玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第9章 帝国の魔女

第9章第017話 旅立ち

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第9章第017話 旅立ち

Side:ツキシマ・レイコ

 「レイコ・ガンやらレイコ・バスターをけっこう使っているけど。うん、土木工事には便利だよね。ただ、体内のマナ率がけっこう下がっているのは自覚しているかい?」

 「あ…はい。補充が間に合っていないでしょうね」

 自然界に存在しているマナを吸収することで補充できる…とは言われてましたけど。普段食べている食品に含まれている分だけでは、レイコ・バスターで消費した分には全然足りないようです。
 …魔獣のマナ塊とか、ユルガルムで掘ったマナとかは、ちょっと口に入れる気がしないのですよ

 「にしても。護身用にとあつらえた能力だけど、皆が土木作業に使うんだよね。これが漫画や小説なら、バトルシーンに突入するところなんだけど…ほんと内政好きだよね」

 「ダイナマイトだって工事用じゃない、ノーベルだってそちらを望んでいたんだから。あの能力で世界征服とか…そんなメンターがいたの?」

 ニトログリセリンを安定して使う技術で財を成したノーベルさん。火薬が戦争に使われることを悲観して、ノーベル賞を作った…なんて言われていますが。
 知識と武力チートで世界征服。…まぁ出来るのでしょうけど。私は支配する側の面倒くささを忌避しています。有能な王侯貴族の元で面倒は押しつけて、私自身はスローライフを目指したい。所詮、庶民ですから、

 「…世界征服では無く、世界を終わらせるために使った例はあるよ。詳細は秘密だけどね。まぁ便利な道具として使われているのなら、それに越したことはない」

 善きかなという雰囲気の赤井さんですが。道具で済まないような最終兵器を個人に持たせて。何考えているのやら。 …というか、本当に最終兵器として使ったメンターがいたんですね。

 「ふぅ、まぁともかく。いかにあなたが大量のマナを持っていても、使えば減るもの。将来いつか深刻になるわ」

 「減った分は、有機物ベースの構造に置換していくから。丸焼けにでもならない限り、体躯が小さくなるなんてことはないけどね」

 規模大きめのレイコ・バスターで一回0.1グラムも使わないとしても、塵も積もればです。
 根っこ堀りくらいはレイコ・ガンで済みますが。三角州の河川改修では、けっこう撃ちまくりましたし。鉄道敷設や水路掘りでも、山や丘を迂回するよりは掘ってくれと、けっこう依頼を受けていました。

 「そこで。私のこの体はもう必要なくなるから、あなたにマナを譲渡したいんだけど。今の体躯だと容量が足りないから、赤井さんが大人のサイズにしてくれるって。それでも余る分は、二人のレッドさんにもね。いきなり大人の身長になるのが難点だけど。まぁ、今だけのお得なチャンス、どう?」

 「どう?って…」

 要は、大人のレイコが、私が成人女性サイズに成れる量のマナを分けてくれるそうです。
 たしかに子供の姿だと、初見で侮ってくる人はまだいますし。ここに来てから五年、全く成長しないのも周囲から浮いてる気がしてきたところですが。…ちょっと急ですね。

 ここに来て、今来ている服どころか、ネイルコードの家の方に置いてある服とかは全部あつらえ直しなのか…とか現実的なことを考えてしまいます。アイリさんの趣味丸出しで、着ていない服もけっこう有りますが。いや、ハルカちゃんとか、着る子はいくらでも居ますかね?
 
 「…レイコ、私は賛成しておくわ。ほら、私が成長しているのにレイコがそのままだと、なんか申し訳なくて… それにハルカちゃんたちにもすぐ追い越されるわよ」

 ありゃ。マーリアちゃんにも気を遣わせていましたか。

 「私も千年経ってこれくらいだから、大量にマナを消費することがなければ問題ないと思うけど。まぁ余裕は持っていて損はないわよ」

 …なんかフラグ立てられている感じもしますが。
 ハルカちゃんたちもあと五年もすれば私の身長を追い越すでしょう。さすがにその状態でレイコママと呼ばれるのは… 身長くらいは欲しいよね?

