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第6章 エイゼル市に響くウェディングベル
第6章第033話 カーラさんの老眼鏡と防寒具
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第6章第033話 カーラさんの老眼鏡と防寒具
・Side:ツキシマ・レイコ
小さなものから大きなものまで、船舶用人間エンジン、ツキシマ・レイコです。…そもそも人間じゃなかったですね、だったら汎用人型エンジンですか?
…。
まぁ今更自虐するつもりも無いですが。マナの体のことを気にせずにいろいろ依頼して貰えるってのは、これはこれで結構気が楽になるって事に最近気がつきました。畏れられたり敬われたりするよりは、便利な人材だと思って貰えた方がよほど良いです。
たまにある敬礼とか跪かれたりとかは慣れませんが。特別扱いしないという特別扱い…回りの配慮にはただただ感謝です。
今日もやれることやりたいこと、いろいろやっていきます、レイコです。
自分でもチャチャッと作れそうなものとかは、マルタリクのハンマ親方のところで工房をお借りして作ることもありますが。仕様を書いて発注をすることもあります。職人の方々からは今のところ、新しい物を作れるという評判と、無茶振りするという評判の半々ですね。
今回ユルガルム領の工房に発注品した品は凸レンズです。直径と焦点距離を指定してお願いすると、そこそこ時間と費用はかかりますが作ってくれます。
届いた木の箱からは、布で包まれた四角いレンズが10枚ほど。もとは丸いレンズを半分に割って、さらに5センチ×2センチくらいに切り出してくれています。覗いて見ると、ちゃんとレンズしていますね。
こちらでも虫眼鏡くらいは存在します。ただ、眼鏡をかけるという行為、つまり顔にどうレンズを固定するかが問題。これは地球でも試行錯誤があったはずです。
地球では最初、紐で耳にかけていたそうですが、これでは顔に縛りつけているのと大差なさそうで、ずっと付けていると耳とか痛そうです。マスクの紐を思い出しましたね。
英国紳士のイメージのモノクルがこちらにもありますが。無理矢理顔の筋肉で上下から挟んで固定しているようなもので結構大変で、使うときにしか使わないって感じですね。手に持たないだけ便利という程度。…平たい顔族の日本人には難しいんですよねこれ。
そこで地球の眼鏡フレームです。これはもう、試行錯誤の末に完成されたデザインと言えるでしょう。
ただ、こちらで再現するのに一番の課題は重さです。まん丸なレンズではなく四角に切ってもらったのも必要最小限の面積に切り出すことでの軽量化を狙います。あとはまぁ材質はいかんともし難いので、できるだけ薄くするくらいですか。地球の老眼鏡も、度が強くなるほど重たくなりましたからね。
「思ったより収まりが良いわね、この眼鏡っ!」
地球型の眼鏡フレーム。初めて見る人には、俯くだけで落ちないか心配になるでしょうが。このデザインだけで奉納ものだとアイリさんが騒いでおります。
「下向いたら落ちると思ったけど、うまく引っかかってくれるわね。もっと窮屈かと思ったけど、これなら楽につけられるわ」
丸いレンズを二つに割ったものなので、視界の中心は多少ずれますが、このへんはコスト削減ということで。厚い縁の方を下にすることで、書類とか読むのにうつむく角度が減って、むしろ首には優しいかも。
切り出しはダイヤで傷つけて割るってのはこちらでも同じ。直線からさらに丸くするのは手間なので、真四角のレンズで妥協しました。モーターなどで回転砥石とか作られたら、丸くしたいですね。
フレームは、竹から切り出してもらいました。強度と入手性と加工性、竹は色々使えて優秀ですね。まぁ加工が手間と言えば手間ですが、レンズよりは安価、金属よりは軽量。U字型のフレームの内側に溝が掘ってあって、そこに四角いレンズをはめ込め混んで、膠で固定します。
柄の蝶番と鼻当ては、金属細工の職人さんに依頼しました。柄で頭を挟むような強度が必要なので、蝶番部分は重要ですよ。
レンズを楕円にして見た目良くしたり、全体の軽量化など、まだ手を加えるところは色々ありそうではありますが。とりあえず完成した眼鏡の試作品。大人の平均的な顔に合うようなサイズ…と言うことで、私にはちょっと大きめですけど。
協力してくれた職人さんも新しい産業になる予感に喜んでます。…ただ、すでにマルタリクの職人さん達はオーバーワーク気味です。レンズの原料である良質の石英が取れるところに眼鏡産業を移管できないか検討中だそうです。眼鏡の産地…福井県でしたっけ?
