玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第5章 クラーレスカ正教国の聖女

第5章第009話 大きなノッポの時計

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第5章第009話 大きなノッポの時計

・Side:ツキシマ・レイコ

 なんかユルガルム領に着いてからは料理ばかりしていた感じがしますが。
 今日からは、小ユルガルムの工房に通いで出張です。
 マルタリクからのハンマ親方一行に、ノドムさん達エルセニム国一行、アイリさんにタロウさんも同行です。
 …なにげにアイリさんにタロウさん、忙しいですね。ごめんなさい。

 今回のユルガルム領訪問の目的の一つ。技術開発検討会ですね。今後のネイルコード国、いやこの世界の人類の発展のためでもあります。
 皆で小ユルガルムの工房の会議室に通されました。すでにユルガルム勢の方々は揃ってますね。

 「サナンタジュさん、お久しぶりです! …ん?その後ろに並んでいるのは?」 

 なんかみなさんニヤニヤしていると思ったら。後ろにあるのは振り子時計? それも三台並んでいます。
 一番でかいのはタンスくらいの大きさ。そこから段々細くなって、最後は地球では昔合ったようなノッポの古時計って感じの奴ですね。
 短針が一日二回回転、長針は一日24回転。私が前に時計の説明をしたままですが。一日24時間で1時間60分とするかは、最終的には国が正式に決める必要があるとのことで、現在問い合わせ中だそうです。無難に正教国の時計に合わせることになりそうですが。正教国の時計には分針はあるそうですが、一時間で一回転して動いていることを示すだけで、分の単位は特に刻まれていないそうです。こちらには1時間を60分、1分を60秒にするという習慣はまだありません。一般には、分とか秒を正確に量る手段が無いですからね。ここが初めてでも問題無いようです。

 何故かこちらの世界でも、一日が24刻みになっています。地球では、たしか24時間はエジプト起源、日本の一日12刻は十二支から来ていたと思いますが。この辺の12とか24という数字の付合性には、何か合理的な理由があるのでしょうかね? 割りきれる数が多いから便利…なんて説をお父さんは教えてくれましたけど。
 ちなみに、360度は2πradなのが理系です。

 サナタンジュさん達の時計。機械部分は三台目でだいぶ小さくなっていますが。振り子時計なだけに振り子の長さは全部同じで、その分背が低く出来ません。確か1メートルの振り子で片道1秒でしたったけ? 短い振り子時計も試作したそうですが、長くて重たい方が精度が出るそうです。歯車の精度が高くなるにつれて全体も小さくできるだろう…と今後の目標を語ってましたが。
 動力は、砂の入った袋を重りにした物です。一日二回、朝夕くらいに重りをまき直す必要があります。一時間毎に小さな鐘を中で鳴らす仕組みもありますね。

 時刻の調節も、昼の教会の鐘を合図に調節しているそうです。…教会の鐘は何を基準に…と思ったのですが。晴れた日は太陽の位置、専用の観測場が教会に必ずあるそうで、スリット状の窓から差し込んだ日の位置で時刻を図ります。太陽が見えないときには水時計だそうです。満タンにしたタンクから水が落ちて、落ちきったら丸一日とか丸二日とか。何日も曇っていたら、雲を透けて見える日の位置なり祭司の腹具合で。まぁ、必要なのは行動の基準となる時刻だけで、なにかを計っているわけでもないので。日常で使うのならこれで十分って事ですね。

 目指せ!懐中時計と腕時計! とか言ったら、ヒーッという表情になりました。

 「…いや、まずはそこまでの精度のある部品を作れるようになれということですね。分りました。次は小型化に挑戦しましょう」

 サナンタジュさん、前向きですね。

 「精度も、一年使って一分の誤差が目標です」

 「ひっ…一分ですか?」

 小型化とは、歯車や軸の摩擦が無視できない世界をどう克服するか?です。地球でのマリン・クロノメーターなんて、18世紀によくあんな物作れたな?ってレベルですよ、ほんと。

 今はまだ、一日一分ほどの誤差がでるそうです。それでも大した物だと思いますし、日常生活では十分実用的なのですが。科学に使うには、精度は高いに越したことはありません。

 「あの…レイコ殿の世界の時計では、どれくらいの精度が出ていたのでしょう?」

 「…最高精度の物なら、百億年で一分だったかな?」

 「…はい?」

 「百万年で一分程度のものなら、大金貨の値段でごろごろしてました」

 「…人類の英知は、いつかそこまで…」

 はいはい、コッパーさん、それはもういいです。サナタンジュさんの資料見て下さい、ここですよ?

 「振り子の長さと周期の関係…ですか」

 周期は長さの平方根に比例します。振り子の長さが倍なら、周期は√2倍。重力加速度と円周率はまとめて定数扱いされていますが。

 「なるほど、ここにも数学ですか…」

 「なぜこういう数式が成り立つのか。まずこの辺から始めると良いかと思います」

 これはコッパーさんに宿題です。速度、加速、重力、周期、ベクトル。これはけっこう良い教材ですよ。賢者院に居るという数学の人達と頑張って解析してください。振り子の等時性を発見したガリレオも、そこまでは出来なかったはずです。

 「で、これはもう王城に献上はするんかね? 装飾彫りならマルタリクの十八番だからな。依頼が来るなら歓迎するぜ!」

 ハンマ親方がさっそく食いついています。…中身も見てみたくてしょうがないって顔していますよ?
 サナンタジュさんたち、まだ献上とか奉納は全然考えていなかったそうですが。さすがにこれは王室でも欲しがるでしょう。

