玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第9章 帝国の魔女

第9章第020話 ロトリー国のレイコの手記

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第9章第020話 ロトリー国のレイコの手記

Side:ツキシマ・レイコ

 「性善説で済ませず、問題は起きることを前提に考えましょう。レイコ殿が出された例題は確かに考えたくも無い事態ですが。起きて欲しくないだけでは、解決はしません」

 「他国民に対しての殺人、この場合の司法権。どちらで裁いたとしても禍根が残りそうですな。我々の大陸では、だいたい正教国の法に準じればよかったが…」

 「ロトリーても、本人以外の連座と奴隷は女神様が禁しられました。報復として犯人を引き渡すのてはなく、起きた国ての事件として扱うのか、一番公平かと」

 「となってくると。国によって刑罰に軽重がある場合、そこが問題になりそうですな」

 「互いの国の刑法の確認から始めなくては… いや、ロトリー語から勉強せねば…」

 「セイホウ国に渡した我が国の法典かあるはすてすか…」

 「その前に、ロトリーらを人間として各国に認めさせる必要が。…正教国にねじ込むのが手っ取り早いのか」

 と、私の方を見るネタリア外相。はいはい、ラクーンの人権問題には積極的に協力しますよ。


 私はと言えば。
 会議を横から突つきながらも。タンスから出てきた古い冊子、ロトリー国のレイコの手記を手写ししています。このノートをロトリー国から持って出るのは憚れますが。内容に関しては、ネイルコード国クライスファー陛下と、正教国のリシャーフさん…猊下あたりには、知っておいて欲しいと思いますので。大陸語とロトリー語に翻訳して、それぞれでキープとなります。

 ノート自体は、どうもロトリー国で紙が作れるようになってからの製品のようで。裏表紙にロトリー語で"女神様へ贈呈"と書かれています。糸閉じの和本のようになっていますが。最初期の製品を贈ったんでしょうね。
 ノートの内容は。旧帝国歴、旦那さんが皇帝になるまで。新帝国歴、旦那さんが皇帝になってからおそらく滅亡寸前まで。ロトリー歴、ここで目を覚ましてから最近まで。大雑把に三つにわけて書かれています。

 帝国時代のことはメモ入り年表といった感じですか。ロトリー時代は、起きてからのことをリアルタイムで記帳したようで。定期的に目が覚めたその都度追記してきたのでしょう、ロトリー達から見聞きしたことのメモ書きで埋まっています。
 突如滅びた帝国の歴史の第一級の史料ですので、ネタリア外相が大いに興味を示していますが。先にお仕事ですよ。

 帝国時代前半部分は、この地に降り立ってから、初代皇帝の時代の年代記。旦那さんが皇帝になる前後で、戦闘もけっこう経験したみたいです。簡単な地図と共に、どのような戦闘があったのかも書かれています。
 帝国時代後半は、誰が生まれてどういう職について、いつ亡くなったのか。いつどこでどういう事件が起きたのか。前半に比べると大分シンプルになってきます。
 帝国滅亡については…年月日と「超新星 滅亡」と書かれているだけです。


 一緒に、ロトリーの学者さんが… 王国史を編纂している役人でもあるそうで。私が書き出したところを、人の言葉からロトリー語に訳しながら書き写しています。

 『子パンダかわいい!』

 このメモは、最初のパンダ柄の王さまの即位前、子供の頃に会ったときについてで。その子はロトリー国国王としては三代目だそうです。

 『「子パンダかわいい」…と。レイコ様、パンダという名詞がけっこう出てくるようですが。パンダとは何なのでしょうか?』

 あ、それもロトリー分に書き写しますか。
 にしても、なんで日本語なんでしょうね。解読するにしても、この文章量だと難易度は高いと思います。
 後でまとめ直すためのメモ? または私宛かも… でもこれを書いたのは、私が再生されるよりずっと前のことです。…いつかメンターが再派遣されることを期待したのかな。

 ネイルコードでは、私は土木関係の仕事であちこちに出張ってましたけど。ロトリー国のレイコは、レイコバスターを使うような街道整備や治水の工事は帝国時代にほとんど終わらせていたためか、ロトリー国の時代となってからはほとんど外に出なかったようで、一般のラクーン達にはあまり姿を知られていないそうです。
 ラクーン達に教育を推奨し知識層を作り。南の大陸からの鉱物などを調べさせて、鉄砲…火筒までこぎ着けた…というのが、ロトリー国の技術レベルですか。
 木造についてもけっこうなレベルまで来ているようで。木造の帆船で五百トンクラスくらいは作れるようです。首都の外縁部の街並みも、木造が多いですね。
 総じて、日本で言えば江戸時代くらいの技術レベルってところですか。長短あれど、東の大陸との差は数十年くらいの差かと思います。うーん、これを誤差というか格差というかはちょっと計りかねますね。ネイルコードは、ここ五年の進歩がすさまじいですから。