さて。出来たメガネをプレゼントしたい人が居ます。
伯爵や王都の方々が最初に思い浮かびますが。まずはファルリード亭のカーラさん。
カヤンさんのお母さん、モーラちゃんの祖母さん。物静かな人で、あまり喋らないカーラさんです。ファルリード亭にいるときには、主にフロント業務をしています。
私がファルリード亭に居るときには、レッドさんはカーラさんの膝の上に居ることも多いです。フロントのカウンターの向こう側で目立たないですからね。近所を住処にしている猫なんかも、よくカーラさんの側に居ますね。レッドさんと一緒に団子になっています。
カーラさんのフロント業務には、宿泊記録から宿賃を計算したり、場合によっては領収書みたいな物の発行もありますが。こちらの書類は余り小さく精細にはしないので、まだ視力は追いついているようですが、カーラさんが目を細めて見ているのは知っています。
あともう一つ贈りたいのは防寒具です。
まだそろそろ秋という季節ですが。冬にはファルリード亭に暖房も入るとは言え、カーラさんのいるフロントの所は出入り口からの外気も入ってきますしね。暖かい上着を作ってみようかと思いました。
貴族なんかは、毛皮を使ったようなコートを買われるようですが、けっこういいお値段ですので。今回はなるだけ安上がりが身上で行きます。
まずは、廃棄処分されるはずの鳥の羽を大量に集めてきて、洗って乾燥させて…って羽を洗うのってあんなに大変だったんですね。お手伝いの六六の子供達とキャーキャー言いながら、布やらネットやら使ってなんとか仕上げましたけど。皆羽だらけになりましたよ。
あとは、薄手の布で作った大きめのコートで布を二重にしたところに羽を詰めて。羽がずり落ちないように格子状に縫うだけですが。この縫うのがまた手間でした。…六六のお母さんたちに、手間賃払ってやってもらいました。
も一つ作ったのが袢纏。鳥の羽の代わりに綿を積めれば出来上がりですが。コストと防寒効果の比較として作りました。
カーラさんに渡す以外に数セット余分に作って、アイリさんがモニター先を探します。まぁ実際に使うのはもうちょっと寒くなってからですが。
「これはまたフワフワだねぇ… こんなに厚いのにここまで軽いってのは、不思議な感覚だね」
「母さん、冬に体調崩すことが多かったからな。新店舗の暖房と合わせて今年は楽そうだな。ありがとうなレイコちゃん」
さっそく試しに着てみたカーラさんも喜んでくれたようです。
卵の量産に合わせて、鶏肉のため…鶏とはちょっと違う鳥ですが、養鶏的なものも始まっていますので。あとは鳥の羽のコストと綿の価格、これら次第ですが。こちらでは綿もあまり安くは無いので、十分対抗商品になりそうです。
布団とかにもそのまま応用が利きますし。生産増やしても大丈夫だと思いますよ。
袢纏の方も試着してもらいます。デザインは、前合わせの部分から風が入らないように重ねている他は、ダウンジャケットと大差ないデザインです。
こちらの方が重たいのですが、厚みが少ない分動きやすそうではありますし。室内なら、防寒性は十分かなと。思います。
「どちらも面白いね。いつもは寒くなる季節は億劫だったけど、今年は今から冬が楽しみだよ」
まぁ冬が楽しみというのはちと大げさではありますが、喜んで貰えれば何より。冬前でも肌寒い日が急に来たら羽織ってくださいね。
さすがにこれを着て給仕は出来ないですけど。ファルリード亭の皆さんの分も順次量産する予定です。もちろんアライさんの分も。
「ヒャー。わたしにもてすか? ありかとうこさいますっ。ことしのふゆはあたたかそうてすね」
