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第5章 クラーレスカ正教国の聖女
第5章第021話 凶報
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第5章第021話 凶報
・Side:ツキシマ・レイコ
覇王様が参加しているキャラバンが、ユルガルムに到着しました。商材をの積み卸しやキャラバンの再編成が終わったら、次の日にはもうエイゼル市に出発です。
「ひゃっはーっ! とんぼ返りだぜっ!」
…なんかヤケクソ気味ですね。覇王様、横モヒカンの皆さん、ご苦労さまです。そろそろ土産のネタが尽きたとぼやいていました。…蟻のお面は、お子様には大好評でしたが、奥様には不評だったようです。もうすぐ夏という陽気なので、ユルガルム領の食べ物も難しいですしね。途中のテオーガル領でお酒でも買った方が無難ではないでしょうか?
まだ塞ぎ込んでいるリシャーフさん達御一行も一緒に、ユルガルムからの出発の日です。
領主館のユルガルム領辺境候マッケンハイバー伯爵家ご一家に、屋敷の前でお見送りしていただきました。恐縮です。
「はっはっは。"息子の妻"のターナ殿、そして"私のかわいい孫"のシュバールのことは案じることは何も無いっ! 心安らかに帰路に着かれよっ! アイズン卿!」
ナインケル辺境候が、満面の笑みでアイズン伯爵を煽っています。…仲いいですね。
「ふん。ターナよ、シュバールが落ち着いたら、エイゼル市にも遊びに帰って来るが良い。ボルト島の貴族泊地で夏を過ごして海遊びなんかはどうじゃ? 中央通りもあれからさらに賑やかになっておるからな。…ナインケル、貴殿もわしの街を一度見に来るが良い」
「あん? わしまで招待してくれるのか?」
「ふん。ユルガルムがもっと栄えれば、ターナやシュバールもより過ごしやすくなるじゃろう。シュバールにも良い環境での教育を考えるべきじゃろうし、わしの街で勉強させてやろう」
「まぁ父と義父の諍いはともかくとして。私はターナと結婚したときに一度行ったきりですからね。研修をかねて一度ゆっくり訪問したいと思っております。まだまだ先ではありますが、シュバールも将来的には王都かエイゼル市に留学させるべきかと思っておりますし」
ターナンシュ様の旦那のウードゥル様の方が乗り気のようですね。
「ふふふ。そうかそうか、歓迎するぞい?」
ニヤッと笑うアイズン伯爵。ああウードゥル様、エイゼル市に来たとたん、三ヶ月くらいしごかれそうな雰囲気ですよ?。
事態が急変したのは、岩山のあった峠を越えて、タシニ村からトクマク街に到着する直前です。
トクマク街の方から走ってきた伝令の早馬が、すれ違うキャラバンにアイズン伯爵の馬車がいることに気がついてキャラバンを止め、アイズン伯爵に直接書簡を渡してきました。
私とマーリアちゃんは、アイズン伯爵と同じ馬車に乗っていたのですが。書簡を読むアイズン伯爵の表情がどんどん険しくなっていきます。
読み終わると、別の馬車に乗っている正教国聖女のリシャーフさんをこの馬車に呼ぶよう指示しました。
「レイコ殿、落ち着いて聞きなさい。ファルリード亭で火事が起きたそうだ」
「…えっ?」
さっと血が引く感覚がします。
「最初に言っておく。不幸中の幸いじゃがファルリード亭の者達とそれ以外にも、死者怪我人はいない。皆無事じゃ」
「ああ、よかった…」
同乗しているエカテリンさんもホッとしています。
「今はギルドの宿舎の方で安全に過ごされているそうじゃ」
ここでリシャーフさんがやって来ました。急いだようでちょっと息が切れていますが。アイズン伯爵と私に挨拶をした後、馬車の中に招かれます。
「…リシャーフ殿。レイコ殿が定宿にしているファルリード亭という宿屋が、一昨日の深夜に火事となって全焼したそうだ。客も従業員も全員無事だそうだが。」
「それはまた…災難でしたね…」
「話はまだある。その直後、今度は北教会、エイゼル市の北の六六街にある教会じゃな、そこでボヤがあったそうじゃ。こちらは幸い、すぐに消し止められたそうじゃが、火を付けた者がそこで捕まっておってな。…下手人はカリッシュ・オストラーバ祭司だそうだ」
「ひっ! …ま…まさか…」
リシャーフさんが真っ青になります。
「…なんでまたそんなことを?」
「何でも、ネイルコード国でレイコ殿が執着するものが無くなれば正教国に来てくれるはずだ…と思い込んでいるらしい」
「レイコちゃん!レイコちゃん!レイコちゃん! 漏れてる!漏れてる!漏れてる! 殺気?」
エカテリンさんが制止してくれます。知らずのうちに圧をまき散らしていたようです。
「レイコ殿…いや赤竜神の巫女様っ! 同行して来たものの不埒、誠に申し訳ありません! カリッシュは厳罰に処し、できうる限りの謝罪と補償を…」
リシャーフさんが、頭が脚の間に入るのでは?というくらいあわてて頭を下げています。これが外なら、土下座していたでしょう。 …リシャーフさんが悪いわけではないと理解しつつも、エイゼル市に向かうべく馬車を飛び出そうとしますが…
