婚約破棄されたので、猫になりました。

本見りん

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愚か者の末路 2

 貴族達の迫力に黙り込んだ国王に、オルコット公爵はこれまでの怒りを静かにぶつけた。


「───そして陛下。
先程我が家の乗っ取りを考えた事が無いと仰いましたが……。4年前まではレイモンド殿下との婚約の打診。そして3年前には我が妻が亡くなってすぐに『王命』で出されたこの婚約。これらは、我が公爵家を欲するお気持ちの現れでございましょう」


 ───始めから。
 4年前まではレイモンドの妃、3年前には『王命』で無理にエドワルドとの婚約。一貫して国王は何としてでもオルコット公爵家と縁を結ぼうとしていた。それを、『公爵家を全く狙った事が無い』と言えるのか?


 今までの王家と公爵家の流れを知っている貴族達は『確かに』と頷き冷たく国王を見た。


「───陛下。私達は非常に残念な気持ちでおります。先王陛下が早逝し陛下が即位され早約20年。特に滞りなく治めて来られ、我々も貴方様に忠誠を誓って参りましたが……」


 法務大臣の言葉を、国王はそうは見えないようにしながらも息を呑み震えながら聞いた。


「……待たれよ! この度はご子息エドワルド殿下は未熟故の間違いを犯されたが、それは殿下ご自身の問題。成人された殿下の間違いを陛下の責任にするのは如何なものか!?」


 そこに宰相が言葉を挟む。王と年の近い彼は子供の頃から王の腹心の部下だった。


「───そうではありませんぞ、宰相閣下。今我々は事が起こった後の陛下のご判断を申し上げておるのです」

「陛下は罪を犯した殿下の罪を軽くする事のみを考え、被害者を蔑ろにして対応を誤られた。それは爵位の簒奪という恐ろしい罪だったというのに。その罪の深さを考えれば厳しい処罰が必要であったのに、出来ればなかった事にしたいという陛下のお気持ちが誰の目にも見て取れた」

「この国の王として悪を正すことをせず、貴族を蔑ろにしたご判断。……我らは陛下に失望したのです」


 口々に貴族達から聞こえる失望の言葉に、国王の顔色はどんどん悪くなっていく。
 宰相はなんとか国王を庇いたいが、上手い言葉が見つからない。


「ッだからと言って陛下に対しそのような不敬な事は……!」


 宰相はそれでも無理にでも国王を庇おうとしたが、それを止めたのはレイモンド王太子だった。


「宰相。───皆の言う通りだ。陛下はこの国の王として、皆に正しき道を示す事が出来なかった。国の最高責任者が身内を庇い、被害者を守らなかったなどと……。私は王家の代表として、そして次代の王として謝罪する」


 そしてレイモンドはオルコット公爵を見て言った。


「オルコット公爵。エドワルドの犯した罪とその罪を軽くしようとする国王陛下、そして公爵家への度重なる縁の強要……。誠に、申し訳なかった」


 そう言って頭を下げた。

 ───貴族達は王太子のその姿、潔さに騒めく。


「───そして、未だ行方不明のご令嬢を、全力で探し出すと誓う」


 最後のその一言に、それまで表情一つ変えなかったオルコット公爵の口元がぴくりと動いた。


「───そのお言葉に、二言はございませぬか」


 たった1人の娘を想う父親の、乞い願うようなその言葉を人々は切なく聞いた。


「勿論だ。令嬢が見つかるまで探すと約束しよう」
 

「…………ッ……! わかりました。私は殿下を信じます」


 公爵はそう言って頷いた。周りの貴族達もその様子にひとまずホッと安堵した。



「───それでは、此度のエドワルド殿下の件は『法での解決』を行う事として審議させていただきます。しかし今はご令嬢を安全に見つけ出しお守りする事が最優先かと考えます」 


 法務大臣は話をまとめる為に話し出す。


「そうですな。そしてもしもご令嬢が自ら姿を消したとするのなら、今の状況では決して姿を現してはくれないでしょう。ですからまず決めなければならないのは、この婚約の破棄。……当然王家の有責で、相当の慰謝料も取り決めるべきかと存じます」

「それにエドワルド殿下が王都で自由に出歩かれたのではご令嬢も安心出来ない事でしょう。殿下は離宮へ幽閉、その後今回の重き罪の罰として辺境の地で一兵卒として前線での生活をしていただくのはいかがでしょうか」


「いやいや、そんなものでは生温いですぞ。……北の海に魔物クラーケンと戦いつつ獲物を獲る船の仕事がございます。この国で一番キツイと言われるその仕事をしていただくのはどうか。精神も肉体も随分と鍛えられるそうですぞ」


 貴族達から次々と出される恐ろしい処罰の案に、これまで王子として何もかも整えられた生活しかした事のないエドワルドは青ざめ失神寸前だ。
 国王もこんな事ならば最初からエドワルドを生涯離宮に幽閉としておけばと悔やんでいた。貴族達から反発され想像以上に厳しい処罰になりそうな上に、自分の国王としての信頼も地に落ちてしまった。


『───どうしてこんな事に』


 これから先、国王とエドワルドはずっと悔やみ続ける事になる。



 ◇


「ニャアオン……(レイモンド殿下が謝罪されるなんて……)」


 ブレンダの魔法によって会議の全てを見ていたシャーロット猫は呟いた。


「まあ王太子がああでもしないとあの場は収まらなかっただろうからね。……トラヴィスもそれなりな所で落とし所を探していただろうしねぇ」

「ニャア?(落とし所?)」

「そうさね。王は愚かではあるが、糾弾してその地位から引き摺り下すほどではないしそんな事をすれば国が荒れるからね。それに国王一家からすればあれが相当な罰となったはずだよ。……まあ今後予定より早く王太子に譲位となるかもしれないがねぇ」


 『まあ自業自得だがね』と苦笑しながらブレンダはシャーロット猫を抱いたまま優しく撫でた。




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