毛皮の上から防寒具はどうかと思いましたが。寝るときにはよく毛布にくるまっているアライさんです。
あと。マナストーブにファンを付けた温風ファンヒーターっぽいのも開発中ですよ。フロントの足元における感じで。夏は扇風機にとマルチで使えるようにしたいところです。また猫達が集まりそうですね。
ただ。試作している最中から、アイリさんはちょっとこれらについては渋い顔。
「暖かいのは分かるんだけど。ちょっと見た目が膨らみすぎてみっともないかなと。貴族や金持ちはそもそも、部屋を暖めればいいわけだし…」
「アイリ。鎧の下に着られるようにとか、補強とか装飾を追加して、衛兵用にしてみたら需要があるんじゃ無いか? 彼ら、冬場はいつも寒そうだろ?」
「それだっ! さすがタロウっ! そうよね、軍にも冬用装備としていけるかもっ!」
誉められてちょっとうれしそうなタロウさんです。
兵士用ならトレンチコートもありかな?
続いて。目玉の眼鏡も贈呈です。目だけに目玉。
「カーラさん。これは眼鏡と言って、文字とかがよく見えるようになる道具です」
まぁ貴族や金持ちが虫眼鏡を使っているとこは見たことがある人はいるでしょうが。それでも庶民に手が届くほど安くも無いのです。
かけ方を教えて、実際に付けてみてもらいます。必要な度数が分からなかったのですが。裸眼でも読み書きはなんとか出来ているようでしたから、弱めで作っています。量産が軌道に乗ったら、度を複数用意して最適な眼鏡を選んであげたいところです。
「これは…よく見えるねぇ。ああ、字が楽に読めるよ」
手のひらをじっと見て。脇に置いてある伝票とかを見て。前より見やすくなったことに感激してくれているようです。
上見たり下見たりと、キョロキョロしています。柄と鼻当てともうまく機能しているようで、下を向いてもすぐに落ちることもないようです。
「遠くはむしろ見えなくなるけど…」
と正面を見て、メガネを半分ずらして上目遣いで外を見ます。老眼の人って眼鏡をすこし下にずらしてかけますよね。レンズが小さめなのはこのためでもあります。
「外歩くときには付けない方が良いですね」
どうしてもメガネ自体がちょっと重めですからね。落下防止に柄の後ろからは紐が伸びていて首からかけられるようになっています。
「…しかしこれ、高いのでしょう? いいのかい?私なんかに」
「高いと言えば高いですけど。まだ試作品ですからね。モニター…試しに使ってみていろいろ意見いただければと思ってます。そういうお仕事だと思って下さい」
「そんなことで良いのかい?」
「意見を取り入れた後は、ジャック会頭とかアイズン伯爵やローザリンテ殿下にもお渡ししますし、多分陛下も使われるんじゃないかな? 結構重大な仕事ですよ?」
「伯爵様に王妃様に…陛下かいっ? こりゃ大変だ」
カーラさん、目を丸くしてびっくりしています。
とりあえず。お手入れについてとか、どこが壊れやすいかもとか、その辺の説明です。専用の箱も作ってもらいましたので、使わないときにはそちらに収めてもらいましょう。今はまだ貴重品扱いです。
あと一つ注意点。日が差すところには置かないこと。凸レンズですから火事のもと。火事はこりごりです。使わないときにはしまってもらうための箱でもあります。
眼鏡の方ですが。一週間も使ってもらうと、いろいろ不具合が出てきました。
U字型のフレームですが、竹なだけに歪んできて、膠で固定しているレンズがハズレかかったりしてきました。作りやすさと少しでも軽量化と考えてU字型フレームにしてみましたが、後で歪まないようにしようと太くすると軽量どころではなくなります。やはりO字型の全周フレームにした方が良いようですね。
