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2章
囮の娘4
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チリ~ン。
チリ~ン。
チリ~ン。
鈴の音が遠くから少しずつ聞こえ、暗闇から生まれる様に人の形をした物が現れ出した。
一つまた一つと、ミズキは闇から生まれる様に出てくる物を生き物としてみることが出来なかった。
最初に現れたのはローブを被った人の様な物だった。真っ黒なボロボロのローブと思われる布を纏っていた。
そしてローブの物に続く様に腕が無かったり、胴体の半分が無くて這いずる様に腕を動かしたりと異形の者達が次から次へと暗闇から生まれてくる。
先頭のローブの物はローブを深々と被り暗闇も手伝って、まったく顔が見えない、そしてその者の手をローブから出すと掌に赤黒く燃える炎が浮いていた。
一瞬ミズキは初めて見る赤黒い炎を魂が吸われるように見つめていたが、背中が薄ら寒くなり、ゾクリと震えた。次の瞬間ミズキの意識は現実へと向いた。
先程の悪寒が無かったかの様に、炎を見つめた。
(掌に炎が・・・浮いているの?それに熱くないの?)
ミズキの許容範囲を超えた現象にジェリドの顔を見ながら人差し指を炎を指差した。それに答える様にジェリドも口に人差し指を当てて黙って頷いた。どうやら声を出してはいけない様だとミズキは強張ったジェリドの表情で理解した。
(ジェリドさんは知っているんだ)
ジェリドの頷きにミズキはこの世界ではまだまだ知らない事ばかりだと感心した。
そしてミズキの関心もここまでだった。
ミズキの背筋がまた冷え出した。
『また寒くなった』と思ったが、いつ背筋が寒くなったかと考えたが、思い出せず、気のせいかと結論付けた。
それよりも、寒くて寒くて堪らない。凍える様な寒さに歯がガチガチと鳴り出す始末。
急に気温が下がったにしては下がり過ぎだと思う。
普通はあり得ない。
この世界に来て5年になるが、こんな体験は初めてだ。
今までに無い体験に不安が宿る。
それにしても寒い。
あまりの寒さに両手を擦り、ハァと擦る手に息をかけると、ミズキの口から白い息が出る。
えっ?息が白い。
いくら寒いといっても真冬でも無いのに息が白くなるなんて、そんな事この世界に来て初めての経験だった。
この国はどちらかというと温暖で、真冬以外で息が白くなる事は無かった。
しかも日本で言えば今の季節は初夏の陽気にあたる月。
例外としては一年中雪が降っている『不幻の谷』以外は・・・・。
だがここは、『不幻の谷』では無い。
不幻の谷からはかなり離れた場所。西のギアラム帝国の国境付近で間違い無いはずなのに。
どう言う事なのだろうか?
ミズキは益々混乱していく。
どうしてこんなに寒いの?
そん事を考えたが答えは見つからない。
そしてたった今気がついたが、音が一切しなくなっていた。
先程の鈴の音も聞こえない。
鈴の音どころか何の音も聞こえない。まるで音すらも吸い込まれたみたいに。
この状況がおかしい事に気が付いて、ミズキはジェリドの方を見た。
「ひぃっ!ジェリドさん!」
突然の事にミズキはジェリドとの約束を破って声を出してしまった。
ジェリドはまるで無機物の様に固まっていた。というより、ジェリド全体が固まっているというか、薄っすらと白く霜を付けて凍っている。
霜が付いているのはジェリドだけでは無かった。
ミズキ以外の全ての物が霜を纏っていた。
※※
「あの女が死んでくれたほうが、正直ありがたい。陛下にとっても、お前にとってもな」
キャサリン達との話が終わると、グレンとべリアル・ザラはそのまま部屋に残った。そして、べリアル・ザラはそう言い切った。
「だからお前はわざと、ミズキを・・・ギアラム帝国に売ったのか?」
グレンの瞳が、怒りで真っ赤に染まり、体がワナワナと震えている。
べリアル・ザラはそんなグレンの態度に、ため息をつき口をひらいた。
「売ったとは心外だなグレン、仮にも俺は上級大将だぜ、見くびるなよ。ただちょっと陛下の言葉を少し脚色し直しただけさ」
ニヤリとグレンを挑発するように笑った。
「そのおかげで、ミズキは命を狙われたんだぞ!!わかっているのか!」
「ああ、分かっているさ、お前があの女の護衛でもないんだ気にするなよ!」