「待てい! レイコ!」
アイズン伯爵に一喝されました。私に一喝したアイズン伯爵に皆がびっくりしています。
「…落ち着きなさいレイコ殿。向こうは全員無事で、今駆けつけたところで出来ることは何も無い。今はまず、ここで善後策の検討じゃ」
「…分かりました、アイズン伯爵」
とりあえず、キャラバンを再出発させました。トクマク街に一泊するのは仕方無しなので、急ぐことはないのですが。…気持ちは焦りますね。
「まずリシャーフ殿に伺いたい。今回の事態、レイコ殿を正教国に引きずり出すためとはいえあまりにも手段を選ばない無体。これは正教国の意図したところなのか?」
「いえ、滅相もありません。…確かに一部の人間には、巫女殿を勧誘するのに、ネイルコード国に対して多少強引な手を使ってもという雰囲気はありますが。ここまであからさまに巫女様の不興を買うような手段をとるほど、少なくとも父上は愚かとは思えないです。逆に、取れる手段が手詰まりだからこそ私が派遣されたわけでして…」
「レイコちゃんがネイルコードに居るのは、エイゼル市が気に入っているからだしね。そこが燃えて無くなったからって、燃やした正教国に行こうと思ってもらえるなんて、まともな考えじゃ無いわよね。むしろ明確に敵対することにしかならないわよ。私は、そのカリッシュってやつのとち狂った独断専行だと思うけど」
エカテリンさんが解析してます。もちろん私はもう、正教国に敵対する気満々ですよ。
「確かにカリッシュには偏狭なところがありまして。よく言えば敬虔な信徒で、マナ術が得意ということと合わせてその辺が評価されて祭司にまでなった者なのですが…頑固というか信仰を曲解するというか…」
「そのカリッシュっの後ろ盾というか黒幕って誰になるのでしょう? ケルマン祭司総長?」
「いえ。今回の場合はサラダーン祭司長です」
「…普通の国での宰相にあたる人物じゃな。そやつは、カリッシュという輩が今回の不埒を働いた原因とはならんのか?」
「 さすがにそのようなことを他国でやるとは… 確かに計算高く、信仰よりは利益で動くような人間だと思いますが。それでも正教国の祭司長まで登った男です、そこまで無思慮ではないかと」
「他国でなければするってことですか? カリッシュって人は、普段からそういう指示を実行していたとかでは?」
「…教会の…いや自分の派閥の意に逆らう人を裏から処断する組織を持っているという噂は聞いております。私は詳細を知らないのですが、本当にあるのなら父ケルマンやサラダーンが知らないわけは無いと思うのですが…」
「聖女様にはそういう汚い部分は知らされていないというわけか。まぁ、ユルガルムまでレイコ殿を追いかけて来たリシャーフ殿が本件に関わっていないということは信じよう」
「…ありがとうございます、アイズン伯爵」
「とはいえ。実際に正教国の人間がネイルコード国で付け火をした。国の間の問題にしないわけには行かないし。リシャーフ殿達も、監視とエイゼル市の迎賓館での軟禁は受け入れて貰うぞ」
「…承知いたしました」
「放火って、ネイルコード国ではどのくらいの罪になるの?」
エカテリンさんに聞いてみます。
カリッシュとやらが正教国に見捨てられれば、ネイルコードで処罰ってことになりますが。返還したとしても、向こうで処罰してもらう必要はあるでしょう。
「放火なんて下手すれば街が燃えちゃうからね。ボヤで済んでもまず死罪よ。事情で情状酌量されることはあるけど、それでも終身で一番重たい労役…鉱山とかかな?」
確かに。最悪を考えれば甘い対応は出来ないですよね。そんな大事になるとは知らなかった…では済まされない話です。
「ただ。カリッシュは外交官扱いじゃからな。裁判が終わるまでは軟禁程度だし。正教国に送り返されてそちらで裁きが量られる…が筋ではあるのじゃが。…もしそれで向こうで無罪放免なんてことになったら、それこそ大事じゃ。最悪戦争じゃな」
「教会も戦争までは望んでいないはずです。さすがに正教国の方でも、今回の件は庇いきれないでしょう。カリッシュに責を押しつけるのなら、大使と祭司の職権を剥奪した上でネイルコード国に引き渡す形になるのではないかと…」
「逆に、そこはして貰わないと正教国とは断交になると思いますが。そういう事態になることを正教国側で望んでいるとかはないのでしょうか?」
「…武力で圧力をかけて巫女様を差し出させようという主張は、正教国でも皆無ではありませんが。上の方はネイルコードの国力はよく知っていますし。そもそも、巫女様がネイルコード側の味方をしてしまえば全て破綻する話です。実際にやろうと考える者はいないと思いますが…」
「…つまり、まともでなければやるってことですね… カリッシュとか」
ちょっとウンザリしてきました。
まともではない国内勢力については正教国自身も一応把握している感じですが。それでも放置しているって事は、カリッシュのような狂信者は、正教国には都合が良い便利なコマって事ですかね?
