玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
230 / 383
第7章 Welcome to the world

第7章第003話 アーメリア様の赤ちゃん

しおりを挟む
第7章第003話 アーメリア様の赤ちゃん

 第二王子にして軍相であるカステラード殿下の奥様アーメリア様のご懐妊ということで。
 ご出産後の職人達のブラックスケジュールを回避すべく。お腹の中の赤ちゃんの性別鑑定に王宮のカステラード殿下のお住まいに来ております。

 「それではそろそろ調べましょうか」

 なんかクリステーナ様らも交えて和やかに款談の時間となってしまいましたが。お仕事ですよここに来たのは。

 「では、こちらの部屋で…」

 ん? アーメリア様が立ち上がって隣の部屋に誘いますが。

 「あ、アーメリア様。特にお医者さんみたいな診察は必要ないです。レッドさんを膝上にでも抱っこしていただければすぐ済みます」

 「え? それだけでいいんですか?」

 もしかして診察で脱ぐためにシンプルなドレスだったのですか? …どうもそうみたいですね。
 診断は出来るけど。どう診断するかについては連絡行っていなかったみたいです。エカテリンさんもそのへん詳しく見ていたわけでもないですしね。

 「はいっ」「クーッ」

 と、ハーネスを外したレッドさんを渡します。
 ちょっと緊張した面持ちでレッドさんを受け取るアーメリア様。
 皆さん、レッドさんを抱っこするときには、自然に赤ん坊抱きになりますね。居心地悪いのかレッドさんもぞもぞしています。

 「小竜神様、よろしくお願いしますね。」

 「ククック」

 ソファーに戻ったアーメリア様が、膝の上に座らせるようにレッドさんを抱きます。尻尾は横に垂らしてアーメリア様のお腹に背中からもたれる感じですね。まぁレッドさんセンサーは角周りにあるので。これでよい様です。

 レッドさんが、耳を澄ますように目を瞑ります。
 十秒程で結果が出たという念話が届きます。

 「…結果が出たそうです」

 「もうですか? 何も感じなかったのですが」

 超音波でスキャンするだけですからね。ちょっと拍子抜けという感じのアーメリア様です。

 「アーメリア様、カステラード殿下、よろしいですね?」

 「うむ。たのむ、レイコ殿」
 「はい。お願いします、レイコ殿」

 「…赤ちゃんは女の子です。問題なく成長していて、あと170日ほどでお生まれになります」

 「うむ、姫かっ!」

 皆に喜色が浮かびます。

 「女の子なのね! もう私の妹みたいなものよね? 楽しみですおばさまっ!」

 「ふぅ、ほっとした。アーメリアよかったな。元気な子を産んでくれ」

 クリステーナ様にカステラード殿下、まだ生まれていないのにお祝いモードですね。

 「アインコール殿下とファーレル様にさっそくお知らせしてきますね」

 侍従らしき人が部屋を出て行きます。なんで王太子のアインコール殿下が来られていないんだろう?と思ったら。王位継承権がある人間が一度に会する場合は、警備をさらに厳重にしている場合に限る…だそうです。指定生存者ってやつですね。
 ご家族が勢揃いできるのは陛下のお住まいだけだそうですが、それでも警備がフルコンプで配備されたときだけ。王族もいろいろ難儀ですね。

 「アーメリア様の健康や赤ちゃんの状態にも問題ないそうです。順調だそうですよ」

 「よかった… ありがとうございます小竜神様」

 抱っこしているレッドさんをぎゅっと抱きしめるアーメリア様、やはり初めての妊娠と言うことで不安があったようですね。
 そんなアーメリア様の肩を愛おしそうに抱くカステラード殿下。いつもの武人って雰囲気は無く、王族でもやっぱり夫婦です。
 え?レッドさん、雰囲気が甘ったるい? もうちょっとじっとしてあげて下さい。