 「宣戦布告無しの開戦は違法とする… 法として施行したとして守られますかな?」

 「奇襲ができるのにしない現場指揮官はいないでしょう。油断して奇襲される方が悪いとは言えますが。それをやってしまっては、なし崩しに全面戦争ですからな。無法をした後では、休戦も難しいですぞ」

 会議は、国際戦争法みたいなところまで踏み込み始めましたね。ちと驚かしすぎましたか。
 まだ国交樹立前なのに戦争の話かよ!って感じですが。これは同時に、偶発的衝突から戦争に発展することを回避するための仕組み作りでも有りますし。今回はあくまで準備会です、本格的議論はそれぞれの国に持ち帰ってからですね。


 私の方と言えば。四日くらいでノートの書き写しは終わりました。原書は、パンダ王が恭しく引き取り、国宝として厳重に保存するそうです。

 …戦争は"許さない"としても。どうやったら、人とラクーンの衝突が避けられるのか。目の前で繰り広げられている歴史的会談を前にして、心配になるのは、これからの人の国々とロトリー国の行く末です。
 文明の衝突、多極化、世界秩序。
 お父さんと話したことや、昔読んだ本の内容を思い出しつつ、手持ち無沙汰にメモを書いたり消したりしながら思案していると。

 「レイコ殿。両国…いえ両種族の未来が心配ですかめ?」

 大陸の言葉に訳しながらしていたメモに目がとまったのか、ネタリア外相が話しかけてきました。

 「はい。…いざ戦争となったときに私が干渉すればその場は収まるでしょうけど。それだけでは根本的な対立は防げるのかな?とか…」

 アライさんはかわいいですけどね。人とラクーン、互いに尊重する社会、理想ではありますが。それもお客扱いとしているところまでです。
 交われない種の差は、目に見える楔として刺さり続けるでしょう。それが生き物の本質と言えばそれまでですが。

 「人は他者を支配したがるもの…と、私の師が言っていました。私も今の地位に就くのに、いろいろ学びましたからね。ロトリー場合、どうも巣という仕組みのせいで、これらの動機や優先順位が違うようですが。自分の巣の安全のために他の巣を従えようとか、巣の順位を上げようとするあたりで、行動原理は似ているように思います」

 ラクーン達も国を建てていますからね。権力欲はあるのです。やはりこのへんは不変なのでしょう。

 「みなさんすこいてすね。相手国の前てそのようなお話をされるとは。もちろん私も、自分の権力を忘れたことはありません。王として慢心は許されないことですから」

 参加していたパンダ王が、明け透けな話題に驚いていますね。
 でも、これらのことはロトリー国でもきちんと意識してもらわなければなりません。

 「これも"人"の策略かもしれませんよ。陛下」

 ネタリア外相の言に面白がるパンダ王。
 いかに自分たち陣営を有利に立てさせるか。まぁそれが外交そのものですからね。でもまぁ、ロトリー国のレイコにいろいろ教えてもらっていたようですし。彼なら大丈夫でしょう。

 「ただ、アイズン伯爵の権力志向は… 私は現陛下が即位されてからのお付き合いですが。彼は真逆ですね」

 ネタリア外相曰く。他者の支配の仕方が違うんだそうです。
 大勢の民がしたいこと…明日の食事を心配すること無く、労働が報われる生活。皆がしたいことに現実的指向性を与えることで、伯爵が望む権力を伯爵に与えます。
 民の前に置いたのが明日の希望だとすれば。同時に民の後ろから追い立てているのは、飢えと貧しさの絶望の生活。今のネイルコードの国民の半分は、ダーコラとの戦争や、強欲な貴族による重税の時代を知っていますから。アイズン伯爵の施政の恩恵に預かった民にはけっこう効果的だと思います。
 …これはもう、宗教の構造に似ているかもしれません。

 民に対しては、前に進むために必要な現実的な危機感。そして為政者側には、民に与える危機が無くなることに対する危機感。
 ネイルコードのクライスファー陛下やローザリンテ殿下あたりは、そのへんきちんと理解していると思いますが。その新しい危機感として現れた、火筒を持った人ならざる者の国。利用するにはちょうど良いでしょうね。彼らがロトリー国の存在をどう扱うのか…
 アイズン伯爵はどうするでしょうね? 特に危機感を感じないような気もしますけど。

 「…できれば、平和のままでいて欲しいんだけど」

 「エイゼル市とだけ、またはネイルコード国とだけなら可能かもしれませんが。大陸全体が相手だと難しいでしょうね。欲を出す国は出てくると思いますが…。今やっていることを公にすれば、嘗めた対応をしたら只では済まないという警告にはなるでしょうね」

 不平等貿易、資源の利権。これらを求めるのは国としてあたりまえの安全保障でもあるのですが。これを強欲と言ってしまうのは酷ですが。
 動物の国と侮るところは出そうですからね。そういう国が、完成した条約文に付いて来られるか、見物です。

 「…レイコ殿。もしかしてご自身でなんとかするのが義務だとは思っていませんか?」

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