リシャーフさんもそこまでの裏の事情は知らないようですが。
明日は、エイゼル市に到着します。
…またも、私のせいで被害が出てしまいました。私が居なければこんなことは起きなかったでしょうが…
でもすでに、私はここに来てしまいましたし。私はあの街に住んでいたい。元から絶つには、二度と起きないようにするには…
「また同じように考えているな、レイコ殿。前にも言ったが、飲み込みなさい。確かにレイコ殿が無関係というわけでも無いが。監視の付いていただろうカリッシュを止められなかった領や国側のも責任があるし。当然一番の害悪はカリッシュ本人じゃ。レイコ殿がいなければなんて考えている者は、この国には皆無じゃぞ」
「…はい。ありがとうございます、アイズン伯爵」
「リシャーフ殿も、今のレイコ殿の様子を見て、ネイルコード国に害なせばレイコ殿を落とせるとか考えないことじゃな。レイコ殿は、無益な殺生はしないが出来ないわけではない。そんな手段で追い詰めると、最悪正教国そのものが無くなるぞ。レイコ・バスターはリシャーフ殿も見たじゃろ?」
「わっ…分っております。肝に銘じております」
・Side:ツキシマ・レイコ
覇王様が参加しているキャラバンが、ユルガルムに到着しました。商材をの積み卸しやキャラバンの再編成が終わったら、次の日にはもうエイゼル市に出発です。
「ひゃっはーっ! とんぼ返りだぜっ!」
…なんかヤケクソ気味ですね。覇王様、横モヒカンの皆さん、ご苦労さまです。そろそろ土産のネタが尽きたとぼやいていました。…蟻のお面は、お子様には大好評でしたが、奥様には不評だったようです。もうすぐ夏という陽気なので、ユルガルム領の食べ物も難しいですしね。途中のテオーガル領でお酒でも買った方が無難ではないでしょうか?
まだ塞ぎ込んでいるリシャーフさん達御一行も一緒に、ユルガルムからの出発の日です。
領主館のユルガルム領辺境候マッケンハイバー伯爵家ご一家に、屋敷の前でお見送りしていただきました。恐縮です。
「はっはっは。"息子の妻"のターナ殿、そして"私のかわいい孫"のシュバールのことは案じることは何も無いっ! 心安らかに帰路に着かれよっ! アイズン卿!」
ナインケル辺境候が、満面の笑みでアイズン伯爵を煽っています。…仲いいですね。
「ふん。ターナよ、シュバールが落ち着いたら、エイゼル市にも遊びに帰って来るが良い。ボルト島の貴族泊地で夏を過ごして海遊びなんかはどうじゃ? 中央通りもあれからさらに賑やかになっておるからな。…ナインケル、貴殿もわしの街を一度見に来るが良い」
「あん? わしまで招待してくれるのか?」
「ふん。ユルガルムがもっと栄えれば、ターナやシュバールもより過ごしやすくなるじゃろう。シュバールにも良い環境での教育を考えるべきじゃろうし、わしの街で勉強させてやろう」
「まぁ父と義父の諍いはともかくとして。私はターナと結婚したときに一度行ったきりですからね。研修をかねて一度ゆっくり訪問したいと思っております。まだまだ先ではありますが、シュバールも将来的には王都かエイゼル市に留学させるべきかと思っておりますし」
ターナンシュ様の旦那のウードゥル様の方が乗り気のようですね。
「ふふふ。そうかそうか、歓迎するぞい?」
ニヤッと笑うアイズン伯爵。ああウードゥル様、エイゼル市に来たとたん、三ヶ月くらいしごかれそうな雰囲気ですよ?。
事態が急変したのは、岩山のあった峠を越えて、タシニ村からトクマク街に到着する直前です。
トクマク街の方から走ってきた伝令の早馬が、すれ違うキャラバンにアイズン伯爵の馬車がいることに気がついてキャラバンを止め、アイズン伯爵に直接書簡を渡してきました。
私とマーリアちゃんは、アイズン伯爵と同じ馬車に乗っていたのですが。書簡を読むアイズン伯爵の表情がどんどん険しくなっていきます。
読み終わると、別の馬車に乗っている正教国聖女のリシャーフさんをこの馬車に呼ぶよう指示しました。
「レイコ殿、落ち着いて聞きなさい。ファルリード亭で火事が起きたそうだ」
「…えっ?」
