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ある日のシャーロット
しおりを挟むブルック王国筆頭公爵オルコット家の王都屋敷。
───これは建国記念パーティーの1週間前。
「───いくらなんでも、それはないと思うわ」
公爵家の自室で、シャーロットは苦笑しながら目の前の妖艶な美女ブレンダに言った。
公爵家のシャーロットの部屋で人払いをしてから現れた美女と共に、香り高い紅茶を楽しみつつ会話をしていた。
「いいや、アレは間違いなくやらかすね。馬鹿だから後のことなんて考えてないんだろう。
……お前の義妹と良い仲になってるのには気付いてるんだろう?」
艶やかな黒髪にルビーのように輝く赤い瞳のブレンダは魔女である。彼女はシャーロットの亡くなった母の友人であり、今はシャーロットの友人でもある。……年齢は聞いてはいけない。
シャーロットは一瞬眉を顰めた後、ふうと息を吐く。
「───まあね。だけどこの婚約は王命なの。……本音を言えば私だってこの婚約をなくせるものならなくしたいわよ。だけど国王陛下は承知されないでしょう? そして第二王子である彼の婚約者は『私』でないと意味がないのだもの。いくらなんでも彼もそれは分かっているでしょう」
「だから馬鹿なりに考えたんだろうね。お前に何か『瑕疵』を付ければそのまま義妹が公爵家を継げるとでも思っているのではないか?」
「……そんな馬鹿な……。万一私に何かあったとしても従兄弟達もいるわ。公爵家と何の血縁もないミシェルが後継になる事だけは絶対にないわ」
ミシェルは父である公爵が再婚した義母の連れ子だ。義母は某伯爵家の未亡人だったが、前妻の嫡男が跡を継いだ後居場所を失くしていた所を社交の手腕を買われて公爵夫人となった。ミシェルは亡くなった伯爵の娘であり、公爵家とは全くの無関係。それこそあり得ない。
「───まあそうなんだがな。
……そうだ、それなら賭けをしようじゃないか。ほら、お前は例の石を欲しがっていただろう?」
あり得ないと肩をすくめるシャーロットに、いい事を思いついたとニヤリと笑って魔女はその話を持ちかけた。
「え! あの石をくれるの!?」
「ああ。この『賭け』にお前が勝ったなら、あの『石』をくれてやろう。
そうだな……、私の読みでは今度の建国記念日のパーティー。そこでやらかすと思うがね」
「彼は仮にも王子なのだから、自分の立場くらいは分かっているわよ。もしも婚約解消を望むとしても公の場でそんな大それた馬鹿な事をする筈がないわ。───ええ、分かったわ。その勝負、乗せてもらうわ!」
ずっとブレンダに譲って欲しいとお願いしていたモノ。母の形見ともいえるペンダントに嵌める石。それは代々公爵夫人に受け継がれる物らしいが母が受け継いだ時には既にそこに入るべき『石』は無かったそうだ。それをこのプレンダが持っていると聞いたのは母が亡くなってからだ。
シャーロットは思わず身を乗り出し魔女の話に乗った。
「そう来なくては! ……くくッ……。面白くなって来た。ああお前が負けたら……そうだな……猫にでもなってもらおうかな」
「───はぁ? 猫?」
その条件に思わず淑女らしからぬ声を上げたシャーロットに魔女は愉快そうに笑った。
「ははは……! そうだ、猫にしよう。……まあ私も鬼じゃない。こういうのは愛する王子様のキスで元に戻ると相場が決まっているがどうだ?」
「キスって、ちょっと待ってよ……。そもそも婚約破棄されるのなら『王子』に愛されてのキスなんて無理でしょう。
───それになんで猫なのよ?」
……それはふざけすぎてる。何かの御伽話でもあるまいし。
それに『王子に婚約破棄』されるのならその王子に愛されてのキスなんてあり得ないではないか。
「それは私が猫が好きだからさ。
……うーむ、『王子』というのは比喩なんだが……。それでは『お前を愛する男のキスで解除』とするかな。
そして猫になるのは馬鹿があのパーティーで『婚約破棄』と言ったその5分後だ」
エドワルド 王子をすっかり『馬鹿』扱いである。
「なんのなのよ、それは……。
じゃあ、パーティーから屋敷に帰った時点で『私の勝ち』って事でいいのね?」
シャーロットは少し呆れつつも『石』を得る絶好の機会を逃すまいと魔女を見据える。
そう、それはいくら何でもあり得ない話だ。完全に『石』はもらったわとシャーロットは自信を持っていた。
「ああ勿論さ。あの石を人にやる気はなかったが、お前にならいいさ。……まあ私が負ける事はないとは思うがね」
得意げに笑うブレンダに、シャーロットも自信満々に笑って答える。
「ふふ。それではあの石はもう私のものになったも同然ね。
殿下もそこまで馬鹿ではないのだし」
…………そして、建国記念のパーティー。
「シャーロット。貴様との婚約を破棄する!!」
───馬鹿だったぁ───!!
シャーロットは一瞬頭がクラリとしたがそんな場合ではない。彼女は一目散に駆け出したのだった。
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