平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん

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ある日の『平凡令嬢』

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「……そう、だからー、ミランダはダメだろー」

「そうだよな。落ちぶれかけの伯爵家より勢いのある子爵家の方が余程いいよな」


 ある日、先生の手伝いをした後ミランダは遅めの食事をとる為に食堂に来た。今日は1人だし奥で庭を見ながら食べようかと空いている席を見ていると、奥のテラスからまた男子生徒のミランダを貶めるような会話が聞こえて来たのだ。


 ──またか……。
 いや、でもどうして男子はこれ程私を引き合いに出すんだろう? 婚約者の居ない女子学生なんて他にも居るのに? 特にあの男子生徒の中の1人は確か1年の頃に一時少し仲が良かったのに。


 ミランダは食事の載ったトレーを持ったまま、もう諦めの境地でそれを聞いていた。……すると、


「……なんですの? あなた方。女性を貶めるような事を言うなんて、恥ずかしくありませんの? 言わせていただけるなら、きっとその女性もあなた方のような男性を婚約者にとは望まないと思いますわ」


 凛とした、美しい声。

 ……鈴が鳴るような声、とはまさにこんな声なのだろう。

 ミランダもおそらくその男子学生達も一瞬その声に聞き惚れる。

 そしてミランダはとくりと胸が鳴った。


 ……こんな事を、言ってくれる人が居るなんて。

 ミランダとその男子学生達は勿論、学食に居る周辺の人達もその声の主を見た。

 そこには美しい1人の女生徒。まるで妖精のような……。


「……ッ! アルペンハイム公爵令嬢!!」


 その方はこの国の王太子の婚約者、ツツェーリア アルペンハイム公爵令嬢だった。

 最初睨むように声のする方を見かけた男子生徒達は慌てて礼をする。


「いえ、僕たちは……! ただ、彼女は平凡過ぎて僕たちには合わないな、とそう思ったまでで……」

「ですから、何故その方と付き合うのに困る、という前提の話になるんですの? 私何度もその話を聞いた覚えがございますけれど、あなた方はその方との縁談が出てらっしゃる訳でもないのですわよね?」

「……はい、彼女との縁談があるという訳では……」

「ではどういった了見ですの? そのお噂は今までずっと耳に入っておりましたけれどとても耳障りで。その方が普通で何が悪いと? あなたがたはその方に迫られて困っている訳でも無いのですわよね?」


 すると1人の男子生徒が俯きながらも悔しげに言った。


「ミランダは……、彼女は平凡なくせして生意気なのです! 入学してすぐにせっかく僕が優しくしてやっていい雰囲気かと思ってたのに……他のやつにもいい顔をしていたんです! この僕が、あんな平凡な女に適当にあしらわれるなんて……!」


 ……へ? なにそれ!? 

 確かにこの男子生徒と入学当初少し仲が良かったけれど、付き合っていた訳ではない。ただのクラスメイトだったし彼に対して恋愛的な想いは全くなかった。それで他の人にいい顔って何? まるで私が小悪魔な女子みたいじゃない!? 


「まさかあなた、失恋したのが恥ずかしくてずっとミランダさんの悪口を言い続けていたという事ですの? ……まあ呆れた。それにそれを今も言い続けるているなんて、まだあなたは彼女の事が気になって仕方ないようですわね。けれどこんな事をしているようでは彼女に振り向いてなどもらえませんわよ」


 さっきの男子生徒は青くなって俯いた。

 ……え? 
 あの噂はあの男子生徒が本当に私の事が気になってたからって事なの? そして昔私が相手にしなかった(そもそも恋愛的な目で見られてたなんて知らなかった)から、平凡な私に振られた腹いせに『平凡』レッテルを貼って貶めていたって事?

 ミランダは驚きのあまり、思わず後退りした。その時、椅子に当たってガタンと物音を立ててしまう。……男子生徒たちと公爵令嬢の視線がこちらに向いた。


「……あ……」


 ミランダを見たその男子生徒は赤くなりまた俯いた。

 ……もしかして彼は本当に私を好いていてくれたのかもしれない。けれど、そこには『平凡なミランダなら自分の恋人に出来る』という『侮り』も多分にあったのではないか?
 だから侮っていたミランダに相手にされていないと気付いた時に自尊心が普通以上に傷付いた。……そういう事ね。


 瞬時にそう察したミランダは、冷めた目でその男子学生を一瞥した後公爵令嬢に向き直った。


「アルペンハイム様。……庇っていただき、ありがとうございました」


 トレーを近くの机にいったん置き、そう言ってからミランダは心を込めて精一杯のカーテシーをした。

 男子学生は自分を見ずに公爵令嬢に礼を言うミランダを見て、ミランダの心は自分に向くことはない事を悟りショックを受けたようにまた青くなる。


 ……あんな噂を立てておいて好きになってもらえると思っていたのかしら? 本人は『好きな子イジメ』的な気持ちであったのかもしれないけれど。

 ミランダからすればそんな気持ちは理解できないし、しようとも思わなかった。


「……申し訳ありませんでした。彼は連れて行きます、もうこんな馬鹿げた噂はしませんので……!」


 友人達に引き摺られるようにして、ミランダの昔のクラスメイトだった男子学生達は去って行った。



 アルペンハイム公爵令嬢は黙って彼らを見送ってから言った。


「……私は貴女を庇ったつもりはなくてよ。本当に耳障りでしたの。なんの根拠もない、そんな無責任な噂が私は好きではありませんの」


 そう言って彼らが去った方を見た公爵令嬢を見て、ミランダは思い出す。

 ──そうだった。
 『無責任な噂』に苦しめられているのはこの方も同じなのだわ。


 頭に浮かんだのは、この国の王太子。例の男爵令嬢の取巻きとなった、公爵令嬢の婚約者。
 彼らに関する噂は、『平凡令嬢』の比ではない。『1人の少女に惑わされる愚かな王太子とその側近。自分達の立場を忘れ、婚約者をも蔑ろにしている』と。

 そしてそれは、婚約者であるアルペンハイム公爵令嬢を嘲るようなものもある訳で……。


「……それでも。公爵令嬢がお声を発してくださった事が、私にはとても嬉しかったのです。
……本当に、ありがとうございました」


 ……今まで、こんな風に誰も声をあげてはくれなかった。勿論友人達は私を慰めてはくれたけれど。
 
 ミランダは公爵令嬢に心から感謝した。そして、あの不遜な華やかな集団……彼女の婚約者である王太子の噂から、自分も彼女を守れるものなら守りたいと思った。


「……あなたの為になったのなら良かったわ」


 公爵令嬢はそう言って口元に微笑みを浮かべると去って行った。去り際も、美しい所作だった。


 そんな素敵なツツェーリア アルペンハイム公爵令嬢の今日の勇姿を、ミランダは心のメモ帳に刻んだ。





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