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そして王国へ
リオネルの追及 1
「……実はレティシア様が帝国へ出発されて間もなくして、王国内で私に対するおかしな動きが増えてきたのです」
王国の大広間で、リオネル王子は語り出した。
……最初は、宰相の娘が王城によく出入りするようになり、何かとリオネルの前に現れる。
当時はフランドル公爵家のゴタゴタなどからこの王国を立て直す大切な時期であり、仕事の妨げになるのでこちらに来ないように、と何度言っても廊下や何かでやたらと出くわすのだ。
そうしていたら、更に別の令嬢もよく王城に現れるようになり、他の貴族からも愛妾でいいので是非と娘を勧められたり……。とにかく大変だった。
本人も側近達も相当ストレスになったので、親を呼び出し厳重注意をした。……が、ほとぼりが冷めるとまたチラホラと現れ出した。
その後リオネルは帝国へ招待されレティシアが目の前で皇帝の姪であると証明され、そうして更にその皇帝にレティシアとの結婚の許可を得る事が出来た。
喜びの中その成果を持って王国へ戻り国王や貴族達に、『皇帝に出された皇帝の姪であるレティシアとの結婚の条件が彼女1人を妻とし生涯愛する事』だと周知させた。……それでやっと王国の貴族達のおかしな行動も排除出来ると喜んだ。
……が、それでもほとぼりが冷めるとまた彼女達は現れたのだ。……まるでストーカーか! と思う程の恐怖体験だった。好きでもない女性たちに付き纏われて良い気分などするはずがない。
「……そんな中、私は帝国の皇帝陛下の姪であり筆頭公爵の養女であるレティシアという婚約者がいる私に、執拗にこのような事をするのは何故かと考えるようになりました。
常識で考えるならば、相手が帝国の貴族であるだけで王国としては礼を失してはならぬと普段以上に考えます。学園でも王国は帝国の属国に近い関係と習うのですから。……それなのにあのように皇帝陛下との約束の条件に背くような事を推し進めて来るのは何故なのかと」
リオネルの話に帝国側も王国側も聞き入った。……が、
「何故だったというのだ?」
痺れを切らせたゼーベック侯爵が尋ねた。
「まずは彼らは彼らの娘の誰かを私の第二妃とする事で、王国の覇権を握りたい、と考えたようですね。そして次に……。彼らは自分達の利益を守る為に帝国側へそれなりの金額を渡していた。そして長い年月の間に彼らは与えられた利権はお金を渡さずとも享受出来るのではないか、これはお金の払い損なのではないかという気がしていた。……いつかはそれをやめたい、そのきっかけを探していた。
……そしてそれは、約1年前にフランドル公爵家が狙い通りにこの王国の覇権を握ったのなら叶うはずだった」
聞き覚えのない名前が出てきたのでゼーベック侯爵が尋ねた。
「フランドル公爵家……。リオネル殿下が婚約を破棄したという?」
「……そうです。彼らはフランドル公爵家が王国の覇権を取る方が都合が良かったのです。元々彼らはフランドル公爵を支持する貴族でした。公爵が覇権を握りそこから帝国の力を少しずつ排除していくはずだったのでしょう」
ローズマリー フランドル公爵令嬢の『予言』は、彼らにとって都合の良い話だった。彼らは『予言』が出てから自分達に都合の良い未来となるよう用意周到に公爵派閥の貴族として準備をしていたのだろう。
「しかしもしもそうなっていたのなら、帝国からの圧力を受けるかそれとも諸外国から手を出されるか……。結局はまた泣いて帝国に縋ったでしょうがね」
クライスラー公爵はため息混じりにその話の感想を述べた。
リオネルはそれに対してなんとも言えずに苦笑した。
「……おそらくはそうなっていたでしょう。……とにかくフランドル公爵家が覇権を取る日は来なかった。だからこそ彼らは焦ったのです。そしてそれをなんとかする為に動き出した。……それが、彼らの娘の誰かを王太子である私の第二妃か愛妾とすること」
そう言ってリオネルは宰相や捕えた貴族達をしっかりと見据えた。
