川西殿は残って2人の事を見ているので確かめてみるがいい」
八千代がそう言うと、呼ばれのだろう川西が部屋に入って来た。
「……会長」
光彦は途端に苦い表情になる。
「川西。お前は佑磨に付いていたのではなかったのか。……何故佑磨がこのような事になっている? それに信彦はいったい何故この地に来ていたのだ。ここの方々とトラブルになっていたのか」
怒りを抑え込んだ低い声で川西をジッと見つめそう尋ねた。……川西はゆっくりと口を開く。
「……私が見聞きしたままを申し上げます。佑磨様と私が『祠』に到着した時、信彦様はご自分の攻撃を返されその身に受けて倒れている状態でした」
「───ッ!? 信彦が攻撃を? まさか! あいつにそれ程の力はなかったはずだ。それは信彦はただ誰かに攻撃されたという事ではないのか」
鞍馬の地を出た3代目である自分達兄弟は人を倒す程の攻撃力など無い。しかも信彦は光彦よりも力が弱かった筈だ。
「……いいえ。それを見た佑磨様が駆け寄り信彦様を問いただすと、『自分は末の孫様の手先となる代わりに偉大なる力を手に入れた』とお答えになりました。───そして、過日の連続して起こった『黒い霧』による『30歳直前の独身者』が襲われる事件。アレは信彦様がされた事だと認めておいででした」
川西が語るその余りにも衝撃的な話の内容に、光彦は動揺が隠せない。西園寺家にとっても『妖』は天敵のはずだからだ。
「んな……ッ!! そんな馬鹿な! 川西、お前はここの者達に騙されているのではないのか? ……アレは『妖』がした事だ!」
すると川西は、非常に答えにくそうに言った。
「───はい。信彦様はおそらく『闇』に囚われ『妖』となっておられたのだと思います」
「───ッ川西ィッ!! お前は私の弟を愚弄するのか! アイツはそのような愚か者ではないッ!!」
光彦は思わず取り乱し怒鳴り付けていた。……始めは西園寺側であるべき川西が鞍馬の言い分を話す事に苛立ちを覚えたのだが、最後の『信彦が『妖』となった』という話に抑えきれない怒りが溢れたのだ。
そしてその話に動揺したのは信彦の娘、咲良もだった。
「……お父様が……、そんなはずないわ! 川西、あなたここの人達に騙されてるのよ!」
「全くだ! ご当主、このような茶番を受け入れられるはずがない! 弟を死なせた事を認めないばかりか死んだ弟を愚弄するような事をするとは……!」
光彦は心底怒りながらも、心のどこかでは計算をしていた。……将来的に西園寺一族がもう一度強い力を手に入れる為に、ここで優位な立場に立ちこちらの願いを叶えるのだという事を。
対して八千代達は最初から彼らの本当の狙いなどはお見通しだった。
……そして彼らが納得せず余りにもゴネるようなら『力』を使うだけ。そのタイミングを見計らって彼らの様子見をしているのだ。
そもそも鞍馬一族側になんの瑕疵も無いのだから。
「───しかしそれが事実です。そして『末の孫様』が浄化された為に、おそらく信彦様はそのお命を落とされたのだと思います。
……『妖』の気配が消えるのと全く同時に突然お亡くなりになられましたから」
怒れる光彦達を見ながら、川西は淡々と語った。
「ッ……! この、まだ愚かな事を言うのか! 川西……」
……光彦達が怒りに任せた暴言を吐こうとした時。
「───お待ちください」
そこに現れたのは、寝巻きの浴衣に羽織を着た光彦の息子佑磨だった。
「ッ佑磨!」
「佑磨さん……! 無事だったのね!」
光彦は驚き佑磨の姿を認めた咲良は彼に駆け寄ろうとした。……が。
「……ッ!! どうしてあなたがここに居るのよ!」
佑磨の後ろからやって来た人物を見て、咲良は非常に嫌そうな顔になって言った。
◇
───時は少し遡る。
佑磨は目を覚まし、上半身を起こして花凛を見た。
そんな佑磨に花凛は少し涙ぐんで微笑み、佑磨もまた彼女に微笑み返す。2人の間には深い信頼が生まれていた。
しかし2人はすぐに同じ屋敷にいる西園寺家と鞍馬一族に気付いた。……西園寺側がほぼ一方的に責めている状態だったが、事情を知らないのだから仕方がない。しかし鞍馬側に非がある訳でもない。
そして今は鞍馬側は誠実に説明をしているが、このまま西園寺側が納得しなければ『力』を使うだろう事は分かる。そもそも彼らの力の差は歴然としているのだから。
花凛は目覚めた佑磨に更に癒しの魔法をかけた。
「佑磨さん? ……行けそうですか?」
本当ならばもう少し身体を休めて欲しいし、食事を摂ってゆっくりして欲しい。けれど今は西園寺家側に早く事情を説明し納得してもらう必要がある。
佑磨の体調を気遣いながらも尋ねる花凛を、佑磨は心底嬉しそうにしてから更に熱く見つめ返しその手をそっと握った。
「───花凛。ありがとう。君のお陰で戻る事が出来た。……そして叔父も……」
「……その説明をご家族にして差し上げなければ。今は混乱されて佑磨さんの言葉でないと納得出来ないと思います」
花凛は手を握られた事で少し照れつつ、佑磨に先を促す。
「───そうだな。……花凛」
しかし佑磨は甘く微笑んで花凛の手を優しく両手で握る。それは結構な至近距離でその瞳には何か熱いものを感じた。
超美形の佑磨に甘く熱く見つめられ更に手も握られた状態。花凛は思わず耳まで真っ赤になった。
───凄い!! 美形の微笑みは破壊力が過ぎる! これ、本当に佑磨さん? なんでこんなに甘く私を見るの!?
「ッ……! 佑磨さん……ッ。あの、早く行きましょう……?」
「ああ……、分かった」
名残惜しそうに立ち上がる佑磨に、もしかして本当に違う人が入っているんじゃないかと思ってしまう花凛だった。
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