30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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過去の清算

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「……昨日は本社の創業者一族の副総帥のお葬式だったのね。うちの社長が昨日お休みだったのはそれに行ってたかららしいわ」


「───そうなんですか」


 花凛が会社に復帰して3日。溜まっていた仕事をやっとこなして通常モードに入ったところだった。


 同僚の橘さんは世間話をしながらコーヒーを飲む。食後に事務所に戻って休憩中で周りには同じ部署の人達も戻って来て話をしていた。


「本社のお偉いさんだから私達に直接関係はないんだけど、まだ60にもなっていない方らしいわ。……お気の毒よね」

「……聞いたんですけど、西園寺咲良さんのお父様らしいですよ。父親の身体が悪かったからあんなに結婚を急いだんですかねぇ。……まあすぐに別れちゃったから余計に心労かけたかもですけど」


 そして『咲良』の名前が出た途端、皆一斉に隼人をチラリと見た。


 ……みんな、よく知ってるんだなぁ。


 花凛は感心しながら周りを見ながら思う。


 ……花凛は系列会社の一平社員だし、亡くなった西園寺信彦とは『祠』の前で攻撃されたという間柄。……そして、花凛の実の父治仁の仇でもある。


 そんな訳で、佑磨の叔父ではあるものの花凛は葬式等には参列しなかった。
 花凛は何かを誤魔化すようにコーヒーを一口飲んで言った。


「……もう過去の事ですし、そんな目で見たら気の毒ですよ」


 そして花凛の中でも、花凛の思いを踏み躙り咲良に横恋慕された隼人はすっかり過去の人である。

 隼人を見てももう何も感じないと花凛が自分の気持ちを再確認したところで係長から声が掛かった。



「───鞍馬君。……ちょっといいだろうか」


「「「!?」」」


 デジャブを感じた花凛と周囲の人達は一斉に係長を見た。

 係長は一瞬びくりとして困った顔をしながらも言いにくそうにもごもごと口を開く。


「───社長室からの、呼び出しで……」


 そこにこの部屋の真の実力者である橘さんが係長の言葉に被せるように言った。


「───係長? また懲りもせずそんな事を───」

「───ッ。橘さんっ」


 花凛は自分の為に係長を止めようとしている橘を必死で止める。


「橘さん。───あの、私行って来ますね。多分、大事な用件だと思うので」


 すると係長はあからさまにホッとした顔をし、橘さん達は心配そうに花凛を見たのだった。



 ◇


「ようこそいらっしゃいました、鞍馬様!」


 社長室をノックすると、すぐに爽やかな笑顔で社長秘書の川西さんが対応してくれた。
 花凛が礼をするとどうぞと中に通される。

 花凛が一歩部屋の中に足を踏み入れると、川西の向こうから佑磨がやって来て手を取られた。


「花凛。……会いたかった」


 そう言って甘く微笑んでくる佑磨に花凛は真っ赤になった。……が、部屋の中にいる人物に気付いてなんとか真顔にする。……顔が赤いままだったのは自覚している。


 部屋の中には佑磨の母である西園寺楓が居た。……今回は魔法は使われてはいなかった。
 楓は手を取り合う2人を見て少し苦笑しながら声を掛けてきた。


「花凛さん。……よく来てくれたわ」


「……先日は失礼いたしました」


 花凛がそう言うと楓は真剣な顔で答えた。


「先日の事はこちらが本当に失礼をしました。それなのに貴女は私に癒しの『力』を使ってくれたのね。
……さあ、まずは座って頂戴」


 『妖』となり『末の孫様』の消滅によってその命が消えた西園寺信彦の葬儀を終え、今日までの手を離せない用事を済ませたらすぐに楓と会いに行くと佑磨から連絡が来ていた。


 花凛は頷き、佑磨に手を引かれて2人掛けのソファに2人で座る。
 ……その手は繋がれたまま。
 流石に佑磨の母親の前で恥ずかしく思った花凛は手を引き離そうとしたが、佑磨は決して離してはくれなかった。

 それを見ていた楓は諦めたようにため息を吐いてから言った。



「花凛さん。私は貴女にもう一つ謝らなければならないの。もう知っているとは思うのだけれど……」


 楓はそこまで言っていったん言葉を切った。
 そして心を落ち着けるように大きく呼吸をしてからもう一度花凛を見ていった。


「───32年前。……私はしてはならない事をした。そして当時婚約者だった花凛さんのお父様……治仁さんの人生を大きく変えてしまった。……心から、謝罪いたします」


 楓はそう言って頭を下げた。


 花凛は以前会った時や周りからの話から、楓がこんな行動をするとは思わず驚く。


「……あの。貴女のされた事は決して良い事ではなかったとは思います。……けれど、そのお陰で父と母は出逢い、そして私も生まれたんです。だから、私が貴女を恨む事はありません」

「……花凛さん……。いいえ。けれど治仁さんが死んだのは、私が信彦さんに里の話をしたからだわ。
……周りには言えなかったのだけれど、里から出て光彦さんと出逢った後、彼の弟信彦さんから自分を選んで欲しいと何度も言われていたの。『力』で彼を跳ね除けていたのだけれど余りにも彼がしつこいものだから……。ある時『鞍馬の里』に行けば他にも力を持つ女性はいると告げてしまったの。……それから彼は里に行ったようだった……」


 それを聞いた花凛はハッと顔を上げる。あの時楓さんが信彦さんに話した事で、それで里へ行き『妖』となり治仁さんを? 
 どくり、と胸が嫌な音をたてた。




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