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2章
囮りの娘3
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ミズキは両手の指先で唇に触れた。
自分の指のはらの柔らかさとジェリドの唇の柔らかさが全然違う事。
当然だが、指のはらよりジェリドの唇の方が柔らかい。でも、ミズキの唇の方がさらに柔らかい。
そんなことに今更ながら気が付く。
さらに自分の体温より低いジェリド唇の冷たさが心地よい事に、ミズキは今までどれだけジェリドから目をそらしてきた事を物語っている。
そして目の前にいるジェリドの唇から目が離せない。
もう一度。
もう一度ジェリドの唇に触れたい。
素直にもう一度キスして欲しいなんて言える訳もなく、かと言ってなんて言って良いか分からず、唇が震える。
嬉しくて唇が震えるのか、寒くて唇が震えてるのか、わからない。
その想いがジェリドを見つめる目に宿っている事をミズキは気が付いていない。
ただ残念な事にジェリドからのキスはいつだって、ミズキがジェリドを怒らせた時。
ミズキは嬉しいと思う反面、初めてでは無いジェリドからの口付けはミズキにとって苦い思い出しか無かった。
ミズキの視線は唇から瞳へと移すと思わず息を飲んだ。
ジェリドの瞳は何かを抑える様な強い輝きを放っていたからだ。
『しまった』
案の定ミズキはまたジェリドの逆鱗に触れた様だった。その証拠に目の前のジェリドの表情は厳しくミズキを見る目力は強い。
「‥‥俺は‥‥お前の母親になったつもりは無い。これからもそんなことは無い‥‥まさか…チッ、くそ!!」
忌々しそうに舌打ちをするジェリドの顔は心底嫌そうに歪む。そして同時にジェリドはミズキを肩に担いで、本来登る筈だった木ではなくそに隣に立っていた、そこそこ頑丈な木に登り始めた。
あっという間に登るとジェリドは自分の隣にミズキを座らせるとミズキの耳もとで呟いた。
「ミズキ、あの赤の忌み目に助けられたと言っていたな?」
「うん、私が集落につたときは、あっちこっち家が燃えていて、わたしを連れてきた人も目の前で殺されて………人が何人も死んでいたの……そして体半分焼けた男が私に向けて大きな剣を振り下ろそうとして……私を……わたしを……」
ミズキは殺されそうになった瞬間を思い出し体がカタカタと震えだし涙がとめどなくこぼれだした。
「その集落は皆殺しにあったんだな?ミズキ」
「ジュリアスが、さっきの目の赤い彼が、皆殺しにしたって言っていたわ」
そんなミズキの震える体をジェリドは強く抱きしめた。
「……わたし……死ぬのを覚悟したの……覚悟して……ジェリドさんにさよならを言おうと…………ジェリドさん、怖かった……こわかったの」
殺される瞬間は怖くはなかったのに、どうして今頃こんなにも怖いのだろう?どうして涙が出てくるのだろう?
「わかったミズキもういい、もういい、『さよなら』なんて言わなくていい、ずっとそばにいる、俺がずっとお前の側にいる」
うわごとのようにつぶやくミズキをさらに強い力で抱きしめた。
酷い人だと思った。
ジェリドさんは、私とは家族になんてならないと言たばかりなのに、ずっとそばにいるなんて言って………
気休めなのはわかっている。
でも今は今だけは、ジェリドの腕にミズキは縋り付いた。
ミズキの最後の涙び雫がこぼれジェリドは親指のはらでぬぐった。
どうしてジェリドさんはこんなに暖かいのだろう?
この、温かさに家族のような安らぎを求めてしまいそうになる。
ミズキがそんなことを思っているなんて知ったら、今度こそジェリドに嫌われる。
「俺の思い過ごしならいいが、何があっても声を出すな」
「うん、ジェリドさん」
「よし、いい子だ」
素直に頷くと、さっきまでの不機嫌なジェリドはそこにはもういなかった。
遠くの方から、チリーン、チリン、チリーン、チリン、と鈴の音がだんだんと近づいてくる音がした。
森の中でこんな夜更けだというのに、集団が歩いてくる気配がする。
どういうこと?
