玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第7章 Welcome to the world

第7章第021話 沼男ならぬ沼娘?

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第7章第021話 沼男ならぬ沼娘?

・Side:ツキシマ・レイコ

 マナ。まぁ地球の人間からすれば夢のような物質です。
 ほぼE=MC二乗のエネルギーを内包し、それを保持している核子構造をそのまま演算回路として働かせることもでき、放射線も遮断されています。

 この世界の人はまだ、マナをほとんど熱源としてしか使っていませんが。過去にこの惑星のテラフォーミングのために大量に散布され、いくらかは地層となって産出もしますし。生物内では神経系に蓄積して、その信号に干渉したり干渉されたり…この辺はまだよくわかんないですけど。人においては、身体強化やら、電気・電磁的効果を上手く扱える人なら遠隔攻撃や電撃も可能です。…使った本人にもダメージが入るので、使い方や使い処が難しいですけどね。

 ユルガルムの工房にて、マナを使ったモーターや冷房などの電気的効果の使い方が開発されつつあります。もし体内でコントロールすることなくマナのエネルギーが直接扱えるのなら… まぁ兵器として使われるのも時間の問題でしょうか。レイコ・ガンとかレイコ・バスターとか、私自身がいろいろとそれを使い示しちゃっていますし。

 太陽リングでマナが生産されているのは赤井さんから聞いています。あそこなら太陽光が使い放題ですからね。熱の問題さえクリアーすれば、地球の近くで太陽光発電するよりよほど効率良くエネルギーを得ることが出来るでしょう。
 巨大なリングが受け取るその莫大なエネルギーで、エネルギーをそのまま質量に変換したに等しいマナを量産しています。どうやって地球に持ってきているんでしょう? まぁマスドライバーとかいくらでも手段はありそうですが。


 そんなところで。もしマナを自由に出来たら。この青年は何をしたいのでしょう?


 「今ユルガルム領では、マナを使ったいいろんなものを開発しているのは知っている? その分程度のマナなら、これからもそう不足しないと思うけど。ここの様に魔獣も来るしね。太陽まで取りに行くのは、ものすごくたいへんよ?」

 魔獣の体内で濃縮されるマナ。または一部の地域に堆積しているテラフォーミングの残滓のマナ。量も濃度もさほど多いとは言えませんが。マナはちょっとした量でもほぼ無補給でお風呂を沸かし続けられます。

 「…レイコ殿の体は、マナで作られたものだそうですね。」

 「この体は赤竜神に貰った物ってだけで、私自身全部を理解して使っているわけでは無いですけどね。それなりに便利だとは思うけど、良いことばかりではないわよ?」

 「良いことばかりではない?」

 「まず、この見た目のまま成長しないし。私、これでも中身は27歳よ」

 「不老不死。人の究極の夢ではないですか? 正教国のサラダーン前祭司長もそれを求めてたと聞いていますが」

 正確には、死なせてしまった女性の復活ですけどね。人体のマナ濃度を上げる実験をして、魔獣化…魔人化してしまった被害者が出ています。

 「まぁ、実際に生きていたころと合わせてもまだ三十年も生きていないし、これからずっと不老不死と言われてもピンときていないけどね。…でもまぁ、面白いこと以外にも辛いことも確定で沢山起きると思うわよ」

 「辛いこと?」

 「私以外がみんな死んでしまうこと」

 「… もし皆が不老不死に成れるのなら、それも解消されるのでは?」

 「勘違いしている人は多いけど。記憶や経験を共有しているってだけで、生きていた頃の私と今の私はまったく別の存在よ。不老不死を望んでマナの体を手に入れられたとしても、生き残るのは複製の方だけで、自身は確実に死にます。私も自分が死んだときの記憶はしっかりあるわよ。その時に元の私は確実に死んでいるわ」

 「…」

 「この違和感、想像できる?」

 二十世紀の哲学者が提案した思考実験に"沼男"というものがあります。
 落雷である男が死んで沼に落ちてしまうが、偶然にその落雷で沼の泥から男と全く同じ存在が誕生してしまう。その"沼男"は、男と入れ替わるように生活を続けていく…という。
 最初の男は確実に死んでいるが。沼男の方はその断絶をまったく意識していない。そんなお話。
 マナで体を作って脳内のデータを複製するだけでは、当人にとっては不老不死にたり得ないのです。

 まぁこの辺の話は、"スキャン"の開発が始まったときに散々議論された話で。関わっていた私達には今更なのですが。
 この断絶を無くす方法の一つ。脳とコンピューターの融合。

