平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん

文字の大きさ
上 下
4 / 16

『平凡令嬢』の災難

しおりを挟む


 
 ……それにしても。


 公爵令嬢を見送った後、ミランダは庭の見える良い席を見つけ食事を取りながら考える。

 先程の男子学生。……『平凡令嬢』の噂がされる時、確かにその多くは彼がいるグループだった気はする。けれど、彼がいない時にも噂されているのをミランダは何度か聞いていた。

 噂が、一人歩きしていたということ? 
 それにしても、あの男子学生がそれほどの発信力を持っているとは思えない。彼はどちらかというと目立たないタイプで交友関係もそう広くはないと思う。


 ミランダが悩みながらもほぼランチを食べ終わる頃、食堂に見たくなかった集団がやってきた。


「この時間になると、随分人が少ないな」

「ええ。次の授業は先生が休みですからここでお茶でも飲みながら自習するのはやはり穴場で良さそうですね」

「何を飲まれますか?」

「ええーとね! セイラはぁ、甘いものも食べたいのぉ……」


 例の、お花畑集団である。

 関わりたくないとばかりに、食堂にいた生徒達は慌てて片付けを始める。

 勿論ミランダも最後の一口を慌てて食べて去ろうとしていたが、最悪なことに彼らはこちらに来てしまった。


「セイラは庭が見渡せるいつものあの席が良いなぁ……、あ。誰かいる」


 ……しまった。
 もう新たな客が来る事はないだろうと、良い席に座ったのが仇になった。


 セイラがこちらまで来ると、後から王太子達もやって来てミランダと目が合う。


「……あ。セイラこの人知ってるー。ほら、噂の『平凡令嬢』よね! セイラはいつも目立っちゃうから、平凡って羨ましいなー」


 ……この人達も、その噂を知ってるのか。

 ていうか、絶対に羨ましいなんて思ってないわよね? あーコレはいわゆるマウントを取るってやつなのかしら。ほぼ初対面の相手にこんな態度取るんだ。……これはさっきの男子学生の方がまだ可愛げがあったかもしれない。


「セイラはその愛らしさでどうしても目立ってしまうのだ」

「そうですね。その可愛さを隠しようがないのです」

「……あちらの方が、庭が綺麗に見えますよ。行きましょう」


 1人の取巻きが、そう言ってこの場から離れようとした。


「ええー。ここがいいのにー」

 そう言ってセイラはムクレたが、

「……マルクスの言う通り、向こうの方が落ち着いて勉強が出来そうだ」


 意外にも王太子がそう言って4人はそちらに向かい出だした。
 ……が。スルリとセイラがこちらに戻って来て彼らに聞こえないくらいの声でミランダに言った。



「もう! アンタのせいでその席に座り損ねたじゃないッ! まったく、『平凡令嬢』は気が利かないわね!」


 しっかりセイラに悪態をつかれてしまったミランダ。関わりたくはないから黙っているけれどそれでもモヤッとする。……その時。


「……セイラ。何をしている? 殿下がお待ちだ」


 突然、取巻きの一人──騎士団長嫡男であるマルクス ハルツハイムが現れた。マルクスは優しくセイラの手を取ると、ミランダを睨みつけた。
 

「『平凡令嬢』は大人しくしてるんだな。……セイラ嬢に近付くな」


 マルクスはそう言うと、セイラに微笑みかけてエスコートして王太子の元へ連れて行った。


 ミランダは、茫然とする。


 ……な、なにー!? 今の、絶対私は悪くないわよね!? セイラ嬢から私に絡んで来たんですけど──!!


 セイラに対する『モヤッ』からマルクスに対する『苛立ち』に変わり、暫く立ち尽くしたミランダだったが、午後の授業の準備をしなければと気を取り直しトレーを持って返却口へと向かう。

 ……すると。


「……ねぇ、あなた。マルクス様といったい何を話していたの?」


 ミランダの前に立ち塞がったのは、侯爵令嬢マリアンネ シッテンヘルム。後ろには2人の友人らしき令嬢を引き連れている。

 ……どうやら、先程ミランダがマルクスと話をし立ち去るのを見続けていたのが気に入らなかったらしい。


 ミランダは目の前がクラリとした。


 ──今日、厄日なのかしら?

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...