婚約破棄されたので、猫になりました。

本見りん

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見つかった公爵令嬢




「───聞いたか? オルコット公爵令嬢が見つかったそうだぞ!」

「ああ聞いたぞ。なんでもベランダから落下した時にたまたま体調不良で帰る途中の隣国の大使が通りがかり保護されていたとか……。父である公爵閣下も令嬢を直接確認されたそうだな」

「その大使の郊外の大使館で怪我の療養をされていたらしい。大使自身が体調不良で屋敷に篭っていたので最近になるまで今回の騒ぎに気付かなかったそうだ。令嬢は大怪我と更に心に傷を負われて話も出来ないそうだ。
なんともお労しい事だ……」

 

 シャーロット オルコット公爵令嬢が行方不明になって10日目の朝。

 行方不明になっていた公爵令嬢が発見されたと王宮では大きな騒ぎとなっていた。



 ───そして王都のオルコット公爵邸。


「───兄上ッ! シャーロットが見つかったというのは本当ですか!」


 不祥事で謹慎中のグレゴリー伯爵が実家である公爵邸に慌ててやって来ていた。


「パーシー。……聞いたのか。そうなのだ、やっとシャーロットの無事が確認出来た。
……お前達にも心配をかけた」


 そういって涙を浮かべる兄オルコット公爵にパーシー グレゴリー伯爵は労わるように声をかける。


「兄上……。シャーロットは大丈夫なのですか? 人の話では大怪我で心身共に弱っていると聞きましたが……」

「───そうなのだ……。無事ではあったのだが、何せあの婚約破棄騒動で心に傷を受けしかも王宮のあの高さから落ちたのだ。……私もあの子のやつれた姿を見てやりきれない思いでいる」

「おお……、なんという事でありましょう。……可哀想に、シャーロット。あのような男と婚約させられたが為に……」


 悲しげに目を伏せる兄を見てグレゴリー伯爵はやや大袈裟に両手を広げ悲しんだ。


「私はシャーロットを守り、王家に此度の責任の追求を更にしっかりとしていく。……パーシー。お前も協力してくれるか」

「勿論ですとも! 可愛い姪の為です。
……ところでシャーロットはもう公爵邸に戻っているのですか?」

「───いや、怪我が酷い上に酷く落ち込んでいるのでまだ動かせないでいるのだ。しかし大使にも迷惑をかけるし準備を整え明日にでも連れて帰ろうと考えている」


 公爵は眉間に皺を寄せ、視線を窓の外にやった。……まるで辛い現実から目を逸らすかのようだった。
 その様子からシャーロットの容態も窺い知れ、グレゴリー伯爵も表情を曇らせる。


「……シャーロットはそれ程酷い状態なのですか? よもや社交界に戻れないなどという事は……」

「───それも、今はなんとも言えない。……あの子はそれ以上に心に傷を負っている。療養させこれからの事はゆっくり考えていくつもりだ」

「……そうでございますか。
ああ……なんという事でしょう、可哀想なシャーロット。……兄上、私に出来る事があれば何でも仰ってください。我が家は全員兄上とシャーロットの味方ですぞ」


 グレゴリー伯爵は目を潤ませ兄の側に寄り熱く語りかけた。
 それを見た公爵は、弟を感慨深く見入った後ゆっくりと頷く。


「───ありがとう、パーシー。……なんとも心強い事だ。持つべきものは兄弟だな」

「そうでございますぞ。お力落としなされるな、兄上」


 パーシーことグレゴリー伯爵はそう言って笑った。


 ◇


 グレゴリー伯爵邸はオルコット公爵邸から馬車で南に20分程の距離にある。王都中心から少し離れてはいるが伯爵家としては広くかなり立派な邸宅で、小さな庭園は美しくコマドリ達も集う。

 ……その屋敷は今はその主人が不祥事で謹慎中の為、いつもより暗く沈んで見える。

 しかし今、その屋敷の主人が慌ただしく帰宅した。何事かとこの家の子息達が集まり出迎える。


「お前達! ちょうど良い、急いで私の執務室へ!」


 息子達の顔を認めたグレゴリー伯爵は気が急いた様子で叫ぶように言った。


「父上!? いかがなされましたか」

「やはり、噂は本当だったのですか!?」

「───ああ、ことは一刻を争うのだ。話は執務室だ、早く集まれ!」

 
 伯爵は面倒そうにコートとステッキを差し出して2階へ歩き出し、執事は慌ててそれを受け取った。
 息子3人は目を見合わせながらも父に続いた。



「───それで? 伯父上はなんと仰っていたのですか」


 人払いをして執務室の鍵を閉めた後テーブルを挟んだ長椅子には弟達が座り、その向かいの父の横に座った嫡男マイクが尋ねた。

 今王都中で噂になっている『シャーロット オルコット公爵令嬢が発見された』という噂が真実か否か、話を聞きつけた父グレゴリー伯爵は朝から慌てて公爵邸を訪ねて行ったからだ。


「───事実であった。シャーロットは王都の郊外にある隣国の大使館にいる。兄上が訪ねたが、怪我は酷く心痛も酷い事からすぐには動かせなかったようだ」

「───ちっ。いっそそのまま身元不明で隣国にでも連れて行かれれば良かったのに」


 次男ネイサンは思わず悪態をついた。
 しかし三男デニスは慎重に父に尋ねる。


「怪我とは、どの程度のものですか? 場合によっては後継として立つにあり得ない程ですか?」

「……そこは兄上はハッキリと口にはされなかった。ただシャーロットのその状態を見てかなりショックを受けていたようだから、相当酷いと思って良いだろう」

「それならば体調を理由に後継から外されるかはまだ怪しいところですね……」


 マイクは残念そうに口にする。
 そしてグレゴリー伯爵は『しかし』と話を続ける。


「怪我がどれ程かは分からんが、そうはいっても外傷だからな。後を継ぐだけでいえば問題はないのかもしれん」

「ふん、顔に傷でもついていれば令嬢としての価値は無いのだろうがな」


 ネイサンは吐き捨てるように言った。


「───私はそれでもいいですよ、シャーロットと結婚しても。そんな状態ならば伯父上も喜んで話を進めるのではないでしょうか」


 デニスがそういうと、マイクとネイサンはすぐさま反論した。


「な! それなら俺だって!」

「私も構わないぞ。多少の事は我慢してやる」


 3人の息子は『筆頭公爵家当主』の持つ魅力に取り憑かれていた。


 

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