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2章
囮りの娘1
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複数の気配に気が付いたジェリドは焚き火を消す。月明かりも届かない森の奥はと一気に暗闇と世界を変えた。
暗闇の奥を見つめても、何も見えない。
それどころか足音もミズキには聞こえない。
本当に複数の人が近付いているのだろうか?こんなにも静かなのに、ジェリドの勘違いでは無いかと疑ってしまう。
なにせミズキには足音が聞こえないのだから。胡散臭いと思うのは当然の事。
ジェリドを見るとさっきまで何かに取り憑かれていたかの様な表情では無い。ジェリドが元の戻ったと少しだけホッとする。ミズキの裏切りが彼を変えてしまったという罪悪感がミズキの胸を占めているのは変わりがないが、表面だけでも元に戻っている今に感謝する。
同時に険しい表情のジェリドに見惚れてしまう。イケメンの部類に入るというか?ジェリドはミズキの好みの顔をしている。今まで気が付かなかったのが不思議な位、いい男に見える。
ジェリドが好きだと気付いてから、顔の造りを気にするなんてと客観的に自分を分析する。髭さえ無ければもっと若く見られるのに!
残念!!!!!
そうだなぁ・・・・髭が邪魔だな!
ウン、邪魔だ!間違いない!!
そう!この髭のせいで、ジェリドがイケメンだと気が付かなかったんだ!
気付かない原因は、ジェリドの髭が邪魔だったんだとミズキは結論づけた。
八つ当たり気味に髭を引っ張ってやろうかと思ってみたが、こんな状況でそんな事を考えている自分のアホさ加減にミズキは頭を振った。
今は、そんな場合ではなかった。
ミズキのしぐさに気づかないようで相変わらず、ジェリドはジッと暗闇の先を睨んでいた。
やはり見つめている先に敵がいるのだろうか?
もし敵がいたら、このままジェリドの側にいたら確実にジェリドの足手纏いになるのは必死。
ミズキも最善作を考える必要がある事に気がつくと、足手纏いにならない様にジェリドから離れた方が良いのではと考える。
ジェリドは確実にミズキを庇いながら戦う羽目になる、ということは、ジェリドの力を十分に発揮できない。発揮できないだけならまだしも、怪我でもしたら、ミズキは悔やんでも悔やみきれない。
ジェリドが自分のせいで傷つくのは嫌。
結果、答えは1つ。
「ジェリドさん?」
裾を引っ張って小声でジェリドの背から話しかけると「‥‥なんだミズキ」ジェリドの声だけが返ってくる。
ジェリドはミズキを見ないで、暗闇を見つめたまま返事をする。
暗闇でもピッタリとジェリドの側にいれば見上げるだけでジェリドの横顔がミズキの瞳に映る。
それだけでミズキは安心出来る。
ただジェリドに近付き過ぎてジェリドの緊張がミズキにも伝わるのは当然の結果で、言葉が喉から出てこない。
ジェリドの厳しい顔に言葉が詰まる。
かなり情況が悪い様だ。
「‥‥あ、あのね、ジェリドさん、私が居ない方が‥‥」
「居なくなる?」
さっきまでは、ミズキの言葉に反応しても、顔だけは暗闇に向いていたのに『居なくなる』の一言を言うと、ジェリドはミズキを見下ろした。
さらにジェリドに顔が険しく睨みつける。そして細くなるジェリドの瞳にビビりながら、ミズキはウンと言って力強く頷く。
「俺から離れてどうする・・・?」
「当然、隠れる!」
「俺の前から・・・また消えるという意味か?」
探るようなジェリドの瞳にミズキの顔が映る。
「えっ?消える?どうして?今はそんなことしないよ!」
「・・・・今は・・・・か・・・・まいい・・」
ミズキの一言に、近い将来ミズキがジェリドから離れていく事を悟ったジェリドの瞳に一瞬だけ悲しみの色が濃くなった。
「へっ?ジェリドさん何言っているの?私が言いたいのは、今現在この不利な状況を何とかしなきゃいけないでしょ?そのために、一番足手まといの私がジェリドさんのそばに居ちゃダメなんです!」