さっと血が引く感覚がします。
「最初に言っておく。不幸中の幸いじゃがファルリード亭の者達とそれ以外にも、死者怪我人はいない。皆無事じゃ」
「ああ、よかった…」
同乗しているエカテリンさんもホッとしています。
「今はギルドの宿舎の方で安全に過ごされているそうじゃ」
ここでリシャーフさんがやって来ました。急いだようでちょっと息が切れていますが。アイズン伯爵と私に挨拶をした後、馬車の中に招かれます。
「…リシャーフ殿。レイコ殿が定宿にしているファルリード亭という宿屋が、一昨日の深夜に火事となって全焼したそうだ。客も従業員も全員無事だそうだが。」
「それはまた…災難でしたね…」
「話はまだある。その直後、今度は北教会、エイゼル市の北の六六街にある教会じゃな、そこでボヤがあったそうじゃ。こちらは幸い、すぐに消し止められたそうじゃが、火を付けた者がそこで捕まっておってな。…下手人はカリッシュ・オストラーバ祭司だそうだ」
「ひっ! …ま…まさか…」
リシャーフさんが真っ青になります。
「…なんでまたそんなことを?」
「何でも、ネイルコード国でレイコ殿が執着するものが無くなれば正教国に来てくれるはずだ…と思い込んでいるらしい」
「レイコちゃん!レイコちゃん!レイコちゃん! 漏れてる!漏れてる!漏れてる! 殺気?」
エカテリンさんが制止してくれます。知らずのうちに圧をまき散らしていたようです。
「レイコ殿…いや赤竜神の巫女様っ! 同行して来たものの不埒、誠に申し訳ありません! カリッシュは厳罰に処し、できうる限りの謝罪と補償を…」
リシャーフさんが、頭が脚の間に入るのでは?というくらいあわてて頭を下げています。これが外なら、土下座していたでしょう。 …リシャーフさんが悪いわけではないと理解しつつも、エイゼル市に向かうべく馬車を飛び出そうとしますが…
「待てい! レイコ!」
アイズン伯爵に一喝されました。私に一喝したアイズン伯爵に皆がびっくりしています。
「…落ち着きなさいレイコ殿。向こうは全員無事で、今駆けつけたところで出来ることは何も無い。今はまず、ここで善後策の検討じゃ」
「…分かりました、アイズン伯爵」
とりあえず、キャラバンを再出発させました。トクマク街に一泊するのは仕方無しなので、急ぐことはないのですが。…気持ちは焦りますね。
「まずリシャーフ殿に伺いたい。今回の事態、レイコ殿を正教国に引きずり出すためとはいえあまりにも手段を選ばない無体。これは正教国の意図したところなのか?」
「いえ、滅相もありません。…確かに一部の人間には、巫女殿を勧誘するのに、ネイルコード国に対して多少強引な手を使ってもという雰囲気はありますが。ここまであからさまに巫女様の不興を買うような手段をとるほど、少なくとも父上は愚かとは思えないです。逆に、取れる手段が手詰まりだからこそ私が派遣されたわけでして…」
「レイコちゃんがネイルコードに居るのは、エイゼル市が気に入っているからだしね。そこが燃えて無くなったからって、燃やした正教国に行こうと思ってもらえるなんて、まともな考えじゃ無いわよね。むしろ明確に敵対することにしかならないわよ。私は、そのカリッシュってやつのとち狂った独断専行だと思うけど」
エカテリンさんが解析してます。もちろん私はもう、正教国に敵対する気満々ですよ。
「確かにカリッシュには偏狭なところがありまして。よく言えば敬虔な信徒で、マナ術が得意ということと合わせてその辺が評価されて祭司にまでなった者なのですが…頑固というか信仰を曲解するというか…」
「そのカリッシュっの後ろ盾というか黒幕って誰になるのでしょう? ケルマン祭司総長?」
「いえ。今回の場合はサラダーン祭司長です」
「…普通の国での宰相にあたる人物じゃな。そやつは、カリッシュという輩が今回の不埒を働いた原因とはならんのか?」
「 さすがにそのようなことを他国でやるとは… 確かに計算高く、信仰よりは利益で動くような人間だと思いますが。それでも正教国の祭司長まで登った男です、そこまで無思慮ではないかと」