 「マーリアさん、この時計はユルガルムの方から奉納と献上をするようにお願いしますね。これはここの方々の功績ですので」

 「え…いやそれはさすがに…」

 「はいはいはいはいっ!。ユルガルム領庁も少し仕事が増えれば良いんですよ! 前回の時、ユルガルムの恩人たる巫女様が~ってほとんどの奉納案件をエイゼル市に丸投げして!」

 サナタンジュさんが異議を口にしようとしたところ、アイリさんが遮りました。…いつもすみません。



 講義が始まるまでまだちょっと時間があるので、ハンマ親方がユルガルムで集めた鉱物サンプルをいろいろ見せてもらっています。
 装飾なり彫り物なり、石にもいろいろ使い道があるとのことで。

 「マルタリクなら、欲しいのは飾り彫り用とかですか。これなんか柔らかくて掘りやすいんですけどね」

 「…これはちと柔らかすぎだろ? 泥が固まっただけじゃないのか?これ」

 ハンマ親方が、石を爪でカリカリしています。

 「昔は装飾彫りなんかにも使われたそうですが、やっぱ余り長持ちしないんですよね。鍛冶の時に印を付けたりするのに便利なんですよこれ」

 チョーク代わりですか。ちょっとピンク色の白い石ですね。確かに粘土が固まっただけに見えますが。擦ると光沢が出て、削れた粉はさらさらしています。
 ん? レッドさんちょっと見て下さい。水酸化マグネシウムとケイ酸…滑石、タルク。

 「サナンタジュさん、これって沢山取れるんですか?」

 「んん? 昔掘っていたことがあって、領の西の方だったかな? 枯渇したって話は聞いていないかな。作業に使うのでついでに拾ってくるくらいだけど」

 一塊ほどいただいて、鉱石用の小さい臼で丁寧に粉にしてもらいます。

 「…何に使うんですか?これ」

 「赤ちゃんの汗疹とかオムツかぶれの防止になるんですよ。」

 毛皮ありますか? それでバフも作りたい… 簡単に図面書いたら、こちらの職員の人が裁縫で作ってくれることになりました。丸く切った革に毛皮を巻くだけですからね。手を通す紐も付けてもらいましょう。
 その間、タルクの方を丁寧に臼で惹いてもらいます。

 …念のため、人体実験したいところですね。 うーん。ハンマ親方!

 「ん?なんだっ?」

 翡翠みたいな石を吟味していたハンマ親方の首筋にバフでポンポン。

 「おいおいっ! ん?さらさらだな」

 これでアレルギーみたいなのが出なければ大丈夫。レッドさんも成分に問題無いと言っていますが念のため。

 「赤ちゃんに使うから、問題無いか試験です。レッドさんは問題無いはずって言ってるけど、シュバール様に使い方から念のため」

 「おいおい、俺で試すのかよ…まぁ石の粉くらいどうってことないけどな。 うーん、なんかすべすべするな、これがいいのか?」

 「赤ちゃんのオムツの下とか脇の下とか、この季節は子供は汗疹になりやすいですからね。効果あるのなら赤ちゃん用品として是非量産を…」

 「…そういや家の娘も、赤ん坊の時の夏場は大変だった。しょっちゅう搾った布巾で拭いてやらないといけなかったな」

 「ああ、やっとわかりやすい奉納案件キターっ! これ、私も使って良い?」

 アイリさんが喜んでます。…え? 胸に使う?
 実は、エイゼル市でブラジャーの試作はしたのですが。まずは貴族のご婦人のドレスの下からとなっております。
 一般人が普段使いで胸の形を協調しても良いことない…だそうで。トップダウンで普及するのを待った方が良いとなりました。…あと、不夜城のお姉さん方が大量注文したそうです。 ブラジャーの普及が貴族と夜のお仕事からってのも、なんか闇っぽいですね…
 アイリさんは今、スポーツブラみたいなのを付けています。…真夏はもうすぐです、たしかに蒸れますよね?それじゃ。
 バフを縫っている女性職員さんも、なんか頷いています。彼女も欲しいようですね。
 シュバール様に使っていただく予備も含めて、もういくつかバフを作ってもらいましょう。タルクはまだ沢山あるみたいですし。

 男性陣と…タロウさんも目が泳いでいますよ。はい、タルク挽いて下さい。


 その間に、他のサンプルも拝見します。
 鉱物のサンプルの中に、塩みたいなざらざらを固めたような白っぽい石が…。

 「…サナタンジュさん、これってこの辺で取れるんですか?」

 ラベルが沿えてあるのですが、私には地名が分かりません。

 「ん? …これまたえらく遠い…大陸の西の端は、砂漠とか荒野が広がっているらしいんだけどな。そこで取れるって書いてあるな。サンプルはそれだけだ」

 レッドさん曰く。これは硝酸塩…いわゆる硝石です。

 「なんか使える石なのか?それ」

 「うーん。まぁ肥料とか工業とか色々と。でも、大陸の西の端じゃ、大量輸入とか無理ですよね?」

 「船を出せば…と言っても、一旦南に大きく迂回する必要があるとかで、ともかく相当費用がかかるぞ?」

 「ですよね~」

 保留ですっ! まだハーバー・ボッシュ法の方が人類の役に立ちます!

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