蝶番の所はもう一段は丈夫の方が良いですね。真鍮板からの加工ですから致し方ないところですが、曲がってきて柄で頭を挟む力が落ちています。
鼻当ての形や高さは、いくつか種類があった方が良いようです。こちらの世界は、地球の西洋みたいに鼻の形のバリエーションが多いんですよ。
予備に作った眼鏡の方をカーラさんにお貸しして、劣化を始めた眼鏡は一旦回収。改造と改良をします。
まずレンズですが。私が角を落して楕円形にしました。石を使ってシャカシャカと。割らないようにと言うのが気を使いましたね。 これに合わせてフレームも作り直してもらいます。U型からO型へ、全周で囲むようになった分、強度も上がり軽量化も出来ました。
と言うわけで。レンズだけ再利用した眼鏡バージョン2が出来ました。素材が竹なだけにまだフレームがちょっと太めですが、もう形は地球の眼鏡と大差ないです。地球で広く普及していたデザインは、やはり弄るところがないですね。
このへんの作り直しで、さらに3割くらい軽くなりました。
「うん。なんかこの眼鏡を付けていると頭が良さそうに見えるわね」
アイリさんが試着して、ユルガルム製の姿見で確認です。
「アイリさんは普段から頭が良さそうですよ」
「うふふ。レイコちゃん、口が上手いわね。でもこれ、ファッションに取り入れないかしら?」
美味しいものには弱くて食べものに関してはちょっと緩くなりますけど。アイリさんはランドゥーク商会のポープ。キリッとしているときには、きちんと才女に見えます。…眉間に皺寄せるとちょっとキツめに見えるので、そのへんがタロウさん以外があまり寄ってこなかった原因ですかね?
眼鏡才女。なかなかカッコいいですよ。伊達眼鏡ってのもそのうち流行るかもしれません。
アイリさんが出来た眼鏡の形を紙にメモしています。奉納の準備は進んでいるようです。
では、引き続き、この新型眼鏡をカーラさんにモニターしてもらいましょう。喜んで貰えるかな?
・Side:ツキシマ・レイコ
小さなものから大きなものまで、船舶用人間エンジン、ツキシマ・レイコです。…そもそも人間じゃなかったですね、だったら汎用人型エンジンですか?
…。
まぁ今更自虐するつもりも無いですが。マナの体のことを気にせずにいろいろ依頼して貰えるってのは、これはこれで結構気が楽になるって事に最近気がつきました。畏れられたり敬われたりするよりは、便利な人材だと思って貰えた方がよほど良いです。
たまにある敬礼とか跪かれたりとかは慣れませんが。特別扱いしないという特別扱い…回りの配慮にはただただ感謝です。
今日もやれることやりたいこと、いろいろやっていきます、レイコです。
自分でもチャチャッと作れそうなものとかは、マルタリクのハンマ親方のところで工房をお借りして作ることもありますが。仕様を書いて発注をすることもあります。職人の方々からは今のところ、新しい物を作れるという評判と、無茶振りするという評判の半々ですね。
今回ユルガルム領の工房に発注品した品は凸レンズです。直径と焦点距離を指定してお願いすると、そこそこ時間と費用はかかりますが作ってくれます。
届いた木の箱からは、布で包まれた四角いレンズが10枚ほど。もとは丸いレンズを半分に割って、さらに5センチ×2センチくらいに切り出してくれています。覗いて見ると、ちゃんとレンズしていますね。
こちらでも虫眼鏡くらいは存在します。ただ、眼鏡をかけるという行為、つまり顔にどうレンズを固定するかが問題。これは地球でも試行錯誤があったはずです。
