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解消しましょう
しおりを挟む「……少し、疲れたね。済まないが……「アルベルト殿下! 私、大事なお話があるのです。ええ大して時間は取らせませんわ。少しでいいですので是非!」…………ああ、分かった」
『疲れたので休ませてもらう』。
おそらくはそう言おうとしていたアルベルトの言葉を遮ったツツェーリア。
そして2人はアルベルトの部屋の近くの部屋に入り人払いをした。2人きりになれるのは、成人していない幼馴染の婚約者だから。今はまだそれがギリギリ許されるのだ。
「ツツェーリアも疲れていたはずなのに、今日のパーティーも完璧だったね。流石だよ。
……それで、大事な話とは?」
まだエディット王女との出逢いの衝撃と叶わぬ恋に心の整理が出来ていないのであろうアルベルト殿下。
ツツェーリアはいつもより少し気弱な様子のアルベルトを自信あり気に見た。
「殿下。……大丈夫でございますわ。私は全てを理解いたしておりますので!」
ツツェーリアは勢い込んで言った。
「理解……? ツツェーリア、いったい何を……?」
アルベルトは戸惑いを隠せないようだ。
彼にしてみれば、たった今婚約者がありながら目の前で別の者にその心を奪われてしまったのだ。王女に対する恋心と混乱と、婚約者に対して申し訳ないという気持ちに苛まれているのだろう。
そんなアルベルトを勇気付けるように、力強くツツェーリアは彼の目を見ながら笑顔で言った。
「殿下。……私達、婚約を解消いたしましょう!」
ツツェーリアはいいことを言った! と満面の笑顔だったが、アルベルトは大いに困惑していた。
「───ッ!? ツツェーリア!? いったい何を言い出すんだ?」
ツツェーリアを宥めるようにアルベルトは言った。彼は混乱していた。もしかすると、自分のこの不実な想いに気付いたツツェーリアが悲しみの余りに正気を失いそんな事を言い出したのではないか? とアルベルトはツツェーリアを真剣に心配しそんな思いをさせてしまった自分の不甲斐なさ不誠実さに怒りを覚えた。
もしそうだったなら、自分はなんて事を───!!
そんな思いに苛まれた苦渋の表情のアルベルトに対して、ツツェーリアは余裕の笑みを浮かべた。
「言葉の通りですわ。……アルベルト殿下はエディット王女に恋をされたのでしょう?」
「ッ!! ツツェーリア……、いや違う、そうではないのだ……」
なんとか言い訳をしようとしたアルベルトにツツェーリアは自信ありげに言った。
「殿下。いったい私と何年の付き合いだとお思いですか? それに私は隣で殿下と王女を見ておりましたのよ。……そして……私も同じですので分かります」
「……? 同じ、とは?」
完全に混乱している殿下に、こちらもこれを言わないと卑怯だと思ったツツェーリアは自分の今の気持ちを正直に話す事にしたのだった。
……
「───そう、か……。ツツェーリアも、恋を……。それにハルミンの不幸があってから跡取りをなくしたアルペンハイム公爵家では公爵を始め色々葛藤があったのだな……」
ツツェーリアは自分に想う人が出来た事、そして弟ハルミンを失い悲しみと避けられない後継問題で悩んだアルペンハイム公爵家の内情を話した。
そして、アルベルト殿下と話をしていく内にツツェーリアは自分の想いを叶える為に殿下の恋を利用しようとした自分の身勝手さにだんだんと気付いた。
「……はい。今までお伝えせずに申し訳ありません……。私も、この想いはつい最近気付いたのですが一生胸に留めておくつもりでした。
……申し訳ございません。私は卑怯でしたわ。殿下の恋に乗じてこのような申し出をするなど」
「いや。話してくれてありがとう、ツツェーリア。私は貴女が心からこの国を愛し尽くしてくれているのを知っている。
……そして私も今知ったが『恋心』というものは、自分ではコントロールし難いものらしい」
殿下はそう言うと、大きく息を吐いた。
「……少し、考えさせてはくれないか。
本当はこのままツツェーリアと結婚する事が一番良いと分かっている。……少し、時間が欲しい」
「……分かりました」
そう言ってその日はツツェーリアは王宮の自分の部屋に戻った。
寝支度をし、今日の事を色々考える。
「───あぁ……。殿下の恋につけ込んで、とんでもない事を申し上げてしまったわ……」
ツツェーリアは深く落ち込んだまま、ベットにダイブした。暫くうつ伏せのままひとしきり落ち込んだ後、ガバリと起き上がる。
確かに殿下に自分の勝手な想いをぶつけ、余計な事を言ってしまった。けれど、このまま何もなければ結婚する殿下にはいずれ正直に自分の想いは伝えなければいけなかった。
……これは人や相手によるのだろうが、少なくとも幼い頃から同志として一緒にいたアルベルトと自分の間柄ならば伝えるべきと思う。
だから、ツツェーリアの想いを殿下に伝えた事はまあ良いとして。
──いくら恋する気持ちが分かるからといって、殿下に『婚約解消しましょう』、はなかったわよね……。殿下には殿下の気持ちやお考えがある。
とりあえず殿下も色々お考えになるのだろうから、そのまとまった答えを私は尊重しよう。
そう決めたツツェーリアは、今度はゆっくりとベットに横になった。
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