「・・・だから?」
『だから?』って、最後まで言わせないでください、ジェリドさんに傷ついてほしくはないんです。
「だから、私はジェリドさんから離れて、ジェリドさんは思いっきり戦ってください」
「お前を守りながらでも俺は戦えるぞ、ミズキ信じろ。俺を信じろ。必ずお前だけは守ってやる」
ジェリドはミズキのそばを離れる気はないと言い切ると、ミズキに向き直って、ミズキを抱きしめる。
ミズキもジェリドの背中に手を伸ばしす。居心地の良いジェリドの胸にそっと頬が触れる。シャツ越しにジェリドの体温が伝わってくる。心臓の音も聞こえてくる。ドクン、ドクンと基礎く正しい心臓の音。
強くなく弱くない優しい抱擁に、ミズキは泣きたくなった。
ジェリドの笑う顔が好き。
少し驚いた顔も好き。
嫌味を言うときの意地悪な顔も好き。
本気で怒る姿は怖くていただけないが、失いたくない。
・・・・・・・・・・・・ジェリドを失いたくない。
確かにジェリドなら、ミズキを守りながら戦えるだろう。でもそれじゃ、ダメなの、そんなことをしたら、ジェリドの実力の半分も出せずに、もしかしたらケガだけでは済まなくなるかも・・・死んじゃうかもしれない。
そんなのは許さない。
ジェリドがほかの誰かを好きになって、ミズキのもとを去りジェリドを失うのも許せない。
ランスロットに、ジェリドを殺させやしない。
ジェリドを失ってしまう前に、ジェリドの前から消えるのはまだ先の話。
ジェリドを失う。
それは今ではない。
今は、このぬくもりを守りたい。
手放したくない。
誓いを新たに、気持ちを引き締めるように、ジェリドの抱擁を、全力で解いた。
「そんなことしたら、ジェリドさんは、実力以下で戦う羽目になります。私はそんなの嫌です」
「嫌って、どういう意味だミズキ?そんなに俺の腕を信じてないのか?」
「そういう問題ではありません!ジェリドさん」
胸を張って言い切るミズキにジェリドは、ハァと溜息をついてた。
「ところで何処に隠れるんだミズキ」
低い声がジェリドの口から溢れると、ミズキはニヤリと笑って、人差し指を上に向ける。
ジェリドはミズキの指先の先を見ると鬱蒼とした木々が月明かりさえも遮っている木々を指していた。
「一体何が言いたい」
「私はジェリドさんの足手纏いにはなる気はありませんよ!だから・・・」
「だから?」
「木の上に隠れるんです」
「・・・一人で木に登れるのか・」
「あっ・・・・」
「やっぱりか」
暗闇の奥を見つめても、何も見えない。
それどころか足音もミズキには聞こえない。
本当に複数の人が近付いているのだろうか?こんなにも静かなのに、ジェリドの勘違いでは無いかと疑ってしまう。
なにせミズキには足音が聞こえないのだから。胡散臭いと思うのは当然の事。
ジェリドを見るとさっきまで何かに取り憑かれていたかの様な表情では無い。ジェリドが元の戻ったと少しだけホッとする。ミズキの裏切りが彼を変えてしまったという罪悪感がミズキの胸を占めているのは変わりがないが、表面だけでも元に戻っている今に感謝する。
同時に険しい表情のジェリドに見惚れてしまう。イケメンの部類に入るというか?ジェリドはミズキの好みの顔をしている。今まで気が付かなかったのが不思議な位、いい男に見える。
ジェリドが好きだと気付いてから、顔の造りを気にするなんてと客観的に自分を分析する。髭さえ無ければもっと若く見られるのに!
残念!!!!!
そうだなぁ・・・・髭が邪魔だな!
ウン、邪魔だ!間違いない!!
そう!この髭のせいで、ジェリドがイケメンだと気が付かなかったんだ!
気付かない原因は、ジェリドの髭が邪魔だったんだとミズキは結論づけた。
八つ当たり気味に髭を引っ張ってやろうかと思ってみたが、こんな状況でそんな事を考えている自分のアホさ加減にミズキは頭を振った。
今は、そんな場合ではなかった。
ミズキのしぐさに気づかないようで相変わらず、ジェリドはジッと暗闇の先を睨んでいた。
やはり見つめている先に敵がいるのだろうか?
