婚約破棄されたので、猫になりました。

本見りん

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人でも言葉は難しい



 ……ああ、やってしまった。

 『責任』なんて言葉を使うつもりはなかったのに。何故、『愛しているからずっと側にいさせて欲しい』と素直に言えなかったのだろう? 

 クラレンスは自分の言葉に落ち込んでいた。


 ……5年前からシャーロットの事が気になり始め、3年半前に公爵夫妻に認められた時には彼女を愛していた。
 彼女が王命でエドワルドと婚約してからも、パーティーなどでは必ずその姿を探してしまっていた。クラレンス自身は隠していたつもりだったが近しい者には『シャーロット嬢に好意を持っている』とバレていた程だった。

 ……ずっとずっと、彼女だけを求めていた。
 
 そして白い猫が現れた時は何故か妙に心惹かれた。もちろん元々小さくて可愛い動物が好きなのもあったが、それだけではない。白猫ロッティのその薄紫の美しい澄んだ瞳を見た時。……この猫を守りたい、守らなければいけないと自然にそう思ったのだ。

 ───おそらく生涯この想いは揺らぐ事はない。


「……クラレンス様はお優しいのですね。傷物となった私をこんなに気遣ってくださるなんて……」


 シャーロットは少し目を伏せ悲しそうにそう呟いた。そして『それは違う』と言おうとしたクラレンスよりも早く、思い直したシャーロットはパッと顔を上げクラレンスに向き直る。


「……でも! クラレンス様。貴方様を私の人生の巻き添えにする訳には参りませんわ。しかも今回貴方様は猫のロッティと一緒にいて私をずっと助けてくださったのですもの! どうか責任などと言わないでください」

「───ッ違う! 私は……」 

「いいえ、むしろこちらが貴方に責任を負わねばなりません。今回の事が落ち着きましたら公爵家より改めてお礼を……」

「シャーロット嬢……! 私は……」


「───さっきから聞いていればなんだか堂々巡りだねぇ。だいたい人間に戻ってからどんな素敵展開になるのかと楽しみにしていたのにお前達ときたら全く色気のない話ばかりで……」 


 2人の話を聞いていたブレンダがそう言って呆れたようにため息を吐いた。そして2人を見て真剣な顔で言った。


「───シャーロット。お前はもう少し相手の気持ちまで考えて話を聞きなさい。そしてそこのお前はもっと自分の気持ちを素直に伝えな」


 シャーロットとクラレンスはブレンダの言葉にハッとしたようになり、ゆっくりとお互いを見た。


「「あの……」」


 お互いに話しかけて、ハッと黙り込む。
 そしてまたお互いに譲り合って、目が合って苦笑し合ってから譲られたシャーロットがゆっくりと話し出す。


「……クラレンス様。今回の事すべて、本当にありがとうございました。心から感謝申し上げます。
そして私はこの数日間猫として貴方にお世話になって守られて、とても安心して暮らす事が出来ました。なんとお礼を言っていいのか分からない位ですわ。……ですから『責任』などと考えないでくださいませ」


 シャーロットは今回のお礼を心を込めて言った。
 それを聞いたクラレンスは少し考えてから口を開いた。


「───私は私のすべき事をしただけです。
そして先程私は『責任』などという言葉を使いましたが違うのです。私は───」


 クラレンスは一呼吸置いてシャーロットを見た。


「───私は、シャーロット嬢を愛しております。……ずっと以前から……貴女だけを想っておりました。ですから、貴女がお嫌でなければ私にチャンスを与えていただきたいのです」

「───え……」


 クラレンスの告白にシャーロットは驚き彼を見つめた。
 確かに猫になってすぐの頃、副団長ダニエルがそんな事を言っていたような気はする。けれどクラレンスには以前婚約を結びかけた想う人がいるのではなかったのか?
 それを思い出してシャーロットは胸を抑える。……なんだか、胸がチリチリした。


 シャーロットはどうしてもその事が気になり何も言えずにいると、それを断りだと思ったクラレンスは努めて明るく言った。


「───もちろん、貴女が私をそのように思えないのは仕方のない事です。責任など考えずにこの事はお忘れください」

「クラレンス様……。違うのです私は……」

 
 ……なんと言って良いのか分からない。
『貴方には他に好きな方がいるのでは?』、それとも『以前婚約の話が出た方はどなたですか?』 
 ───どれも違う気がするのだ。


「あの……少し、考えさせていただきたいです。きちんと、考えたいのです」


 シャーロットの濁すような返事に、クラレンスは自分に気を使い優しい断りの口実を作る為なのだろうと諦めの気持ちで頷いた。


「───はい。お返事をお待ちしております」


 2人のその様子に、ブレンダは小さく「不器用だねぇ」と呟いてからまた一つため息を吐いた。

 そしてお互い黙り込み俯く2人に向かって、パンッと手を叩いた。
 2人は揃ってブレンダを見る。


「───それじゃあ、そろそろ動き出そうかね。……クラレンス? お前にも手伝ってもらうよ」


 2人はハッとしてその言葉を聞き、真剣な顔で頷いた。




 ───そして、事態は動き出す。





 

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