玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第8章 東方諸島セイホウ王国

第8章第026話 アライさんの処遇と特許商売

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第8章第026話 アライさんの処遇と特許商売

・Side:ツキシマ・レイコ

 本当の意味で「偉い人」に丁寧にされると、恐縮してしまいます。権威に弱い…というつもりもないんだけど。どうにも直りませんね。
 国家を運営することが大変だと言うことは理解していますし、町並みからして合格点な政をしているのは明白ですから。こちらから隔意を持つ必要もなく。
 私に礼を取るウェルタパリア・デール・テルレイ陛下の前で思いっきり土下座してしまい。慌てた陛下が同じように伏してしまい。
 止める宰相やら慌てる大臣やら。顔を伏せて肩をふるわせているマーリアちゃん。頭抱えるネタリア外相。そしてなんか諦めた顔のレッドさん。

 互いにペコペコしたところで。とりあえず挨拶終了ということになりまして。
 謁見の間から応接室のような会議室のような所に移動しまして。改めて顔合わせの会合となります。



 事務的なやりとりはネタリア外相が主導します。私は特に外交をしに来たわけでもありませんしね。
 それでも、わざわざ一国の外相がやってきたと言うことで。むしろセイホウ王国側が緊張しているように見えます。

 会合の内容としてはまず、当たり障り無く今回運んできた交易品についてと。私にとっても主題、アライさんのことです。
 交易の品種については、もともとセイホウ王国側から容貌があったということで、ネイルコード産の鉄やら、正教国より西から入ってくる香辛料等の物産がメインです。
 まぁこちらは、どうぞお納めください、ありがとう、で済んだのですが。問題は次のお題。

 「ふむ。では、そちらのロトリー…アライ殿だったか、すぐには引き渡せないと」

 「引き渡しに来たというより…」

 ネタリア外相がこちらをチラ見しますので。私が代わります。

 「私たちは、三年間家族として一緒に暮らしてきましたから。セイホウ王国側に渡してはい終わりではちょっと情が無いと思いますし。それにまだアライさんがラクーンの国に帰るとは決まっていません。ネイルコードにいる他の家族も、アライさんの幸福を願っていますしね。アライさんがどうするかどうなるか、最後まで見届けたいと思っています」

 「ヒャー。とりあえすれんらくがとりたいのてす」

 ヒトの言葉を喋るアライさんに、ノゲラス宰相がちょっとびっくりしていますが。

 「うーん。ロトリーら…そちらの呼び方ではラクーンでしたな。彼らとは、海での遭難者保護についての協定もありまして。互いに遭難者を発見した場合には、安全を確保した上で速やかな引き渡しをすることになっているのですが…」

 まぁ健全な協定ではあります。

 「その後はどうなっているんですか?」

 「その後?」

 「ラクーンがやはりこちらに住みたいといった場合の自由はあるのでしょうか? そうでない場合、連行と大差が無いように思いますが」

 「残念ながら。我が国では、ラクーンらの居住できる場所は制限されています。これはヒトがラクーンの国に行ったときも同じでしてな。まずはここからネールソビン島…この島の東にあるラクーンの租借地の島に入って貰うことになります」

 「なんか、アライさんには宿舎から出歩かないようにと言われていたんですけど…」

 「八百年も前の事ですが、帝国滅亡後に初めてヒトとロトリーが接触したときの残念な事件が記録されていましてな。その後なんとか対話は確保できたのですが、それが切っ掛けでヒトとラクーンは出来るだけ接触しない方が良いということになっていまして。これもロトリーとの協定に含まれていることなのですが…協定というより、もう掟と言って良いかも知れませんな。ロトリーに必要以上に関わると災いがあると、ロトリーを知っている者は皆、盲目的にそれに従っております」

 残念な事件。まぁその辺は追々教えて貰いましょう。
 災いというのも尋常ではない話しですが。アライさんを見るここの人たちから厳しめな視線が混ざるのは、その辺が原因ですか。知らない人はモフモフに魅了され、知っている人は忌避してると。

 「それでは。仮にアライさんがネイルコードに帰りたいと言った場合は?」

 「ふむ… ロトリーとネイルコードには現在国交は無いですからな。アライ殿の在留がネイルコード側で認められているのなら、セイホウ王国が口を出すことではありません。ただ、ロトリー側で許可が出るかは、向こうと話して戴くしかないですな」

 …最悪、亡命させてもいいですね。もちろん、アライさんが希望した場合ですが。
 アライさんがネイルコードに残りたいのなら、出来るだけ穏便に済ませたいところです。やはり、その租借地とやらにアライさんを連れてそこに行くのが最初のようです。ともかく、東の大陸にいると思われるアライさんの家族への連絡くらいは取りたいものです。