もし敵がいたら、このままジェリドの側にいたら確実にジェリドの足手纏いになるのは必死。
ミズキも最善作を考える必要がある事に気がつくと、足手纏いにならない様にジェリドから離れた方が良いのではと考える。
ジェリドは確実にミズキを庇いながら戦う羽目になる、ということは、ジェリドの力を十分に発揮できない。発揮できないだけならまだしも、怪我でもしたら、ミズキは悔やんでも悔やみきれない。
ジェリドが自分のせいで傷つくのは嫌。
結果、答えは1つ。
「ジェリドさん?」
裾を引っ張って小声でジェリドの背から話しかけると「‥‥なんだミズキ」ジェリドの声だけが返ってくる。
ジェリドはミズキを見ないで、暗闇を見つめたまま返事をする。
暗闇でもピッタリとジェリドの側にいれば見上げるだけでジェリドの横顔がミズキの瞳に映る。
それだけでミズキは安心出来る。
ただジェリドに近付き過ぎてジェリドの緊張がミズキにも伝わるのは当然の結果で、言葉が喉から出てこない。
ジェリドの厳しい顔に言葉が詰まる。
かなり情況が悪い様だ。
「‥‥あ、あのね、ジェリドさん、私が居ない方が‥‥」
「居なくなる?」
さっきまでは、ミズキの言葉に反応しても、顔だけは暗闇に向いていたのに『居なくなる』の一言を言うと、ジェリドはミズキを見下ろした。
さらにジェリドに顔が険しく睨みつける。そして細くなるジェリドの瞳にビビりながら、ミズキはウンと言って力強く頷く。
「俺から離れてどうする・・・?」
「当然、隠れる!」
「俺の前から・・・また消えるという意味か?」
探るようなジェリドの瞳にミズキの顔が映る。
「えっ?消える?どうして?今はそんなことしないよ!」
「・・・・今は・・・・か・・・・まいい・・」
ミズキの一言に、近い将来ミズキがジェリドから離れていく事を悟ったジェリドの瞳に一瞬だけ悲しみの色が濃くなった。
「へっ?ジェリドさん何言っているの?私が言いたいのは、今現在この不利な状況を何とかしなきゃいけないでしょ?そのために、一番足手まといの私がジェリドさんのそばに居ちゃダメなんです!」
「・・・だから?」
『だから?』って、最後まで言わせないでください、ジェリドさんに傷ついてほしくはないんです。
「だから、私はジェリドさんから離れて、ジェリドさんは思いっきり戦ってください」
「お前を守りながらでも俺は戦えるぞ、ミズキ信じろ。俺を信じろ。必ずお前だけは守ってやる」
ジェリドはミズキのそばを離れる気はないと言い切ると、ミズキに向き直って、ミズキを抱きしめる。
ミズキもジェリドの背中に手を伸ばしす。居心地の良いジェリドの胸にそっと頬が触れる。シャツ越しにジェリドの体温が伝わってくる。心臓の音も聞こえてくる。ドクン、ドクンと基礎く正しい心臓の音。
強くなく弱くない優しい抱擁に、ミズキは泣きたくなった。
ジェリドの笑う顔が好き。
少し驚いた顔も好き。
嫌味を言うときの意地悪な顔も好き。
本気で怒る姿は怖くていただけないが、失いたくない。
・・・・・・・・・・・・ジェリドを失いたくない。
確かにジェリドなら、ミズキを守りながら戦えるだろう。でもそれじゃ、ダメなの、そんなことをしたら、ジェリドの実力の半分も出せずに、もしかしたらケガだけでは済まなくなるかも・・・死んじゃうかもしれない。
そんなのは許さない。
ジェリドがほかの誰かを好きになって、ミズキのもとを去りジェリドを失うのも許せない。
ランスロットに、ジェリドを殺させやしない。
ジェリドを失ってしまう前に、ジェリドの前から消えるのはまだ先の話。
ジェリドを失う。
それは今ではない。
今は、このぬくもりを守りたい。
手放したくない。
誓いを新たに、気持ちを引き締めるように、ジェリドの抱擁を、全力で解いた。
「そんなことしたら、ジェリドさんは、実力以下で戦う羽目になります。私はそんなの嫌です」
「嫌って、どういう意味だミズキ?そんなに俺の腕を信じてないのか?」
「そういう問題ではありません!ジェリドさん」
胸を張って言い切るミズキにジェリドは、ハァと溜息をついてた。
「ところで何処に隠れるんだミズキ」
低い声がジェリドの口から溢れると、ミズキはニヤリと笑って、人差し指を上に向ける。
ジェリドはミズキの指先の先を見ると鬱蒼とした木々が月明かりさえも遮っている木々を指していた。
「一体何が言いたい」
「私はジェリドさんの足手纏いにはなる気はありませんよ!だから・・・」
「だから?」
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「あっ・・・・」
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