 「そういえば、こちらのレッドさんは連れて行かないの?」

 「データの方は転送済みよ。ただ、私が居なくなって、あなたは西の大陸に帰るのでしょう? 赤井さん…赤竜神に連なる者がロトリーに誰も居ないと心配だから。レッドさんを残す…というより、もう一体を増やしてここに残す感じかしら。レイコを再々生するわけにも…いかないわよね?」

 さもありなんとうなずく赤井さん。データに複製もオリジナルもありませんが。同じ場所に同じデータが別個に稼働する…というのは避けたいようです。

 「でも…そちらのレッドさんは、ここでさみしくない?」

 あ。ロトリー達がいるから寂しくないという回答と、純粋AIだから寂しいという感情がない、という回答が同時に送られてきました。
 ちょっとびっくりしていると…なんかどや顔に見えるのはなんででしょう? 大人のレイコは笑っています。

 「けっこう面白いでしょ?この子。ほんと、いろいろ学習したわね。念話は相変わらず堅苦しいけど」




 「さて。もろもろの案件は片づいたし。そろそろ征きましょうかね」

 大人のレイコが立ち上がります。

 『女神様…』

 『エイティーンズ、そんな顔しないの。毎年寝るときと大差ないわよ。むしろ、唐突に寝落ちしないだけ、きちんとお話も出来たでしょ』

 寝落ちしていたんですか、大人のレイコ。

 『名残惜しいこともいっぱいあるけど。正直、辛い思いでもいっぱいあったわ。それでも、ロトリー達と出会ってからは…私も救われたのよ。帝国が滅んだ状態で千年経っていたら… 目を覚ましたか自信が無いわ』

 「そうだね。ロトリー達が居なかったら、多分玲子は目が覚めなかったんじゃないかな。そのまま自閉して…そういうメンターも少なくないんだ」

 『ロトリーの国には平穏な未来が待っている…と楽観を言うつもりは無いわ』

 『楽観するな。最悪は常に頭の隅に。あなた様の教えですね』

 にっこりと笑って、パンダ王の頭をなでる大人のレイコ。

 『ありがとうね。パンタ・ロトリー・エイティーンス。…やはりこう言っておくわね。あなたたちの未来が明るいことを祈っているわ』

 『ありがとうございます。女神に祈っていただけるのなら、霊験あらたかですね』



 「じゃあ。まぁ見られてするようなことでもないし。向こうの寝室に行きましょうか」

 深々とお辞儀するパンダ王をはじめとするロトリー達。軽く手を振る大人のレイコ。

 「レイコ…いってらっしゃいでいいのかしら?」

 「お嬢さん、明日の朝には終わるから。宿舎に戻っても良いけど」

 「ここで待ちますっ!」

 ここで一晩待ってくれますか。ラクーンの方で面倒見てくれるそうです。


 寝室に入った私たち。レイコが二人に、赤井さんと、二人のレッドさん。

 「さて。赤井さん、どうしたら良いのかしら?」

 「レイコは、今来ている物を脱いで… そうだね、レイコにゆったりした服を貸してあげてくれるかな玲子」

 赤井さんの言うレイコと玲子の聞き分けがなぜが出来てしまいます。

 「後は、手でも繋いで一緒に寝ていてくれれば良いよ。あっと、レッドさん達も添い寝してね。ホメオスタシスデータのシンクロもしておきたいから」

 寝室にあったのは、石のベット。

 「私が最初に寝ていたベットは、普通に朽ちてしまったわ。私を見つけたロトリー達が用意してくれたのが、この石のベットなのよ。寝心地を気にしなくてもいい身体だし、布団に埃が積もるままってのも気分が良くないから。これを愛用しているわ」

 キングサイズの石のベットに、二人で手を繋いで横たわります。

 「まぁ、見て面白い物じゃないから」と、赤井さんが、薄手のシーツをかぶせてくれます。



 「…ごめんなさいね」

 「何が?」

 「中途半端にリタイアして、後をあなたに押しつけてしまうわ」

 「天災なら仕方ないわよ。私もネイルコードがそうなったら、心が折れない自信が無いわ」

 「ロトリー達のこともお願いね。ほんと、彼らには救われたのよ」

 「…善処いたします」

 ふふふと、繋いだ手がぎゅっと握り返してきたところで、私の意識は途切れました。

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