「他国でなければするってことですか? カリッシュって人は、普段からそういう指示を実行していたとかでは?」
「…教会の…いや自分の派閥の意に逆らう人を裏から処断する組織を持っているという噂は聞いております。私は詳細を知らないのですが、本当にあるのなら父ケルマンやサラダーンが知らないわけは無いと思うのですが…」
「聖女様にはそういう汚い部分は知らされていないというわけか。まぁ、ユルガルムまでレイコ殿を追いかけて来たリシャーフ殿が本件に関わっていないということは信じよう」
「…ありがとうございます、アイズン伯爵」
「とはいえ。実際に正教国の人間がネイルコード国で付け火をした。国の間の問題にしないわけには行かないし。リシャーフ殿達も、監視とエイゼル市の迎賓館での軟禁は受け入れて貰うぞ」
「…承知いたしました」
「放火って、ネイルコード国ではどのくらいの罪になるの?」
エカテリンさんに聞いてみます。
カリッシュとやらが正教国に見捨てられれば、ネイルコードで処罰ってことになりますが。返還したとしても、向こうで処罰してもらう必要はあるでしょう。
「放火なんて下手すれば街が燃えちゃうからね。ボヤで済んでもまず死罪よ。事情で情状酌量されることはあるけど、それでも終身で一番重たい労役…鉱山とかかな?」
確かに。最悪を考えれば甘い対応は出来ないですよね。そんな大事になるとは知らなかった…では済まされない話です。
「ただ。カリッシュは外交官扱いじゃからな。裁判が終わるまでは軟禁程度だし。正教国に送り返されてそちらで裁きが量られる…が筋ではあるのじゃが。…もしそれで向こうで無罪放免なんてことになったら、それこそ大事じゃ。最悪戦争じゃな」
「教会も戦争までは望んでいないはずです。さすがに正教国の方でも、今回の件は庇いきれないでしょう。カリッシュに責を押しつけるのなら、大使と祭司の職権を剥奪した上でネイルコード国に引き渡す形になるのではないかと…」
「逆に、そこはして貰わないと正教国とは断交になると思いますが。そういう事態になることを正教国側で望んでいるとかはないのでしょうか?」
「…武力で圧力をかけて巫女様を差し出させようという主張は、正教国でも皆無ではありませんが。上の方はネイルコードの国力はよく知っていますし。そもそも、巫女様がネイルコード側の味方をしてしまえば全て破綻する話です。実際にやろうと考える者はいないと思いますが…」
「…つまり、まともでなければやるってことですね… カリッシュとか」
ちょっとウンザリしてきました。
まともではない国内勢力については正教国自身も一応把握している感じですが。それでも放置しているって事は、カリッシュのような狂信者は、正教国には都合が良い便利なコマって事ですかね?
リシャーフさんもそこまでの裏の事情は知らないようですが。
明日は、エイゼル市に到着します。
…またも、私のせいで被害が出てしまいました。私が居なければこんなことは起きなかったでしょうが…
でもすでに、私はここに来てしまいましたし。私はあの街に住んでいたい。元から絶つには、二度と起きないようにするには…
「また同じように考えているな、レイコ殿。前にも言ったが、飲み込みなさい。確かにレイコ殿が無関係というわけでも無いが。監視の付いていただろうカリッシュを止められなかった領や国側のも責任があるし。当然一番の害悪はカリッシュ本人じゃ。レイコ殿がいなければなんて考えている者は、この国には皆無じゃぞ」
「…はい。ありがとうございます、アイズン伯爵」
「リシャーフ殿も、今のレイコ殿の様子を見て、ネイルコード国に害なせばレイコ殿を落とせるとか考えないことじゃな。レイコ殿は、無益な殺生はしないが出来ないわけではない。そんな手段で追い詰めると、最悪正教国そのものが無くなるぞ。レイコ・バスターはリシャーフ殿も見たじゃろ?」
「わっ…分っております。肝に銘じております」
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