「……そうであろう? そして今の安定した王国しか見えていないお前たちはそれが帝国の庇護によって初めて成り立っているという事を真に分かってはいなかった。……宰相やお前達は国の要職に就きながら、欲に目が眩んで見えなかったのだ。
この王国は素晴らしい国だ。気候も温暖で雨も程よく降り川も穏やかでそして自然の恵み、作物が非常に良く取れる。
……しかしそれは誰もが欲しがる物だ。裏を返せばこの国は世界の人々が喉から手が出る程欲しい恵まれた土地、狙われやすい地だという事だ」
豊穣の地が欲しいのは皆同じ。人々は食べる物に困らない豊かな土地を欲しがり、そして……。
「……そうですな。ですから我が王国の歴史を紐解けば争いの絶えない時代が多いのです。誰もがこの肥沃な地を欲しがり、かつてここは豊かな地でありながら平和とは程遠い国であったのです」
そう言ってこの大広間に入って来たのは、王国の老ランベール公爵。この国の最年長の主要な貴族である彼は、最近は体調を崩しており今日は欠席の連絡をしていた。近頃は息子であるランベール公爵が殆ど仕事をこなしている。
「ッ! ランベール公爵閣下! 何を仰っておられるのです! 我ら王国の忠臣が不当に帝国の味方をしたリオネル殿下にこのように手酷くやられておるのですぞ! どうか、リオネル殿下の目を覚まさせてやってくだされ!」
宰相達は老ランベール公爵に必死で叫んだ。
「目を覚ますのは、そちらの方であろう。……宰相どのは見事に公爵派である事を隠しておられたようだが、フランドル公爵の乱の時に貴公らは本当はそれに参加するつもりだった。にも関わらず、王都中で衛兵などが警戒をしていた為にそれが出来なかった。しかしそれで辛くもフランドル公爵と連座させられる事を免れた。
そこから先程リオネル殿下の仰られた帝国への上納金を止める為、そしてこの王国の利権を手に入れる為に動き出したのですな」
そこにこの大広間でずっと彼らフランドル公爵派閥だった貴族を監視するように見ていたベルニエ侯爵が言った。
レティシアはこの一連の流れを見てそして王家派閥と知っている友人ミーシャの父ベルニエ侯爵が出てきた事で、これは王家派とフランドル公爵派の戦いの延長戦なのだわと気付いた。
……あの争いは、まだ続いていたという事なのね。表立った行動をしていなければどちらの派閥かは分からない。多分リオネル様はこの事をずっと調べておられたのだわ。
「ッ! 何を仰るか! 我らはこの王国で国の繁栄を願う善良な貴族ですぞ! それをこのような目に合わせるとは、さてはお前たちも帝国の手先なのだな!?」
宰相達は必死でランベール公爵やベルニエ侯爵ら王家派の貴族に向かってそう罵倒したが、彼らは既に衛兵によって縄をかけられており迫力に欠ける姿だった。
「黙りなされ、帝国の高貴なお方の前で見苦しいですぞ。貴公らが前フランドル公爵と目的を共にしていた事は既に調べはついている。そしてその後に画策していた事も。リオネル殿下の号令のもと、この年寄りも随分と酷使されましたわい。
……くだらぬ野望を抱かなければ、平穏な暮らしが出来たかもしれぬのに全く愚かなこと」
王国の長老で人徳のあるランベール公爵にそう諭され、宰相らはグッと黙った。そして今回ランベール公爵以下王家派の力を借りて動いていたリオネルは苦笑した。
……が、宰相は何かを思い立ちそして叫んだ。
「我らに罪があると言うのなら、それは帝国側も同じなのでは!? 我らはずっとクライスラー公爵家にお金を払い続けていたのだから! 帝国にも収賄罪はあるだろう!? その公爵も犯罪者だ!!」
王国の宰相は、帝国のクライスラー公爵を指差してそう糾弾した。
大広間は一瞬騒然とした。
ーーーーー
リオネル王子、そして王家派の貴族達が頑張ってます!
最年長の老ランベール公爵は、レティシアの友人ミーシャの婚約者のお祖父様です。
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