 例えば。ある人の脳細胞を一つずつ人工脳細胞に交換していき、最終的には人工脳細胞だけになる。さて、どの時点でその人は死に、沼男が生まれたことになるのか。

 こんな感じで脳内の処理を普段から外部に依存させることで、意識を徐々に脳外に移していく。電脳化なんて単語も、SF用語としてはポピュラーでしたね。
 脳からデータを取り出し、またある時はデータを脳に書き戻す。これが当たり前になれば、人の本質はそのデータその物となり、沼男の心配をする意味がなくなる…
 父は元々この技術について、脳とコンピューターの新世代インターフェイスを目標として研究開発を始めました。また、脳内の処理を参考に、より高度なAI開発の一助とすることを目指していたと聞いてます。
 まぁ私が生きていた頃には、研究が結実するのは遙か未来の話ではあったのですが。
 父から最初に聞いた時には、まさか自分がその開発に関わるようになり、さらにこうして沼娘として遙か未来に存在することになるとは思わなかったのですけど。

 「この技術が不老不死だと思う? 貴方ならこの処置を受けてみたい? というより、受けれるのなら死んでも良いとまで考えられる?」

 「確かに…自分で受けてみたいかと言われれば、躊躇してしまいますね。ここに居る自分はどのみち死んでしまうのですから」

 まぁこの辺は、一般の人々の間における死生観自体の進歩を待たないといけないでしょう。

 「それに、今の私を絶対的な武力や万能の存在みたいに見てくる人もいるし。そりゃ降りかかる火の粉は払えるに越したことはないけど。べつにこの力を誇示したいわけでもないし、普段は普通の人として過ごしたいわ」

 「でも、ネイルコードに武力を提供したり、知識を分け与えたりしていますよね?」

 武力って… 武器についてはほとんど知識は出していないのですが。まぁ小規模な戦闘に参加したことはあるけど、その程度ですよ?。

 「武力って言われても、そもそも私から手を出したことは無いし、今までのことは全部成り行きよ? 知識にしても、私が知っている程度の知識はいつかはこの世界の人もたどり着くものだから、私がいなくても時間の問題です」

 技術文明の発展について大きく時間短縮している事は認めますが。科学技術なんていつかたどる道です。

 「成り行きでダーコラと正教国を滅ぼしましたか?」

 「人聞き悪い言い方しないでくださいな。国はそのまま残っているでしょ?」

 「しかし…両国ともトップが排斥されてますよね?」

 「私を便利なコマにしようとしたし、王侯貴族聖職者優先で政も杜撰な国だったでしょ? ネイルコード国が繁栄を続ける限り、時間の問題だったのよ。それにダーコラと正教国が変わって何か悪くなったことなんてないでしょ? 今まで好き勝手やってきた人には災難だったかもだけど、それこそ自業自得よ」

 「…いささか傲慢にも思いますが。無理をして変える必要があったのですか?」

 この青年、あちらの貴族の出かしら?

 「今までうまく行っていたのになんで変えるのかってこと? それは現状の上手くいっていない部分を無視して、将来に目を瞑っていただけよ。王侯貴族が国民から搾取するだけの国なんて必ず行き詰まって、変わることが出来た国に遠からず経済力で圧倒されるわよ。むしろ、今のうちに改革できたのなら僥倖でしょう。ネイルコード国がまだ大人しいうちに落ち着いたのなら、むしろ良かったでしょ?」


 自由経済というものは恐ろしく侵略的です。ネイルコードが大人しい段階ってのは、経済による結びつきをあくまで身内の結束のために使っているだけで、征服の為の経済侵略を意識していないってだけのことです。アイズン伯爵の才気が本気で大陸制覇なんてことに向かったら、他の国はあっというまに経済的植民地になるでしょうね。

 アイズン伯爵は顔に似合わず善人過ぎます。手の届く範囲の不幸を放置できない人です。
 そんな彼の手綱を上手く操っているのがクライスファー陛下とローザリンテ殿下でしょうか。そんなアイズン伯爵の欠点を知っているからこそ、国政に対してはアドバイザーのレベルで留めています。

 国王夫妻が完全な善人だなんてことは思っていませんが。大抵の国で王侯貴族が政治経済を好き勝手に牛耳っているこの世界にしては、かなりまともな為政者だと思うくらいには信頼していますし。…仮に本当に大陸が制覇されるのなら、ネイルコード主導が最善だとも思っています。
 …武力で大陸制覇を目指すなんて事になったら、相手が酷い国でもない限り手を貸すつもりはありませんけどね。今のところ、孫の代くらいは大丈夫そうですが。

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