地球では最初、紐で耳にかけていたそうですが、これでは顔に縛りつけているのと大差なさそうで、ずっと付けていると耳とか痛そうです。マスクの紐を思い出しましたね。
英国紳士のイメージのモノクルがこちらにもありますが。無理矢理顔の筋肉で上下から挟んで固定しているようなもので結構大変で、使うときにしか使わないって感じですね。手に持たないだけ便利という程度。…平たい顔族の日本人には難しいんですよねこれ。
そこで地球の眼鏡フレームです。これはもう、試行錯誤の末に完成されたデザインと言えるでしょう。
ただ、こちらで再現するのに一番の課題は重さです。まん丸なレンズではなく四角に切ってもらったのも必要最小限の面積に切り出すことでの軽量化を狙います。あとはまぁ材質はいかんともし難いので、できるだけ薄くするくらいですか。地球の老眼鏡も、度が強くなるほど重たくなりましたからね。
「思ったより収まりが良いわね、この眼鏡っ!」
地球型の眼鏡フレーム。初めて見る人には、俯くだけで落ちないか心配になるでしょうが。このデザインだけで奉納ものだとアイリさんが騒いでおります。
「下向いたら落ちると思ったけど、うまく引っかかってくれるわね。もっと窮屈かと思ったけど、これなら楽につけられるわ」
丸いレンズを二つに割ったものなので、視界の中心は多少ずれますが、このへんはコスト削減ということで。厚い縁の方を下にすることで、書類とか読むのにうつむく角度が減って、むしろ首には優しいかも。
切り出しはダイヤで傷つけて割るってのはこちらでも同じ。直線からさらに丸くするのは手間なので、真四角のレンズで妥協しました。モーターなどで回転砥石とか作られたら、丸くしたいですね。
フレームは、竹から切り出してもらいました。強度と入手性と加工性、竹は色々使えて優秀ですね。まぁ加工が手間と言えば手間ですが、レンズよりは安価、金属よりは軽量。U字型のフレームの内側に溝が掘ってあって、そこに四角いレンズをはめ込め混んで、膠で固定します。
柄の蝶番と鼻当ては、金属細工の職人さんに依頼しました。柄で頭を挟むような強度が必要なので、蝶番部分は重要ですよ。
レンズを楕円にして見た目良くしたり、全体の軽量化など、まだ手を加えるところは色々ありそうではありますが。とりあえず完成した眼鏡の試作品。大人の平均的な顔に合うようなサイズ…と言うことで、私にはちょっと大きめですけど。
協力してくれた職人さんも新しい産業になる予感に喜んでます。…ただ、すでにマルタリクの職人さん達はオーバーワーク気味です。レンズの原料である良質の石英が取れるところに眼鏡産業を移管できないか検討中だそうです。眼鏡の産地…福井県でしたっけ?
さて。出来たメガネをプレゼントしたい人が居ます。
伯爵や王都の方々が最初に思い浮かびますが。まずはファルリード亭のカーラさん。
カヤンさんのお母さん、モーラちゃんの祖母さん。物静かな人で、あまり喋らないカーラさんです。ファルリード亭にいるときには、主にフロント業務をしています。
私がファルリード亭に居るときには、レッドさんはカーラさんの膝の上に居ることも多いです。フロントのカウンターの向こう側で目立たないですからね。近所を住処にしている猫なんかも、よくカーラさんの側に居ますね。レッドさんと一緒に団子になっています。
カーラさんのフロント業務には、宿泊記録から宿賃を計算したり、場合によっては領収書みたいな物の発行もありますが。こちらの書類は余り小さく精細にはしないので、まだ視力は追いついているようですが、カーラさんが目を細めて見ているのは知っています。
あともう一つ贈りたいのは防寒具です。
