玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第10章 レイコさんは自重しない

第10章第027話 鉄道説明会 その4 戦争と平和

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第10章第027話 鉄道説明会 その4 戦争と平和

Side:ツキシマ・レイコ

 「くっ。くっくっくっく…」

 すっかり悪役…魔王モードのアイズン伯爵です。もうすぐ侯爵ですけど。
 国民所得三倍計画とでもいいましょうか。いや、税率も安いくらいないので、所得ベースなら三倍では済まないかも。 言っていることは、いかにして大衆を肥え太らせて搾取するか…って聞こえますけどね。
 実際には、出身地の男爵領とエイゼル市のスラムの人達からすれば、未だ感謝の対象なのです。

 まともに働くのなら、衣食住の心配をしなくていい国。そもそも働き口に困らない国。
 ネイルコードのように国に住みたいと思わない民はいないでしょう。
 アイズン伯爵が口出しますからね。これからそういう国々が増えていくわけで。無体策で隣にまでその波が来たら…良くて住民の流出、下手すれば自国民の反乱。

 正教国までの鉄道計画がすでに進んでいる以上、もうこの事業に賛同するしかない…という脅しですね、これは。


 「発言を。その…ネイルコードは、巫女様を先鋒として…大陸に戦争でも起こす気なのですかな?」

 ふむ。正確に危惧を理解している人もいるようですが。
 近隣の国とそこまで格差が出来たのなら…国民の不満や流出を押さえるには。まぁこの時代の考え方としては奪いに行くしかないってことですか。
 自分たちが貧しいのは、隣が豊かなのが悪い。無茶な理屈ですが、自領の不満を誰かを悪者にして矛先を逸らすのは、いつの時代にもあることですか。
 ネイルコードが挑発をしている…というのは、ある意味では正確な分析です。もっとも、

 「人と金の浪費などごめんじゃな。もちろん備えは常に必要じゃがの」

 ケッて感じでアイズン伯爵がぼやきます。実際に戦争しようという気は皆無なアイズン伯爵です。やるのなら相手になるぞ…という姿勢も国には必要ですけど。

 「私、戦争なんて考えたことないですよ? むしろ嫌いだし。」

 お父さんからパワーバランスとか抑止とかの話はいろいろ聞いてました。備えることと実際にやることは区別して考えろ…はお父さんの言です。

 「発言を。しかし私どもの調べでは、巫女様はダーコラとの紛争に参加されていましたよね?」

 「あれはダーコラ側が軍を出して私を呼び出してきたから、応えたまでよ。結果はまぁ、赤竜騎士団が一人再起不能になって、残りもその場で更迭されただけだけど。うん。戦争にはなっていないわね」

 アインコール陛下の方を見ると、それで正しいと相槌打ってくれました。
 戦闘は起きていないですが、…まぁ非常に不愉快なことは起きましたが、この件は賊が出た扱いで処分は終わっています。
 あのときのまともな人代表だったオルモック将軍。今では内相だそうだけど、元気かな?

 「仮に私が戦争に駆り出されたのなら。戦闘になる前に双方の中枢に出向いてトップを引きずり出して、交渉の席に着かせるわね。私の前で言い分全部吐いてもらうわよ」

 文字通り引きずり出しますよ。本当に引きずってでも。

 「前線の本陣だろうが、城の中だろうが。私が行くことを止められる人はいないわよ。絶対にトップを引きずり出して、会談の席に着かせるわ」

 まさかそんなことが…と思っている人がちらほらいるようですが。

 「双方の言い分、聞いてあげるわよ。第三国にも…複数の国に参加して欲しいわね。双方の発言の裏取りもするから。正教国にも、使えそうな記録ってたくさんありそうだし」

 まぁこういう場合は大抵、領地奪還が大義名分でしょうから。記録をほじくり出してという事になるんでしょうけど。 取った取られたを過去に遡って争っても不毛なのよね。
 結局のところ、税収を増やしたいってのが最終目的なのでしょうけど。…まぁ住民がどちらの国に所属していたか。所属が決まるときにむちゃなこと…住民を皆殺しとか奴隷か等の非道をしていなかったか。