「関係ないわけないだろう」
「いや、もうお前は関係ない、一昨日付けで、お前は南の上級大将だ」
「その話は断る。ミズキの捜索が最優先だ」
「バカなことを言ってるんじゃねえよ!たかだか女一人にかまけている暇は、お前には無いはずだ!」
「・・・たかだか?・・・・女・・・一人・・・だと?」
「・・・ああそうだ、そこらへんにいる女と一緒だ」
「あいつを、そこら辺いいる女と一緒にするなよ、あいつはなぁ、あいつは・・・あいつは・・・俺の大事な・・・大事な・・・」
グレンの言葉が詰まる。
グレンは言葉を選ぶが、なかなかしっくりくる言葉が見つからない、グレンの知っているミズキは、口が悪くて、横暴で、料理だけはうまくて、人を陥れるようなことをしていても、結局、人を見捨てることが出来ない甘ちゃんで、俺には筋肉バカとののしるくせに弟のリヨンには優しくて・・・・それが・・なんとも愛しくて・・・なんか、気が付いてはいけない事に気が付いたようなきがしてきた。
・・・イジメられて喜ぶなんて有り得ない。
「大事な?」
試すようなべリアル・ザラの瞳に気が付いたグレン。
「大事な!クソ生意気な妹分だ!!」
と半ば強引に叫んだ。
「そうかよ」
半ば呆れたべリアル・ザラはこうも付け足した。
「そうかい?それでもあの女は死んでもらわないと、この国は壊れる・・・・」
「何をバカなことを、ミズキがこの国を壊すわけがないだろう」
「知っているかグレン、漆黒の魔女の話を」
「・・・知っているが、そんなおとぎ話・・・それよりこの拘束をいい加減外してくれ!」
グレンは両腕を後ろで拘束され、足は椅子の柱に縛られていた。
「ははは・・・まあ、俺を殴らないと言う条件なら外してやっても良いが・・・頭に血が上っている今はまだ無理だな、諦めろグレン」
チリ~ン。
チリ~ン。
鈴の音が遠くから少しずつ聞こえ、暗闇から生まれる様に人の形をした物が現れ出した。
一つまた一つと、ミズキは闇から生まれる様に出てくる物を生き物としてみることが出来なかった。
最初に現れたのはローブを被った人の様な物だった。真っ黒なボロボロのローブと思われる布を纏っていた。
そしてローブの物に続く様に腕が無かったり、胴体の半分が無くて這いずる様に腕を動かしたりと異形の者達が次から次へと暗闇から生まれてくる。
先頭のローブの物はローブを深々と被り暗闇も手伝って、まったく顔が見えない、そしてその者の手をローブから出すと掌に赤黒く燃える炎が浮いていた。
一瞬ミズキは初めて見る赤黒い炎を魂が吸われるように見つめていたが、背中が薄ら寒くなり、ゾクリと震えた。次の瞬間ミズキの意識は現実へと向いた。
先程の悪寒が無かったかの様に、炎を見つめた。
(掌に炎が・・・浮いているの?それに熱くないの?)
ミズキの許容範囲を超えた現象にジェリドの顔を見ながら人差し指を炎を指差した。それに答える様にジェリドも口に人差し指を当てて黙って頷いた。どうやら声を出してはいけない様だとミズキは強張ったジェリドの表情で理解した。
(ジェリドさんは知っているんだ)
ジェリドの頷きにミズキはこの世界ではまだまだ知らない事ばかりだと感心した。
そしてミズキの関心もここまでだった。
ミズキの背筋がまた冷え出した。
『また寒くなった』と思ったが、いつ背筋が寒くなったかと考えたが、思い出せず、気のせいかと結論付けた。
それよりも、寒くて寒くて堪らない。凍える様な寒さに歯がガチガチと鳴り出す始末。
急に気温が下がったにしては下がり過ぎだと思う。
普通はあり得ない。
この世界に来て5年になるが、こんな体験は初めてだ。
今までに無い体験に不安が宿る。
それにしても寒い。
あまりの寒さに両手を擦り、ハァと擦る手に息をかけると、ミズキの口から白い息が出る。
えっ?息が白い。
いくら寒いといっても真冬でも無いのに息が白くなるなんて、そんな事この世界に来て初めての経験だった。
この国はどちらかというと温暖で、真冬以外で息が白くなる事は無かった。
しかも日本で言えば今の季節は初夏の陽気にあたる月。
例外としては一年中雪が降っている『不幻の谷』以外は・・・・。
だがここは、『不幻の谷』では無い。
不幻の谷からはかなり離れた場所。西のギアラム帝国の国境付近で間違い無いはずなのに。
どう言う事なのだろうか?