まだそろそろ秋という季節ですが。冬にはファルリード亭に暖房も入るとは言え、カーラさんのいるフロントの所は出入り口からの外気も入ってきますしね。暖かい上着を作ってみようかと思いました。
貴族なんかは、毛皮を使ったようなコートを買われるようですが、けっこういいお値段ですので。今回はなるだけ安上がりが身上で行きます。
まずは、廃棄処分されるはずの鳥の羽を大量に集めてきて、洗って乾燥させて…って羽を洗うのってあんなに大変だったんですね。お手伝いの六六の子供達とキャーキャー言いながら、布やらネットやら使ってなんとか仕上げましたけど。皆羽だらけになりましたよ。
あとは、薄手の布で作った大きめのコートで布を二重にしたところに羽を詰めて。羽がずり落ちないように格子状に縫うだけですが。この縫うのがまた手間でした。…六六のお母さんたちに、手間賃払ってやってもらいました。
も一つ作ったのが袢纏。鳥の羽の代わりに綿を積めれば出来上がりですが。コストと防寒効果の比較として作りました。
カーラさんに渡す以外に数セット余分に作って、アイリさんがモニター先を探します。まぁ実際に使うのはもうちょっと寒くなってからですが。
「これはまたフワフワだねぇ… こんなに厚いのにここまで軽いってのは、不思議な感覚だね」
「母さん、冬に体調崩すことが多かったからな。新店舗の暖房と合わせて今年は楽そうだな。ありがとうなレイコちゃん」
さっそく試しに着てみたカーラさんも喜んでくれたようです。
卵の量産に合わせて、鶏肉のため…鶏とはちょっと違う鳥ですが、養鶏的なものも始まっていますので。あとは鳥の羽のコストと綿の価格、これら次第ですが。こちらでは綿もあまり安くは無いので、十分対抗商品になりそうです。
布団とかにもそのまま応用が利きますし。生産増やしても大丈夫だと思いますよ。
袢纏の方も試着してもらいます。デザインは、前合わせの部分から風が入らないように重ねている他は、ダウンジャケットと大差ないデザインです。
こちらの方が重たいのですが、厚みが少ない分動きやすそうではありますし。室内なら、防寒性は十分かなと。思います。
「どちらも面白いね。いつもは寒くなる季節は億劫だったけど、今年は今から冬が楽しみだよ」
まぁ冬が楽しみというのはちと大げさではありますが、喜んで貰えれば何より。冬前でも肌寒い日が急に来たら羽織ってくださいね。
さすがにこれを着て給仕は出来ないですけど。ファルリード亭の皆さんの分も順次量産する予定です。もちろんアライさんの分も。
「ヒャー。わたしにもてすか? ありかとうこさいますっ。ことしのふゆはあたたかそうてすね」
毛皮の上から防寒具はどうかと思いましたが。寝るときにはよく毛布にくるまっているアライさんです。
あと。マナストーブにファンを付けた温風ファンヒーターっぽいのも開発中ですよ。フロントの足元における感じで。夏は扇風機にとマルチで使えるようにしたいところです。また猫達が集まりそうですね。
ただ。試作している最中から、アイリさんはちょっとこれらについては渋い顔。
「暖かいのは分かるんだけど。ちょっと見た目が膨らみすぎてみっともないかなと。貴族や金持ちはそもそも、部屋を暖めればいいわけだし…」
「アイリ。鎧の下に着られるようにとか、補強とか装飾を追加して、衛兵用にしてみたら需要があるんじゃ無いか? 彼ら、冬場はいつも寒そうだろ?」
「それだっ! さすがタロウっ! そうよね、軍にも冬用装備としていけるかもっ!」
誉められてちょっとうれしそうなタロウさんです。
兵士用ならトレンチコートもありかな?
