30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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花凛の気持ちと未来

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 ……その時、佑磨の手が花凛の手を優しく握る。花凛は佑磨の労わるような顔を見て、ゆっくりと深呼吸をした。
 ……違うわ。西園寺家は鞍馬出身なのだから、いずれは信彦さんは力のある女性を求めて鞍馬の里に来ていた。……楓さんのせいではないわ。


「……多分、楓さんが言わなくてもいずれは里に行っていたんじゃないでしょうか。西園寺家は元は里の出身なんですから場所なども知っていたでしょうから……」


「……ッ……。花凛さん……」


 そう言った後、楓は流れ落ちる涙を拭いた。


 そこに川西がスッとお茶を出す。


「……聡太。あの菓子も出してくれ。
花凛。甘い物好きだろう? ほら、『星華亭』の限定スイーツだ」

 
 その後すぐに出された有名店のスイーツに一瞬目を輝かせた花凛だったが、いや今ここでスイーツに食いつくのは違うだろうと気を引き締めた。


「うわぁ……♡ ……っと、コホン。佑磨さん?」


 そう言って佑磨に今そんな場合じゃないからね? と花凛は目で訴えたつもりだったのだが。


「……うん? 食べさせて欲しいのか? ……ほら、あーん」

「イヤイヤ、違いますからっ。佑磨さん! 貴方以前はそんなキャラじゃなかったですよね!?」


「───花凛。口を開けて?」

 とそれでも甘く囁く佑磨に慌てて抑えようとする花凛。

 するとそれを目の前で見せられた楓は最初は息子の今までにあり得ない態度に呆然としていたが、やがてクスリと笑った。


「───まあ、佑磨。あなた昔はなんだかんだ文句を言ってたけれど父親に……光彦さんにそっくりになったわね」


 そう言われた佑磨は少しだけ視線を楓にやって言った。


「───昔は父さんの母さんに対する態度はあり得ないと思っていましたけどね。……今はよく分かります。最愛の人が出来たら離したくなくなるのだという事が」


「まあうふふ。やっぱり親子ねぇ」


 そう和やかな会話をして笑い合う親子に、花凛は頭が痛くなる思いだった。


「……とにかく! 佑磨さん、コレは後でゆっくりいただきます。今はきちんとお話がしたいんです」

「花凛。どうした? 苛々しているのか。やはり甘い物を……、ほら」


 などと2人でやりやっていると、社長室の前が何やら騒がしい。


「───? 佑磨さん、外で何か……、んっ!?」


 そう言った瞬間、花凛の開いた口にスッとスイーツが放り込まれた。

 そしてその瞬間。


 ───パタンッ!
「失礼しますっ! どうして鞍馬さんが何度も呼び出され……、え?」


 社長室に乗り込んできたのは、花凛と同じ事務所の橘やその仲間。そして友人美咲達だった。

 皆は何度も社長室に呼び出されその度に何事か揉め事が起こる花凛の事を心配し、自分達の立場が悪くなるかもしれない事も厭わずにここまで来てくれたのだった。


 ……が、意気込んで社長室まで来て見たものは、どこから見てもイチャつくただのカップル。……いや、バカップルなのか?

 こんな、神聖な? 社長室で美青年にスイーツを口に入れてもらっているなんて!


 皆が唖然としたところで花凛が慌てて言い訳しようとする。しかし、たった今口に大きめのスイーツを放り込まれた所なのでモゴモゴと言葉にならない。


 涙目になった花凛は佑磨に目で訴える。それを見た佑磨は心得たとばかりに頷いた。


 ───しかし先ほどもそうであったように、まだ2人の意思疎通は出来ているとは言い難かったようだ。


「……あなた方は花凛を心配して来てくれたのか。いつも花凛がお世話になっているようで感謝する。そして見てもらって分かるように、花凛と私は将来を約束した者同士。これからまたよしなに頼む」


 佑磨はそうにこやかに皆に宣言した。


「「「───ッ!!」」」


 皆はただ驚いていた。


「───ッ!?」


 花凛は驚きと混乱で真っ赤になっていた。そして心の中で叫ぶ。


 ……違う、そうじゃない!! なんとか皆を誤魔化して欲しかったのに!


