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18 ねーちゃんの思い
しおりを挟む聖女オリビア……、ねーちゃんはそう言って俺を強い意志のこもった目で見た。
俺は諦めのため息を吐く。ねーちゃんには昔からまどろっこしい言い訳などは通用しないのだ。
「……答えは、『イエス』。一年位前、まるで『ソウタ』の夢を見たみたいに思い出した。『ねーちゃん』は、いつ思い出してたんだ?」
俺の台詞に、ねーちゃんははーっとため息を吐いた。
「……私は教会に聖女と認められて学園に入った頃、かしら。ベンジャミン様のお顔を見た瞬間に、何故か全てを思い出したの」
「ステファン。私は学園に入ってすぐにオリビアと出逢い、愛らし過ぎる彼女に恋をした。何度もプロポーズをしてやっと貰えた愛しい彼女の結婚の条件は『ステファン王子の味方でいる事』。……いや、妬けたよー。思わずまだ子供だったステファンをどうにかしてやろうかと思ったくらいだよ」
叔父はさらりと恐ろしい事を言ってのけた。
……その頃、俺まだ赤ん坊か幼児だろ? 何気に怖いこと考えてんな!
俺が呆れたように叔父を見やると、少しバツが悪そうに『はは』と笑った。……いや、ちっとも笑えねーからな!
「ソウタ。ベンジャミン様のいつもの冗談よ。真に受けないで」
……俺はこの叔父は結構本気だったと思うけど。
まあ話が進まないので今はとりあえずは放置だな。
「ねーちゃんは、初めてこの世界で俺と出会った時には全て分かってたんだな。……この世界がねーちゃんが読んでた本、『ときめく恋を王子と☆学園の秘密……からの、ざまぁ!!』の世界だってこと……」
「ぶはっ! ……何度聞いても凄いネーミングセンスだよねぇ……」
叔父がそう言って吹き出した時、ねーちゃんからの冷た過ぎる視線を受け笑いを止めすぐさま神妙な顔をして黙り込んだ。
……ねーちゃんの事、本当に好きなんだな。というか、ねーちゃんの恐ろしさをよく分かっている……。
「とりあえず、ベンジャミン様は今は口を挟まないでください。……ソウタ。貴方はあのままだったなら今頃はあの本の通りにザマァされていたわ。貴方はよりにもよって、あの本のザマァされて転落していく王子に転生してしまった。私はソウタが不幸になっていく未来なんて見たくなかった……。だって、ソウタの時も……」
ねーちゃんはそう言って目を伏せた。隣にいた叔父が優しく肩を抱く。
「……御免なさい、ソウタ。貴方が事故に遭ったのは私のせいよね……。ソウタのお葬式の後、貴方の部屋であの時渡した本と私が後で聞くって言った本の感想を書いたメモを見つけた時……。私は泣き崩れたわ。ソウタったらあの数の本を一晩で全部読んで感想まで書いてあるんだもの。……私のせいなのよね……」
ねーちゃんはそう言って俯き涙を流した。
いや、アレは読み出したら面白くて止まらなくなっただけなんだけど……。感想はその時に書かねーと忘れちまうからな。走り書きで適当に書いてただけだし、それは決してねーちゃんのせいじゃない。
そしてあの事故にしたって、俺はただ歩道を歩いてただけだし。まあ寝不足で判断能力が落ちてた事は認めるけど、あの時急に歩道に突っ込んで来た車を普通の状態なら避けれてたかっていうとそれは分からない。
……というか、俺はソウタの死後の俺のあの部屋を皆に見られた事が地味にショックだった。本の感想の走り書きも読まれちまったし。それに、アレやコレや……。うわぁ、本当にヤバイ。恥ずかし過ぎるじゃねーか……!
そうして俺はあれはあくまでも事故であって、ねーちゃんのせいじゃないという事だけはきっちり説明した。
「ありがとう、ソウタ。でもコレは私の問題。私が私を許せなかったの。……そしてそんな私が転生したこの世界で、ソウタも転生していると気付いた。だから私はオリビアとして生まれた時から持っていた『聖女』の力を、貴方の為に使うべく神に祈った。……神の答えは、貴方が私の名を呼ぶ事、だった」
ねーちゃんがそこまで自分を責めている事に、俺は驚いていた。
そして、……え? 本当に神からの答えが……『神のお告げ』があったの?
「神のお告げ……? それにねーちゃんはどうやって俺もこの世界に生まれ変わってるって知ったんだ?」
少し疑うような声をあげた俺に、ねーちゃんはキツくひと睨みして言った。
「……私は『聖女』なのよ? まあ殆どの聖女は僅かな癒しの力を持つだけなのだけれどね。……私は何故か小さな頃から神の声が聴こえたの。私は前世を思い出した時にソウタが生まれ変わっている事を神から聞いて知り、そして願った。そうしたらそれを許してくださったの。
ソウタが『ねーちゃん』と私を呼んだ時だけ貴方をあの本の強制力から解き放つ事を」
「ッ! それじゃあ、『ねーちゃん』って呼んだ時にだけあの本通りに強制された状態から解放されたのは、やっぱり……!」
「……そう。私にはそれしか関わる事を許されなかった。ソウタが本当に私の名を呼ぶかは『賭け』だったわ。神はあの本の本編が始まる前には『ソウタ』の記憶を思い出させてくれると約束してくれたのだけれど、貴方が困った時に私を呼ぶかは分からないでしょう?」
「……ああ、まぁ……」
俺は曖昧に返事をしながら、ねーちゃんの名を呼んだ時の事を思い出す。……あの時、俺はなんて思った?
「……ソウタは最初こそ『助けてくれねーちゃん』だったけれど、だんだん雑になってきて確か『どうしてくれんだよ、ねーちゃん!』って考えたのよねぇ。……弟を思いやる優しい姉になんて口を聞くのかと、一瞬助けるのをやめようかと思ったわよ」
ねーちゃんは俺をジト目で見ながら言った。
……そうだった。やべぇ。
「ごめん。あの時は必死だったから……。ていうか、俺が考えてた事そのままねーちゃんに伝わってたのか……」
「起こるイベントは分かっていたのですもの。一応貴方の様子を遠くから視ていたの。私には遠くても決まった場所や特定の人の周りを視る事が出来るから」
まさかねーちゃんに思ってる事がそのまま聞かれていたとは……。俺、他にヤバイ事考えてなかったよな?
「イベントの時だけじゃないよね? オリビアはちょくちょく君を視てたよ。心配だったんだろうねぇ、本当に妬けちゃうよ……っと」
叔父がそう口を挟んだが、またしてもねーちゃんにチロリと見られて慌てて口を閉じた。
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