失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話

本見りん

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「宮野法律事務所は、真里子さんが来てから落ち目になっていった。しかしそれと反比例するように高木家は裕福になっていった。……それを真里子さんは妬んでいた、って事ですか?」


 清本はその勝手な理屈に内心憤りながら彼女らの叔父に問いかける。


「……そういう事に、なるんでしょうなぁ……。実を言いますとね、沙良ちゃんが事故に遭って婚約者と居るようになってから、姉妹の母親……、私の姉の13回忌法要がありましてね。その時廊下で2人で話しているのを聞いちまったんですよ、私。真里子が奈美子を酷く責めているのを」


「真里子さんが奈美子さんを責める? それはいったいどうしてですか?」


「それがまた、とんでもない理屈で。『昔沙良と自分の息子との婚約を断って自分の家を『出入り禁止』なんて非常識な事をするからこんな事になったんだ』って。……いや、私も数年前から2人の家が何やら揉めている事は分かってましたが、それが子供達を結婚させようと真里子が言い出したからとは思ってもいなかった」


 叔父はそう言って大きく息を吐く。


「……しかも、真里子の話を断ったから沙良が変な男に引っかかったんだって……。そんな風に奈美子を責めるなんてのもなんともお門違いな話だ。……私はその時さも今来たかのように2人のいる所に割って入ったので、その時の話はそれで終わりましたが。
……あんな所でそんな話をするくらいだ。おそらく普段から奈美子は真里子にそんな風に酷く言われてたんでしょうな」

「沙良さんが婚約者の所にいるのは昔の別の婚約話を断ったせい……。本当に真里子さんはそんなめちゃくちゃな理論で当時一人娘が居なくなり落ち込む奈美子さんを責めてたんですか」


 鈴木と清本は余りの非常識さに呆れ果てた。

 ……そして、清本は激しい怒りを覚えていた。


「そんな勝手をされ続けたのに、どうして奈美子さんは真里子さんとの付き合いを続けていたのですか」


 清本は湧き上がる怒りをなんとか抑えつつ叔父に問いかける。


「……それが、幼い頃からの摺り込み、とでもいうんでしょうかねぇ。真里子が激しい言葉を投げ付けると奈美子は反射的にはいと答えてしまう。……そんな人間関係が出来上がってしまっていたんですよ。姉さん夫婦も、本当に罪作りな事をしたものです」

 
 叔父は俯き、苦しげにそう答えた。



 ◇



「おい、キヨ! そんなドシドシ歩くな。足痛めるぞ」


「そんな事言われても! ……許せないじゃないですか、そんな歪で勝手な姉妹関係……!」


「まあ、そうなんだがな。大人になっても真里子はずっと奈美子を従わせてたんだな。……おい、早いって!」


「……真里子は言葉の暴力で妹奈美子を支配していた。自分で家を捨てておきながら裕福になった実家と妹を羨みそれを奪おうとしていた! 妹を恫喝してなんでも言うことを聞かせて……、……え?」


 清本はそこまで言って、急に立ち止まる。

 後ろから追いかけて来ていた鈴木は体格の良い清本の背中にぶつかり尻餅をついた。


「……ぶッ! ……おいキヨ、急に止まんな!」


 それでも清本は立ち止まったまま動かない。


「……? なんだ、どうしたキヨ」


「スーさん……。高木家の財産。もし沙良さんが居なくなったら誰が受け継ぎますか」


「……あ? なんだよ急に。俺の尻餅の心配は無しかよ。……んー、なんだって? お嬢さんが居なくなったら当然遺産は松浦拓人だろ。一応『夫』だからな」


「……でも、もしも拓人氏の高木家に対する犯罪が立証されるかそもそも結婚自体が偽証だと証明出来れば……」


「まあそんな証明はなかなか出来ることではないだろうがな。
……キヨ。お前の考えてる事は分かるぞ。真里子が高木一家を消して、その次に権利がある自分が高木家の財産を、ってんだろ? でもそれはお嬢さんが拓人と結婚している以上は難しい。お嬢さんの後に拓人が死んでも遺産は拓人の実家側にいっちまう。流石に弁護士の妻をやってんだからそれくらいは分かってるだろ」


「それは、そうなんですが……。やっぱり俺は伯母真里子が怪しいと思います。
……けど確かに沙良さんが先に死んだのでは遺産は拓人に行くだけ。という事は、2人を一度に消す必要がある……」


「そうなりゃ、特に先日の階段の事故は説明がつかない。真里子はなんらかの形で今回の事件に関わってるんだろうが、遺産目的と考えると犯人とは考えにくい」


「スーさん……。俺、沙良さんの両親の事故は、どうして起こさせたのか方法だけなら分かった気がします」


「……なんだと? キヨ、話してみろ」


 その理由を清本が話すと、鈴木は一考した後頷いた。


「成る程……。あり得ない話じゃないが、それを証明するとなると難しいぞ」  


「……そうなんですが……。とりあえず、松浦氏の書いた手帳の細々した案件から立証していきますか。沙良さんの父親が気付いたという事は、なんらかの手掛かりはあると思うんです」


「……そうだな。それにそこから何か確かな証拠が出てくるかもしれない」


 ピリリリリリ……


「お、誰だ……、っと、はい鈴木です」


 鈴木が不意にかかって来た電話を取ると、同僚からだった。


「はい、そうですその件で今調べて……は? お嬢さんが?」


 『お嬢さん』と聞き清本は顔を上げ鈴木に近寄る。


「伯母真里子に、連れ去られた!? いや、狙われているから気を付けるようにと話はしてあったんだが……、ついさっき百貨店から!? えらい大胆だな。どこへ行ったのか心当たりは? ……ないのか。分かった、こちらでも当たってみる」


 鈴木が電話を切ると、清本が目の前にいて驚く。


「ぅわッ! キヨ、近いぞ! ビックリすんじゃねーか!」
「スーさん! 沙良さんが連れ去られたんですか? 伯母真里子にですか!」


「おぅ、そうらしい。百貨店から堂々と連れ去って目撃者も沢山いる。だからそのままお嬢さんをどうにかするなんて短慮なマネはしねーとは思うが……」

「それだって真里子がどんな言い訳をするのか分かったもんじゃないじゃないですか! 途中で沙良さんが勝手に逸れたから自分は知らない、とか平気で言いそうじゃないですか!」


 そう言って清本は走り出す。


「ちょっ……、待てってキヨ! どこに行く気だ!」

「分かんないですけど、とりあえずは真里子の自宅です! 居なくても真里子の夫に話を聞きます!」

「お、おう……。とりあえずはそこしかねーか。オイ、置いてくなよキヨ!」



 
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