 アーメリア様は、元伯爵令嬢だそうで。15歳の時に宴の場でカステラード殿下に一目惚れ、幾度もの猛烈アタックの後、押し掛け女房したそうです。見た目は可憐なご令嬢って感じですが、なかなかに積極的な女の子だったようで。
 カステラード殿下が当時24歳。さすがにすでに数多の貴族家から結婚の話は来ていたそうですが。第二王子しかも軍相ということでアインコール殿下を退けて王位を…と腹の底でたくらんでいる武断派貴族がすり寄ってきていたため、そういう野望は無いことを示すために積極的に嫁探しはしなかった…という経緯らしいですが。
 アーメリア様の実家が完全な文官系貴族の上に、宴席でのアーメリア嬢の猛烈アタックは貴族の間でも有名。結局は根負けしたカステラード殿下ですが、これらを見ていた当時の貴族の間では、さすがにこの婚姻に政略的意図は無いだろう…というのが周知されているそうです。誰も極端に得をしないけど損もしない、政治的立場からすれば"無難"な結婚…と相成りましたとさ。


 レッドさんはしばらく見捨てておいて。ローザリンテ殿下とちょっとお話します。

 「あのローザリンテ殿下、今回の報酬の件なのですが。やはり授かり物でお金をもらうのはちょっと憚れるというか…」

 「でもレイコちゃん。そうしておかないと鑑定依頼が殺到するわよ?」

 レッドさんが鑑定できるということはおおっぴらに宣伝はしないですが、そのうちバレるでしょうね。
 依頼が殺到するのも時間の問題ですが。

 「はい。ですからいただいた報酬は、診療所とかそういうところに寄付とか考えているのですが。不公平にならない寄付とかないもんでしょうか?」

 「うーん。そうね…」

 エイゼル市で見るに、この国の医療体制はさほど低くはありません。もちろんこの世界並の水準ではありますし、流石に無料というわけではないでかし、高価な薬を湯水のようにとは行きませんが。どんな庶民でも、とりあえずの診察と治療は受けられるようになってます。
 それに、エイゼル市や王都の診療所だけ施設や機材が豪華になっても不公平ですしね。どこへ寄付したもんかと考えていたのですが。

 「レイコちゃん、マルタリクの消毒薬を作っている酒蔵とかに投資しているでしょ?」

 酒蔵には投資と言うより奉納案件ということで、アルコールの蒸留に関する奉納料金がガロウ協会とランドゥーク商会経由でそのまま施設投資に回っています。
 酒造部門についてはテオーガル領へ技術移管されており。マルタリクの醸造所は消毒用と工業用のアルコールの生産に移りつつありますが。

 「そんな感じで賢者院から医学に携わる部分を研究開発部署として独立させるのに投資ってのはどうかしら?」

 「新しい医療の研究と開発に投資というわけですね。いいですねそれ」

 「今からだとその辺を任せられる人材の育成からしないといけないけど。学校の増設とか頭のいい人のスカウトとか。まだまだ研究と開発する人が絶対的に少ないから」

 わたしが出張ったせいで、マルタリクとユルガルムでも技術者や学者が底を着いています。子弟制度の推奨政策もあって、これでもまだ技術職の就職先としての門戸は大きく開かれていますが。研究開発出来る人材は、職人衆の中でもまだ一部の人達だけです。

 「そういうことなら、奨学金制度とかもいいかも?」

 「奨学金?」

 「学びたい人達への資金援助ですね。学費とその間の生活費を補助するという。返済のかわりに卒業後は何年か指定したところで働くとかいう制限が付くことになると思いますけど」

 「なるほど。学ぶ気はあるけど経済的に上位の学校に入れない子とかをそれで掬い上げるってことね」

 国の金で勉強したのなら、しばらくは国のために働いてもらうことになりますが。もともとこの時代だと、研究開発分野で国に関わらないってことの方が難しいでしょう。

 とまぁ。こんな感じで賢者院と人事院へ、研究部門の独立と人材育成について検討依頼を出すことになりました。
 今回の報酬だけでなく、いろんな工事でもらった報酬も貯まっています。うん、有益な使い道が見つかりました。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

処理中です...