 この辺の記録が残っているのは正教国でしょうから。私が場を整えたとしても、実際の調停の責任は正教国に取って欲しいですね。
 私が出張る前に、こういう話し合いがもたれるようになるのが理想ですが。

 「それでも、覚悟をした兵士騎士同士で戦争したいのなら止めることはしないけど。関係ない者まで虐殺、私欲のための略奪。これは絶対許しません。戦争にもルールが必要ってことです」

 「戦争にルールとは…また面白いことを」

 武人タイプっぽい参加者が、鼻で笑いますが。

 「…地球、私と赤竜神がいた世界ね。私が生まれる百年前とその20年後、二回の世界大戦って呼ばれた大戦争があったのよ。」

 実例を話せるってのは、地球出身の特権ですか。

 「世界っても、一度目の世界大戦は大陸の端で、まぁ強国が集中していた地域だけど。二回目の世界大戦は、その大陸での再発と、さらに私の住んでいた国を中心とした二カ所でね。最初の戦争では一千万人、2回目の戦争では二千万人が戦死したとされているわ」

 「…一千万に二千万だと…この大陸の人口より多いのでは無いか?」

 「戦死、すなわち軍人だけでこれです。巻き込まれた民を含めるのなら、さらに倍以上ですね」

 これでも少なめに話していますが。

 「戦争が兵器の発達を促して。どんどん凄惨になっていったわ。私のレイコバスターは知っているわよね? あれくらいの威力の兵器も開発されてね。私の国に対して使われて、ニ発で三十万人ほどが無くなって…町毎だったわ。この戦争の後、この兵器のせいで安易に大国同士が戦争が出来なくなったので。これ以後は大戦といえるほどの戦争を起こせなくなったのは皮肉だけど」

 この時代にもルールらしきものはあることにはあったのですが。街を焼き払うような行為がルールの下にあったとは言えないと思います。

 「武力の後ろ盾の無いルールは無力だけど。どこの国でも、戦争には勝ちたくても、悪の国扱いはされたくないでしょうし。これから技術が進んでいくと、…言い方悪いけど、人の殺し方も効率的になる。先に話した世界大戦はその最たる物ね。そんな戦争をルール無しでやりたいですか?」

 「む…むむむっ」

 まぁ彼も、怖いからやりたくないとは言えないでしょうが。国がまるごと消えるような戦死者数を提示されると。さすがに躊躇するようです。

 「ともかく。最初に話し合いをさせるわ。それでもやりたいのなら、監視の下で戦争してもらいます。降伏のしかた、捕虜の扱い、装備や服装の基準。このへんのルールを作った上でね」

 「殺し合いにルール…いささか滑稽にも思いますが」

 「私は戦争自体が滑稽に思います。莫大なお金と、多くの人命を浪費するなんて」

 アイズン伯爵もうなずいています。アイズン伯爵が一番嫌いなことですからね。
 費用と人材を投下しての監視下の戦争、やる価値があるのかを考えて欲しいところです。

 ただ。アイズン伯爵がやろうとしていることをそのままやっていたら、やっぱ戦争が起きていたでしょうね。私がここにいる、今が絶好のチャンスなわけです。

 私の活動で、この星での科学技術の発展速度は、地球の比では無くなるでしょう。
 先に縛りを入れておかないと。私が生きていたころの水準になる前に自滅する可能性が高いです。実際赤井さんの様子からして、メンターが興した文明の自滅率は低くなかったようですし。

 地球で核戦争が起きなかった理由は…やはり開発されて早々に使われたからでしょうね。
 でも、あれを必要な犠牲扱いはしたくありませんけど。

 戦争を起こさずに文明を進歩させる。これが難しいのかどうかもまだよくわかりません。

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