暑い景色と冷たい温もり

撫でたココ

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一章

戻りたい日常

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「日南汰~おはよ~」

 朝一番から大声を出す。誰よりも早く、誰よりも元気に。

「もう、うるさいよ~小香花~」

 これも、コミュニケーション。コミュニケーション。みんなの反応も悪くないね。うん。

「日南汰~」

 と、いいつつも、ひとまず自分の席に着き一息つく。この間にまだ反応はない。うん。いつも通りの華麗なスルーだ。

「お、は、よ」

 前の席に回り込んで、日南汰の前の席という特等席を獲得。この席の子。ごめんよ。

「おはよう、小香花。」

 心地よい静かな声。軽く顔を上げ、私を見て挨拶。そしてまた視線を机の上に落とす。

 月曜日の教室。休み明けで、なおかつ修学旅行後だ。楽しい気持ち4割の疲れ気分6割といったところだろうか。会話は楽しいものだけど、疲れた顔が見ただけでわかる。クラス全体がその雰囲気を受け止め、空気を慣らしていく。

 だけど、そんな空気に乗っかるつもりはない。いつだって空気読めない人が、日常を楽しくするんだからね。まぁ静かな空間に我慢できないのが9割なんだけど。

「いや~~修学旅行楽しかったね~~」

「え、あっ、う、うん」

 驚いてる驚いてる。なんか周りも一瞬静まり返ったけど、声が大きすぎたかな。それは申し訳ない。

「どうしたのかな、日南汰くん?」

「楽しかったよね、修学旅行。」

 まごついた反応をみせた。教室の面々は大したことじゃないとわかると自分たちの会話に再び入り込み始める。

「そういえば、休みの日は何してた?連絡取ってなかったけど」

「ずっと家にいたよ。疲れてたし、どこにもいく気力なかったからね」

「そっか~じゃあ連絡すればよかったね。私もずっと家にいたからさ~~。まぁどこにも行きたくはなかったけどね~~」

「そうだね。こっちからも連絡すればよかったかもね」

「おはようございます師匠~~」

 閉じられていたドアを開け、楽しげに入って来た朱華莉。

「おはよう。一番弟子~~」

「師匠~~」

「愛弟子~~」

 なんとも実のない会話をする私たち。この会話だけ聞くと私たちが馬鹿みたいだけど、基本的に実のある会話なんてしてないからね?高校生って。

 くだらないコントをしているうちにチャイムが鳴る。次の授業は英語だ。英語だと確認するやいなや、会話をもう少し続ける。

 英語の先生って来るの遅いからね。

 ほんの少しのアディショナルタイムをもらい、教室のドアが開いたところで席へと戻る。

 そういえば今日は日南汰に一度もツッコまれなかったな。

 ふと、それだけを感じて英語の準備をし始めた。
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