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猫の名は、ロッティ
しおりを挟む「───ロッティ」
「ニャ?(え?)」
不意に呼びかけられたシャーロット猫はその声の主を見る。
声の主であるクラレンスはニコリと笑った。
「名前がないのは不便だからな。シャーロット嬢にあやかって『ロッティ』ではどうだ?」
公爵の部屋を出た後、何やら考え込んでいたクラレンスだったがずっと猫の名前を考えていたのだろうか?
しかも『ロッティ』は亡くなった母や親しい友人達が呼ぶシャーロットの愛称だ。
……というか、行方不明の令嬢の名前を迷い猫に付けてどうする。そう思ったが、別にそれを否定する程の事でもない。
「ニャアーン(まあ、分かりやすいからいいけど)」
元々呼ばれ慣れた名だから、すぐに自分と分かるから良いけれど。そう思って返事をすると、クラレンスは嬉しそうに笑う。
「そうか、気に入ったか。……ロッティ。今日からお前はロッティだ」
そう言って顎の下を指ですりすり撫でられた。
親しい人にしか呼ばれる事のない愛称をほぼ今日初めて知り合った人に呼ばれるのもおかしな気分だ。けれど彼には暫くお世話になる事になりそうだしそうなると名前は必要だ。
「ニャー(まあ良いけどね)」
ニコニコと嬉しそうに微笑んで撫でられるのも心地よく、シャーロット猫は喉を鳴らすのだった。
◇
クラレンスはシャーロット猫を抱いたまま各部署に指示などをした後、ある部屋の扉を開く。
……立派な扉に大きな机や応接セット。……ここは近衛師団長室なのかしら?
片手で抱かれたままシャーロット猫がキョロキョロとその部屋を見渡しているとパタンと扉が閉められた。
……すると、シャーロット猫はがしりとはがいじめ?にされる。
「ウニャッ!?(なにっ!?)」
シャーロットはビックリして身じろぎするが、大きな腕でガッシリと抱き込まれその手はシャーロット猫の毛並みを味わうかのように撫でている。
「可愛い……。こんなに可愛い猫は初めてだ。この毛並み、触り心地抱き心地ふわふわ感……。はぁなんて癒される……。
───は! 済まない」
クラレンスは我に返ったようでパッと自分の体から離しシャーロット猫と目を合わせる。
先程までのクールな様子のクラレンスからの豹変ぶりにシャーロット猫はビクリと震え毛が少し逆立つ。
「済まない、驚かせたか……?
ロッティ、……もしこのまま飼い主が見つからなければ私の所で暮らさないか……?」
部屋に入った途端、恍惚とした表情でシャーロットを撫でていたクラレンスが今度は一変して真面目な顔でそうシャーロットに問いかけてきた。
驚いて毛が逆立っていたシャーロット猫はまるでプロポーズかのような態度のクラレンスの目をジッと見る。水色の美しい瞳が熱く真っ直ぐにシャーロット猫を見つめていて、そこには少し怯え驚いた顔の白い猫が映っていた。
暫く2人(1人と1匹)は見つめ合っていたが、笑い声と共にふざけたような声が掛かる。
「ぷははっ……。───はいはーい、そこまでー。
クラレンス? 珍しく猫が逃げないからって人種を超えてプロポーズするのはどうかと思うよ」
声を掛けたのは、先程公爵に会いにいくまで話をしていた騎士だった。
クラレンスは慌てた様子でその騎士に訂正する。
「ぷ、プロポーズ……!? 何を言ってるダミアン! 私は迷い猫のロッティを保護しようとだな……」
ダミアンと呼ばれた騎士はおそらくは元からクラレンスと仲の良い騎士なのだろう。あの腕章は副官なのかもしれない。
彼は尚もいかにも愉快そうに笑いながら言った。
「え~? さっきの台詞、まるっぽプロポーズじゃん! ご令嬢に興味がないのかと思ったらそういう『趣味』があったとは知らなかったよー」
……『そういう趣味』とは!? シャーロット猫も動揺して思わずクラレンスの手をガシガシと叩く。しかしクラレンスはもっと動揺していてそれにも気が付かない。
「な! そんな訳があるか! ロッティは凄くお利口な猫なのだ。それなのに飼い主が見つからないから私が保護をだな……」
「ねぇ。さっきから『ロッティ』ってその猫のことだよね? ───もしかして、行方不明の『シャーロット』嬢から名前を付けたの!?」
そう言われた途端、クラレンスはボンっと顔が赤くなる。
「……シャーロット嬢が居なくなったタイミングだったから……。
イヤ、そうじゃない! ずっとシャーロット嬢が可愛いなと思ってたからじゃない! いやご令嬢は素晴らしく可愛いお方だが、婚約者のいる方に対して私は決してそのような不埒な……!」
「ぷははッ! クラレンス、動揺しすぎだって!
どさくさに紛れてシャーロット嬢を愛称で呼びたい気持ちは分かったから!」
「ウニァー!?(ええそうなのー!?)」
シャーロットは更に動揺して、クラレンスの腕に思わず爪を立ててしまった。
……どうやらクラレンスはシャーロットに好意を持ってくれていたらしい。話した事もなかった筈だが、悪い気はしなかった。
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