 「まぁ手続きと言っても、租借地であるネールソビン島に連れて行くだけなので。次の定期便…八日後ですな、それに同乗できるように手配致しましょう」

 「その島の場所などは、セイホウ王国の機密なのですかな?」

 オレク司令が質問します。

 「役人でだいたいの場所を知るものは多いですからな。ただ、周知させることは憚られるということで、言いふらす者もほとんどいませんな。漁場からの離れているので漁師もあの辺には近づきませんし。知られることでのデメリット… ロトリーを狩ろうという他国の人間が出るかも知れないというくらいですか。まぁ赤竜神の巫女様になら知られても良いとは思いますが…」

 「それでは、我らの船を使ってもよろしいですかな? あくまで最悪の話しではありますが、もしアライ殿の保護のために連れ去るというような事態になった場合、ネイルコードの船でならセイホウ王国とロトリーの関係に支障が出ないのではと思いますが」

 「なるほど…」

 と、ノゲラス宰相が私とアライさんに視線を揺蕩わせます。
 トラブル前提の話ってのもなんですが。どうにも強硬手段が必要なる様な雰囲気でもありますし。

 「巫女様の目的は、あくまでアライ殿の去就が平穏無事であることであって。ラクーンをネイルコードに連れ帰ることではないのですな?」

 「…もちろん、アライさんと今後も一緒に暮らしたいです。子供達…アライさんが来てから家で生まれた子達ですが、すごく懐いていますし。ただ、ヒトの社会でアライさんが今後も暮らしていくことが幸せかどうかと言われると自信も無く。ともかく、ラクーンの社会に帰ったアライさんが幸せに暮らせるか、見極めたいと思っています」

 「ヒトとラクーンでは、見た目も言葉も違いますしな。アライ殿が我々の言葉を喋ることには驚きましたが、発音からして違うので学ぶことも難く、同じ場所で暮らすのは難しいと思っておりましたが。…承知致しました。ネイルコードの船のネールソビン島への寄港を、セイホウ王国としては許可致しましょう。ただ、当地で起きた問題にセイホウ王国は責任を持たないということにも、…そうですね、巫女様とネタリア外相殿に署名を戴きたいのですが」

 私の一存とも言えないので、ネタリア外相の方を見ます。

 「承知しました。アライ殿の去就については、私もネイルコード国の方から委任されておりますので」

 ともかく。後日、セイホウ王国にあるラクーンの租借地ネールソビン島へ、皆で行くことになりました。



 「ところで。今回本問に使われた貴国の艦隊ですが… 帆を張らずに進んでいたという報告があったのですが」

 「御目が早いですな。今回の新型船は、風に頼らずとも蒸気機関というものでも進めます。簡単な原理としては、お湯を沸かした時の蒸気、それを使って羽を回すというものですな。あれのおかげで、ネイルコードから貴国への所要時間も半分になりました」

 蒸気船について聞かれるであろう事は予想していましたので。ネタリア外相が対応します。

 「それは…興味深い技術ですな。そこまで大っぴらにされるということは、技術の教示なり船の販売等を考えておられるのでしょうか?」

 「カラサーム大使あたりから報告は上がっていると思いますが。最近正教国で教会の奉納案件の集約と拡張をおこないまして、こういう"技術"についても登録が行えるようになりました。セイホウ王国でその技術の基礎を購入して自力で蒸気機関を開発するか。または完成品をネイルコードからご購入戴くか。まぁここから先は商売の話しとなりますが」

 要は、正教国で特許を取り扱うということです。もともと教会は知識が集約される場所です。…マナ研の様な危ない部署もありましたけどね。
 一連の騒動で落ちた教会の権威を保つために、国家を跨いでこういう知識の権利を担保するという業務、すなわち特許庁に相当する業務を正教国に薦めました。まぁネイルコードとしても西が強固であることは安全保障上有意なことですし。登録される特許の数はネイルコードのものがどんどん増えるでしょうから、蔑ろにされることもなくなります。

 「かなり重要な技術かと思いますが。ネイルコードでは隠匿するつもりはないのですかな?」

 「元々はレイコ殿由来の知識ですからな。何もしないと誰かが勝手に権利を主張する恐れがあるので、片っ端に教会に奉納しておりますが。危険な物でなければ、基本的に誰にでも公開することにしております」

 蒸気船…軍事に使えるというより、まず最初に思いつくのが軍船でしょう。ただ、火薬とかならともかく、こういうのはインフラとしても重要ですからね。でしたら、とっとと広めて特別性を薄めた方が良いと思っています。みんなで持てば恐くない。

 「なるほど。報告の通りですな。とりあえず、我が国の海軍の者と造船所の技師…あと鍛冶ギルドの人間に船を見学させて貰えないだろうか? 厚かましいと思われるかもしれないが」

 「"商売"に繋がるのなら、歓迎ですよ。ノゲラス閣下」

 という感じに、会合第一部は進行したのでした。

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