 そして皆の様子を見ると、段々と驚きから復活し「え? この人って本社の創業者の御曹司だったよね。雑誌で見た事がある」「うそ! めちゃ美青年なんだけど!」「こりゃ、隼人は負けるよね……」「鞍馬さん、いつの間に……!」


 などと、驚きと羨望の眼差しに変わっていた。

 そして隣には満足げに微笑む佑磨。


 ……ああダメだこりゃ。こんなの今更覆せない。

 ……いいえ違う……。覆したり訂正したりなんて、する必要はないんだわ、だって……。


 ───彼は私を想ってくれていて、そして……私も佑磨さんを……愛おしく想っているのだもの。


 花凛は急に何かストンと全てが腑に落ちて、佑磨の隣で微笑んだのだった。



 ◇



 ───5年後。


「本当に、長生きはするものだねぇ」


 鞍馬本家で八千代は座椅子に座って三郎太に微笑んだ。
 

「……そうでございますな。ウチも孫ラッシュですが八千代様はひ孫ラッシュ。まぁどの子も可愛くてなりませんな」


 先日三郎太の所にも東家の後継瑞季に2人目の子が産まれたばかりだ。他にも瑞季の兄達の子も生まれている。


「瑞季と花凛の子は上も下も同い年だ。おそらく今回はその祝いも兼ねて来るのだろうが……。この曾祖母の所に先に来てくれると約束してくれたのだ、楽しみよのう」


 そう言って嬉しそうに笑う八千代を三郎太も嬉しげに見た。

 ……八千代は息子治仁を亡くしてからずっと心の傷が治っていないようだった。しかし5年前に治仁達の関わった全ての謎が解けてからは段々と緩やかに心が癒えてきているようだった。


「───ああ、来たようじゃな」


 車が到着し玄関先が少し騒つくのを感じた2人は少しそわそわとしながらここに到着するのを待った。

 すると行儀が悪くない程度の急ぐような幾つかの足音が聞こえ、ひょっこりと顔を覗かせた。


「やちよちゃまっ!」

「……ああ、よく来た。また大きくなったの」


 可愛いひ孫の登場に八千代の頬は緩む。

 そこに3歳になる我が子を追いかけて花凛が入って来た。八千代はとても優しい目で花凛を見つめた。子供を捕まえホッとしてから花凛は八千代に微笑んだ。
 

「八千代様、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

「ああ。お前達の成長を見るのが今の私の生き甲斐だからね。大地の子とも遊んでやってくれ。……それから奏多もまた来るじゃろうて」


 下の子を抱きながら遅れて入って来た花凛の夫佑磨はそれを聞いて少し不機嫌そうな顔をした。


「奏多殿は最近結婚されたと聞きましたが」

「……結婚したって来るよ! 佑磨、お前自分が花凛と結婚出来たからって調子乗ってんじゃないぞ」


 既に本家で大地の所に行っていた奏多が来ていつものように口論が始まった。


「……全く。お前達は相変わらずじゃの。けれど『妖』相手となれば良いコンビになるのだから不思議なものだのう」


 八千代が呆れながら言った。
 花凛の出産前後に起きた『妖』事件はこの2人が速やかに解決している。
 あれから大きな事件はないものの、『妖』はいつも何処かで現れているのだ。


「当然です。花凛を危ない目に遭わせる訳にはいかないですから」

「花凛を守るのは俺の役目ですから」


 2人はそう言った後、互いを見てふふんと笑った。……やはり気は合うのだな、と八千代と花凛は思った。


 八千代は去年一度入院してから本家当主の座を長男篤之に譲っている。そして次の当主とされているのはその次男大地。彼はめでたく力に目覚め結婚して子供も生まれた。長男正樹も結婚し家を出ている。


「かなたおじちゃーん! またあそんでねー」

「おういいぞ! それから、ウチもその内チビが生まれる予定だから、仲良くしてやってくれよな」


 奏多はそう言って3歳の長男湊の頭を撫でる。


「そうなの!? おめでとう! 奏多さん!」

「おめでとう。……お前の子ならまたこうやってグイグイ来るんだろうな……。うちの娘はやらんぞ」


 花凛は嬉しそうにお祝いを言い、佑磨は抱いているまだ生後半年の娘を庇うようにして言った。


「佑磨! ていうかまだ男女どちらかも分かんねーのに、何言ってんだ。……まあいずれそうなれば良いなとは思ってるけど」


 奏多は最初佑磨を嗜めたが、やはりいずれ子供同士が縁付く事を考えないではなかったらしい。

 花凛は思わずクスリと笑う。


「佑磨さんたら気が早すぎ! ……でもそうなったら素敵かもね」



 八千代も三郎太もそれを微笑ましそうに見ていた。


 花凛はそんな八千代に近付き癒しの魔法を掛ける。八千代はありがとうと微笑む。
 先ほども実家の祖父や家族に会い、そっと癒しの魔法をかけてきた。

 そして呼ばれて『妖』を退治する為に力を使う事もある。


 ……大切な人達に囲まれて、そして共にこの『力』を使う。アオイさんから引き継いだ大切な『力』を、これからも愛する皆の為に。


 佑磨はそんな花凛の肩を優しく抱いて、2人は微笑み合った。



《完》









 



 









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