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佑磨の『縁』
しおりを挟む余りの事実に言葉も出ない様子の父や信彦の妻と娘咲良に、佑磨は更に話を続けた。
「……しかし、信彦叔父さんの中の『闇』は身体がを無くしても消えなかった。
残念ながら叔父さんは私の身体を手に入れようと先程まで私の中にいたのです」
「な!? 信彦が甥であるお前を……!? なんという事を……、アイツはそこまで堕ちていたのか。……人を妬み力を欲し人妻に迫って人を殺めた時点で、既にアイツは堕ち切っていたのか」
「……お父様……」
そう言って苦悶の表情で涙を流す光彦や信彦の妻と娘を、周囲の者達は何ともいえない思いで見た。
……そして少しして、光彦は鞍馬本家当主八千代に向き直った。
「───ご当主様。今回の事……いいえ30年前のご子息の件から何もかも、誠に申し訳ございませんでした。……心よりお詫び申し上げます」
光彦はそう謝罪して頭を深く下げた。……それに信彦の妻と娘も続く。
「───大切な、息子であった。私はあの時の事を決して忘れる事は出来ないし、その犯人を赦す事もない」
八千代の静かに燃えるような怒りをひしひしと周りは感じた。
光彦達はただ深く項垂れる。
「───しかし犯人の身内というだけのあなた方を非難し続けるつもりはない。
恨みや怒りの負の感情は、『力』を持つ者にとっては劇薬と同じ危険なものだ。
あなた方が我らに敵対したり反省のない行動を取らない限りは我らは何をもするつもりはない」
暗に余計な事をすればいつでも力で対応するぞと八千代は告げた。
───人は誰でも『闇』に転ずる弱さを持っている。鞍馬一族は、それに引き摺られない強い心がなければいけない。そうでなければ彼らはとっくに『闇』と『欲』に塗れた集団となっていただろう。
花凛は悲しみを堪え凛と立つ八千代をジッと見つめて考えていた。
『末の孫』様は極端な例だったが、人とは弱いもの。彼を教訓に一族は自らを律してきたのだろう。
「謝罪して済まされる話ではございませんが、今後の対応についてもしっかりとさせていただく所存でございます」
西園寺光彦は全面的に西園寺側の非を認め謝罪した。
西園寺側が納得した様子に、花凛はホッとしていた。
花凛が佑磨を見ると、彼も自分を見ていてお互いに微笑み合った。
「───花凛ッ」
その時、横からグイッと手を引かれる。
「……あ、奏多さん。さっきは話が出来なかったんだけど、体調は大丈夫?」
花凛は共に『末の孫様』と戦った同志である奏多の無事な姿にホッとしながら言った。
自分を気遣ってくれる花凛に、奏多は嬉しさから少し照れつつ言った。
「ッああ……。大丈夫だ。花凛も無事で良かった。……疲れただろう? この辺の話はおばあさま達に任せてあちらで身体を休めた方がいい」
そう言って奏多は花凛を連れて行こうとしたのだが、それを佑磨がとめた。
「───今は大事な話の途中だ。花凛は俺の横で座って身体を休めながら聞いておいた方がいい。人伝に聞くより自分で納得出来るよう立ち会った方がいい」
2人の意見を聞いた花凛は佑磨の話に頷いた。
「……確かにそうね。身体も一日たっぷり寝てたから大丈夫だよ。奏多さんはどうかな? 将来の南家当主として身体が大丈夫そうなら話を聞いておいた方がいいんじゃない?」
そう言って奏多を見ると、少し苦い表情をしてから使用人に声を掛けて花凛の横に座る。後で使用人が背もたれ付きの座椅子とお茶を3つずつ持って来てくれた。
花凛は奏多に礼を言って座る。そして前から強い視線を感じたので見てみると、ほぼ全員がこちらを見ていた。
え? と思って改めて自分達をみると、自分を佑磨と奏多がピタリと密着しガードするように固めている。
「あの……この部屋は広いし、もうちょっと椅子を離しても良いんじゃないかな」
花凛はそう提案してみたのだが、2人はにっこりと笑った。
「……いや、私はこれでいい」
「俺もこのままでいい。……他にも誰か来るかもしれないし」
今は意見が合っている彼らに花凛は苦笑した。
そんな3人を苛々しながら見ていた咲良は、つい我慢しかねて言った。
「───あなた。……鞍馬花凛さん? いったいどういうつもり? 隼人さんの次は佑磨様を狙ってるの? 他にも男性を侍らせて、何様のつもりなのよ!?」
必死に苛立ちを抑えているつもりだが、言葉の端々に棘がありその内容も花凛を明らかに糾弾するものだった。
「……咲良! やめないか。失礼だぞ」
流石に今回の真実を知った今の自分達の立場で話す内容ではないと考えた光彦は止めるが、咲良の勢いは止まらない。
「……だって伯父様! あの人は鞍馬の血縁でも何でもない人なのよ! それに自分の勤める会社の社長にも反抗的だったわ。そんな人が佑磨様の隣にいるなんて……!」
「血縁がない……? 佑磨さんは西園寺家の跡取り。鞍馬の血縁でもない方がお相手なんて許されませんわ」
花凛が鞍馬の血を引かない者だと聞いた信彦の妻はそう言って顔を顰めた。
それを聞いた鞍馬一族側は雰囲気が一気に悪くなった。
それに気付いた光彦はなんとか取りなそうと口を開く。
「いや、我が一族は代を重ねるごとに力を弱めております。私は楓を妻に得た事でこうして佑磨は力に恵まれました。ですので出来れば佑磨には鞍馬の強い力を持った女性との縁を望んでおりまして……」
光彦はここで出来れば本物の鞍馬一族と縁を結びたいと本来の願いも伝えて相手の反応を見た。
目の前の八千代は分かりやすくため息を吐いて肩をすくめた。
しまったこのような時に調子に乗り過ぎたかと光彦は冷や汗をかく。
「───我らは一族の力を守る為、余程本人が強く望まない限りは他所に縁を繋げることはない」
あっさりと断られ、光彦は内心大きく落胆した。
「……でしたら! 佑磨様も同じです。彼を鞍馬の血を引かない人となんか一緒にさせられません!」
何故か咲良がそう言い切った。が……。
「───咲良。勝手な事を言うな。私の縁は私が決める」
すぐさま佑磨が咲良をそう言って否した。
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