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「……貴女。性懲りも無くまたいらっしゃったの?」
───出ました。女子生徒軍団。
学園部では女子生徒に絡まれるなんて事はそうは起こらないのに、どうして大人なはずの大学部で毎回こんな目に合うんだろうか?
「貴女、あの方にまったく相手にされていない事がまだ分かってらっしゃらないの?」
「本当に厚かましいわ! 早くあの方を解放して差し上げたらどうなの!?」
「あの方に相応しいのは貴女ではないわ!」
あー……、うん、そう。『あの方を解放』してその後に『あの方に相応しい』と思う自分たちが収まろうって事なのね。
大学部ではクレール侯爵令息が婚約者を蔑ろにしているのが近くで見ていてよく分かるから、彼の外見と家柄に引き込まれワンチャンあると思う方が多いって事かしら。
……それなら、好都合。この本を押し付けてさっさとここから立ち去るわ!
「……私はこれからガスト教授のお部屋にこの本を返却しなければならないのですが……。私が行くと問題があるようでしたら、是非ともこの本を……」
「───遅かったじゃないか」
『この本をガスト教授に届けてください』。
そうフィーネが言い切るより先に、声がかけられた。
……この声は……。
振り返ると、そこには少し不機嫌そうにこちらを見るヴィルフリートがいた。
……やっぱり、クレール様!
声を少し聞いただけで分かっちゃう私って……。いえこれは、特徴的な低い良いお声だからよ。
ヴィルフリートはフィーネと女子生徒達の間にずいと入る。
「ガスト教授が部屋で待ってる。さあ行こう」
着いてこいと言わんばかりにフィーネを見てヴィルフリートは歩き出した。……そしてすれ違いぎわに女子生徒達をチラと見る。
「───君達はいったい何をしていたんだ?」
ひと睨みされた女子生徒達はビクリと震え、その内の1人が答える。
「……ッいえ! あのクレール様! ……その方は……」
「───彼女は、ガスト教授の大切な客人だ。失礼は許されないぞ」
今度こそギロリと強く睨まれ、女子生徒達は口をつぐみその場に固まった。
───一方フィーネは。
……タ、タイミング悪すぎ~~!!
もう少しであの方達に本を預けられたのに! これじゃあ、絡まれ損だわ……!
どうせ行かなければならないならもっと早く来てくれたら嫌な思いもせずに済んだのに……。
ガスト教授の部屋に着くまで、ついヴィルフリートの背中を睨んでしまうフィーネだった。
コンコン……
「教授。ヴィルフリートです。入ります」
部屋に到着し返事も待たずに扉を開けた。
……しかし、またしても部屋には誰も居なかった。
「……? おかしいな。さっきまではいらっしゃったのに……」
少し戸惑った様子でヴィルフリートは部屋を見回した。
その後ろでフィーネは冷や汗をかく。
……コレって、ガスト教授もシェンケル先生と一緒になって、私達婚約者を2人きりにして話をさせようとしてるんじゃないのー!?
そんなフィーネの焦りに気付くことなくヴィルフリートはフィーネを部屋の中へ入るように促し、扉を少し開けた状態にして奥に入っていく。
……うん。年頃の男女が締め切った部屋に2人きりは良くないもの! 意外にちゃんとした方なのね……。
フィーネはヴィルフリートの動きをじっと見る。
部屋の奥まで行ったヴィルフリートは、あらかじめよけてあった本を数冊取りフィーネの前に戻る。
「これが、先日の天文学に関わる本。同じ作者の本を集めておいた。ガスト教授は席を外しているが、許可は得ている。───座って」
勧められ、応接セットになった向かいの革製のソファに座る。
内心、もう借りた本を返したらすぐに立ち去りたかったが、つい新たな本に惹き込まれるように座ってしまった。
そんなフィーネを見たヴィルフリートはクスリと笑う。
「読みかけてていいよ。ちょっと待ってて」
ヴィルフリートは手慣れた様子で傍に置いてあったポットからお茶を入れお盆に載せて持って来た。なんとも言えない良い香りが漂う。
「どうぞ」
「ありがとうございます……。本もとても興味深かったです。
こちらはお借りしていた本と……あの、こちらはお口に合えばいいんですが」
そう言って借りた本と御礼のお菓子を差し出す。王都で最近人気のカフェのお菓子セットだ。
「……ありがとう。甘い物は好きなんだ。……教授も喜ぶ」
甘い物が好きなのは本人か教授なのか分からないが、喜んでもらえたようで安心した。
……甘い物、好きなんだ。私と一緒だわ。
フィーネは少しほっこりする。
「お好きなようでしたら良かったです。……淹れてくださったこのお茶も良い香りです」
どうぞと言われたので口を付けると、侯爵令息が淹れたとは思えない程ふくよかな味がして美味しかった。……思わず顔が綻ぶ。
「……とても美味しいですわ」
そう言うと、ヴィルフリートはフィーネの顔を暫く見いった後、ふわりと微笑んで言った。
「……それは、良かった。幼い頃から乳母から仕込まれてね。貴族の令息はお茶くらい美味しく淹れられなければダメだと。……本当だった。役に立ったな」
その破壊力のある美しい笑みに一瞬見惚れたフィーネは次の瞬間我に返り、横を向いて冷静になれと自分に言い聞かせる。
……これは、近くで見ている大学部の令嬢達が彼の婚約者の座を欲しがるのも分かるわ。……危なかった、私もつい見惚れてしまったもの。
これだけの美形の微笑みを近くで見ていたら、周りの女性達が彼に夢中になるのは仕方のない事だわと大いに納得した。
「……そうですわね。美味しいお茶を淹れる方はとても素敵だと思います。私も見習わないと」
フィーネは平民として暮らしていたからお茶は普段から淹れていたが、どちらかというと普通の料理の方が得意だ。……貴族の令嬢としてはあり得ない話だが。貴族の令嬢ならいい所お菓子作りくらいだろうか。
「……君は、剣を使うのではないのか」
───は?
不意にかけられた一言に、フィーネはヴィルフリートの顔を見たまま固まってしまった。
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