30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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信彦の過ち

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 西園寺家と鞍馬一族が揃う部屋に来た花凛は、佑磨の後ろから顔を出し周囲に軽く会釈した。八千代をはじめとした鞍馬一族もそれを見て会釈した。
 しかしそれを見た咲良は怒りの表情、光彦は突然現れた花凛に眉を顰めたがすぐに佑磨に意識を移した。


「……佑磨。無事で良かった……随分と心配したのだぞ」

「───ご心配をおかけして申し訳ございません」

「お前が無事なら良いのだ。……それよりも、これはどういう事なのだ? ……お前が意識を失っていた間に信彦が死んだのだ。そもそもどうしてあいつがこの地に来たのか、お前は知っているのか?」


 光彦は今しがた目覚めたばかりの佑磨がそれを知っている筈はないかと思いつつ尋ねた。


「───父さんは、母さんから何も聞いていないのですか」

「───楓? ……ああ……。彼女は鞍馬の事になると冷静さを失う。先日体調を崩したばかりであるし、余計な心配事をさせたくはないから今回は楓に黙って来たのだ」


 光彦がそう言うと、佑磨は分かり易くため息を吐いた。


「……父さん……。事が母さんの故郷の話であるからこそ、話をすべきでした。
───今回の件は若き日の母さんがした事から全てが始まり、信彦叔父さんの『闇』への傾倒と繋がっていくのですから」


 辛そうに自分を見る息子に、光彦はこの時初めて鞍馬側の言い分が本当なのかもしれないと気付いた。




 ◇


「───事の起こりは母さんがまだこの地で西家の娘だった頃。大きな力に目覚めた母さんは自分こそが本家当主であるべきと自惚れた。そして当時の婚約者が止めるのも聞かずその力を示す為、この地に封じられた始祖様の『末の孫』様の祠の封印を解こうとした」


 佑磨は母楓から聞いた話を西園寺家と鞍馬一族の前で語り出した。


「『末の孫』様? 先程から話が出ていたが、それはいったいなんなのだ?」


 光彦の問いに八千代が答えた。


「……鞍馬一族の始まりである『始祖様』。その始祖様の末の孫様の事だ。
かつて始祖様を凌ぐ程の力を持った末の孫様は、暴走し始祖様に封じられた。1000年以上封じられてきた末の孫様の『祠』の封印の一部を、楓は解いてしまった」


 一族の始まりの始祖の時代の話に光彦達は驚く。


「───母さんは封印の一部を解く事が出来たそうです。そして……その罰を受けた。
封印を1000年以上守ってきた守護者によって、力の半分を奪われこの地からも追放された。
───その時行く宛の無かった母さんと、父さんは出会ったのですよね」


 息子佑磨にそう問われた光彦は当時を思い出しつつ答えた。


「───32年前。何かに呼ばれるように出掛けた先で私は楓と出会った。
……何かに怯え震える美しき女性。私は一目で彼女に恋をし、なんとか口説き落としたのだ。そして事情を聞けば楓は我ら一族の本流鞍馬で親戚に当たる者。力の弱まりを痛感していた我ら一族は喜んで彼女を受け入れた」


 光彦の話に佑磨は頷いた。

 そして当時の楓を知る者達は『怯え震える女性』という話に驚きを隠せない。
 『あの自信満々だった楓がそんな状態だったとは、余程恐ろしかったのだろう』と考えた。


「───そして母さんの力を得た西園寺家は益々栄えた。結婚後の父さんは磐石の体制で一族を支えその立場を揺るぎないものとした。
……それを面白く思わなかったのが信彦叔父さんです。彼は密かに母さんに愛を告げ、それが叶わないとなると新たに力の強い女性を求めてこの鞍馬の地にやって来た」


「……な……ッ!? 信彦が? 楓に愛を告げただと?」


「───そうです。信彦叔父さんは自分と同じくらい力が強くないはずの父さんが成功していくのを見て妬み、強く嫉妬した。母さんが駄目なら他の力の強い女性をと思ったようです。彼は鞍馬の『力』を見抜く特殊な能力を持っていたそうです」


 信彦の娘と妻がショックを受けていたが、この事情を話さない事には彼が闇に落ちた話に繋がらない。佑磨は心を鬼にして話を続けた。


「そして信彦叔父さんはこの鞍馬の地に来てとてつもない力を持った女性と出会った。その女性はもう結婚していたのにも関わらず、その大きな力を手に入れるべくしつこく迫っては追い払われていた。
……そこにある『声』が聞こえてきたそうです。それは母さんが緩めてしまった『祠』の封印の『末の孫様』。『力を与える代わりに自分の手先となれ』という甘言に信彦叔父さんは抗う事なく従った。そして自分が迫っていた女性の住む家を『妖』の力で襲い、結果その夫が亡くなったのです」


「お父様が……『妖』……」

「…………ッ!! 信彦が……『妖』となって人を? まさか……」


 信彦の娘咲良は茫然自失となり、兄光彦は自分の弟が一族の天敵である『妖』のとなり人を殺めた事をまだ認められない気持ちだった。


「───その女性の亡くなった夫は、私の息子だ」


 八千代は吹き荒れる思いを抑え、一言そう言った。

 信彦達は一斉に八千代を見つめ青褪めた。


「……その時、信彦叔父さんはその女性の反撃を受けこの地の外に追い払われた。……その時いったん叔父さんはその闇の力から解放されたのでしょう。その後こちらで結婚して普通の家庭を築いていた。
……しかし一年前にまた呼び戻された。『末の孫様』は30年前の女性の子供を探していた。その子が大きな力に目覚める前に始末させる為に叔父さんに再び『妖』の力を与え、行方の分からないその人物を狙い次々に人を襲わせた」


「……ッ。まさか……本当にあの事件も犯人は信彦だったというのか」


 光彦は目の前が真っ暗になり倒れ込みそうな気持ちをなんとか耐えていた。


「そうです。あの『黒い霧』の事件は『末の孫様』が女性の子の力が目覚めるのを恐れ、信彦叔父さんに襲わせていたのが真相です。
……そして今回、その女性の子を狙って信彦叔父さんは再びこの地を訪れた。しかし『末の孫様』はその子によって浄化された。そして『末の孫様』の闇の一部となっていた信彦叔父さんの身体の機能は停止したのです」

「───なんと……」


 光彦達は、最早それ以上何も言えなかった。





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