ミズキは益々混乱していく。
どうしてこんなに寒いの?
そん事を考えたが答えは見つからない。
そしてたった今気がついたが、音が一切しなくなっていた。
先程の鈴の音も聞こえない。
鈴の音どころか何の音も聞こえない。まるで音すらも吸い込まれたみたいに。
この状況がおかしい事に気が付いて、ミズキはジェリドの方を見た。
「ひぃっ!ジェリドさん!」
突然の事にミズキはジェリドとの約束を破って声を出してしまった。
ジェリドはまるで無機物の様に固まっていた。というより、ジェリド全体が固まっているというか、薄っすらと白く霜を付けて凍っている。
霜が付いているのはジェリドだけでは無かった。
ミズキ以外の全ての物が霜を纏っていた。
※※
「あの女が死んでくれたほうが、正直ありがたい。陛下にとっても、お前にとってもな」
キャサリン達との話が終わると、グレンとべリアル・ザラはそのまま部屋に残った。そして、べリアル・ザラはそう言い切った。
「だからお前はわざと、ミズキを・・・ギアラム帝国に売ったのか?」
グレンの瞳が、怒りで真っ赤に染まり、体がワナワナと震えている。
べリアル・ザラはそんなグレンの態度に、ため息をつき口をひらいた。
「売ったとは心外だなグレン、仮にも俺は上級大将だぜ、見くびるなよ。ただちょっと陛下の言葉を少し脚色し直しただけさ」
ニヤリとグレンを挑発するように笑った。
「そのおかげで、ミズキは命を狙われたんだぞ!!わかっているのか!」
「ああ、分かっているさ、お前があの女の護衛でもないんだ気にするなよ!」
「関係ないわけないだろう」
「いや、もうお前は関係ない、一昨日付けで、お前は南の上級大将だ」
「その話は断る。ミズキの捜索が最優先だ」
「バカなことを言ってるんじゃねえよ!たかだか女一人にかまけている暇は、お前には無いはずだ!」
「・・・たかだか?・・・・女・・・一人・・・だと?」
「・・・ああそうだ、そこらへんにいる女と一緒だ」
「あいつを、そこら辺いいる女と一緒にするなよ、あいつはなぁ、あいつは・・・あいつは・・・俺の大事な・・・大事な・・・」
グレンの言葉が詰まる。
グレンは言葉を選ぶが、なかなかしっくりくる言葉が見つからない、グレンの知っているミズキは、口が悪くて、横暴で、料理だけはうまくて、人を陥れるようなことをしていても、結局、人を見捨てることが出来ない甘ちゃんで、俺には筋肉バカとののしるくせに弟のリヨンには優しくて・・・・それが・・なんとも愛しくて・・・なんか、気が付いてはいけない事に気が付いたようなきがしてきた。
・・・イジメられて喜ぶなんて有り得ない。
「大事な?」
試すようなべリアル・ザラの瞳に気が付いたグレン。
「大事な!クソ生意気な妹分だ!!」
と半ば強引に叫んだ。
「そうかよ」
半ば呆れたべリアル・ザラはこうも付け足した。
「そうかい?それでもあの女は死んでもらわないと、この国は壊れる・・・・」
「何をバカなことを、ミズキがこの国を壊すわけがないだろう」
「知っているかグレン、漆黒の魔女の話を」
「・・・知っているが、そんなおとぎ話・・・それよりこの拘束をいい加減外してくれ!」
グレンは両腕を後ろで拘束され、足は椅子の柱に縛られていた。
「ははは・・・まあ、俺を殴らないと言う条件なら外してやっても良いが・・・頭に血が上っている今はまだ無理だな、諦めろグレン」
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