続いて。目玉の眼鏡も贈呈です。目だけに目玉。
「カーラさん。これは眼鏡と言って、文字とかがよく見えるようになる道具です」
まぁ貴族や金持ちが虫眼鏡を使っているとこは見たことがある人はいるでしょうが。それでも庶民に手が届くほど安くも無いのです。
かけ方を教えて、実際に付けてみてもらいます。必要な度数が分からなかったのですが。裸眼でも読み書きはなんとか出来ているようでしたから、弱めで作っています。量産が軌道に乗ったら、度を複数用意して最適な眼鏡を選んであげたいところです。
「これは…よく見えるねぇ。ああ、字が楽に読めるよ」
手のひらをじっと見て。脇に置いてある伝票とかを見て。前より見やすくなったことに感激してくれているようです。
上見たり下見たりと、キョロキョロしています。柄と鼻当てともうまく機能しているようで、下を向いてもすぐに落ちることもないようです。
「遠くはむしろ見えなくなるけど…」
と正面を見て、メガネを半分ずらして上目遣いで外を見ます。老眼の人って眼鏡をすこし下にずらしてかけますよね。レンズが小さめなのはこのためでもあります。
「外歩くときには付けない方が良いですね」
どうしてもメガネ自体がちょっと重めですからね。落下防止に柄の後ろからは紐が伸びていて首からかけられるようになっています。
「…しかしこれ、高いのでしょう? いいのかい?私なんかに」
「高いと言えば高いですけど。まだ試作品ですからね。モニター…試しに使ってみていろいろ意見いただければと思ってます。そういうお仕事だと思って下さい」
「そんなことで良いのかい?」
「意見を取り入れた後は、ジャック会頭とかアイズン伯爵やローザリンテ殿下にもお渡ししますし、多分陛下も使われるんじゃないかな? 結構重大な仕事ですよ?」
「伯爵様に王妃様に…陛下かいっ? こりゃ大変だ」
カーラさん、目を丸くしてびっくりしています。
とりあえず。お手入れについてとか、どこが壊れやすいかもとか、その辺の説明です。専用の箱も作ってもらいましたので、使わないときにはそちらに収めてもらいましょう。今はまだ貴重品扱いです。
あと一つ注意点。日が差すところには置かないこと。凸レンズですから火事のもと。火事はこりごりです。使わないときにはしまってもらうための箱でもあります。
眼鏡の方ですが。一週間も使ってもらうと、いろいろ不具合が出てきました。
U字型のフレームですが、竹なだけに歪んできて、膠で固定しているレンズがハズレかかったりしてきました。作りやすさと少しでも軽量化と考えてU字型フレームにしてみましたが、後で歪まないようにしようと太くすると軽量どころではなくなります。やはりO字型の全周フレームにした方が良いようですね。
蝶番の所はもう一段は丈夫の方が良いですね。真鍮板からの加工ですから致し方ないところですが、曲がってきて柄で頭を挟む力が落ちています。
鼻当ての形や高さは、いくつか種類があった方が良いようです。こちらの世界は、地球の西洋みたいに鼻の形のバリエーションが多いんですよ。
予備に作った眼鏡の方をカーラさんにお貸しして、劣化を始めた眼鏡は一旦回収。改造と改良をします。
まずレンズですが。私が角を落して楕円形にしました。石を使ってシャカシャカと。割らないようにと言うのが気を使いましたね。 これに合わせてフレームも作り直してもらいます。U型からO型へ、全周で囲むようになった分、強度も上がり軽量化も出来ました。
と言うわけで。レンズだけ再利用した眼鏡バージョン2が出来ました。素材が竹なだけにまだフレームがちょっと太めですが、もう形は地球の眼鏡と大差ないです。地球で広く普及していたデザインは、やはり弄るところがないですね。
このへんの作り直しで、さらに3割くらい軽くなりました。
「うん。なんかこの眼鏡を付けていると頭が良さそうに見えるわね」
アイリさんが試着して、ユルガルム製の姿見で確認です。
「アイリさんは普段から頭が良さそうですよ」
「うふふ。レイコちゃん、口が上手いわね。でもこれ、ファッションに取り入れないかしら?」
美味しいものには弱くて食べものに関してはちょっと緩くなりますけど。アイリさんはランドゥーク商会のポープ。キリッとしているときには、きちんと才女に見えます。…眉間に皺寄せるとちょっとキツめに見えるので、そのへんがタロウさん以外があまり寄ってこなかった原因ですかね?
眼鏡才女。なかなかカッコいいですよ。伊達眼鏡ってのもそのうち流行るかもしれません。
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