「ジェリドさん?」
「亡者の行進が始まった」
静かにしろと、ジェリドは唇に人差し指を立てた。
自分の指のはらの柔らかさとジェリドの唇の柔らかさが全然違う事。
当然だが、指のはらよりジェリドの唇の方が柔らかい。でも、ミズキの唇の方がさらに柔らかい。
そんなことに今更ながら気が付く。
さらに自分の体温より低いジェリド唇の冷たさが心地よい事に、ミズキは今までどれだけジェリドから目をそらしてきた事を物語っている。
そして目の前にいるジェリドの唇から目が離せない。
もう一度。
もう一度ジェリドの唇に触れたい。
素直にもう一度キスして欲しいなんて言える訳もなく、かと言ってなんて言って良いか分からず、唇が震える。
嬉しくて唇が震えるのか、寒くて唇が震えてるのか、わからない。
その想いがジェリドを見つめる目に宿っている事をミズキは気が付いていない。
ただ残念な事にジェリドからのキスはいつだって、ミズキがジェリドを怒らせた時。
ミズキは嬉しいと思う反面、初めてでは無いジェリドからの口付けはミズキにとって苦い思い出しか無かった。
ミズキの視線は唇から瞳へと移すと思わず息を飲んだ。
ジェリドの瞳は何かを抑える様な強い輝きを放っていたからだ。
『しまった』
案の定ミズキはまたジェリドの逆鱗に触れた様だった。その証拠に目の前のジェリドの表情は厳しくミズキを見る目力は強い。
「‥‥俺は‥‥お前の母親になったつもりは無い。これからもそんなことは無い‥‥まさか…チッ、くそ!!」
忌々しそうに舌打ちをするジェリドの顔は心底嫌そうに歪む。そして同時にジェリドはミズキを肩に担いで、本来登る筈だった木ではなくそに隣に立っていた、そこそこ頑丈な木に登り始めた。
あっという間に登るとジェリドは自分の隣にミズキを座らせるとミズキの耳もとで呟いた。
「ミズキ、あの赤の忌み目に助けられたと言っていたな?」
「うん、私が集落につたときは、あっちこっち家が燃えていて、わたしを連れてきた人も目の前で殺されて………人が何人も死んでいたの……そして体半分焼けた男が私に向けて大きな剣を振り下ろそうとして……私を……わたしを……」
ミズキは殺されそうになった瞬間を思い出し体がカタカタと震えだし涙がとめどなくこぼれだした。
「その集落は皆殺しにあったんだな?ミズキ」
「ジュリアスが、さっきの目の赤い彼が、皆殺しにしたって言っていたわ」
そんなミズキの震える体をジェリドは強く抱きしめた。
「……わたし……死ぬのを覚悟したの……覚悟して……ジェリドさんにさよならを言おうと…………ジェリドさん、怖かった……こわかったの」
殺される瞬間は怖くはなかったのに、どうして今頃こんなにも怖いのだろう?どうして涙が出てくるのだろう?
「わかったミズキもういい、もういい、『さよなら』なんて言わなくていい、ずっとそばにいる、俺がずっとお前の側にいる」
うわごとのようにつぶやくミズキをさらに強い力で抱きしめた。
酷い人だと思った。
ジェリドさんは、私とは家族になんてならないと言たばかりなのに、ずっとそばにいるなんて言って………
気休めなのはわかっている。
でも今は今だけは、ジェリドの腕にミズキは縋り付いた。
ミズキの最後の涙び雫がこぼれジェリドは親指のはらでぬぐった。
どうしてジェリドさんはこんなに暖かいのだろう?
この、温かさに家族のような安らぎを求めてしまいそうになる。
ミズキがそんなことを思っているなんて知ったら、今度こそジェリドに嫌われる。
「俺の思い過ごしならいいが、何があっても声を出すな」
「うん、ジェリドさん」
「よし、いい子だ」
素直に頷くと、さっきまでの不機嫌なジェリドはそこにはもういなかった。
遠くの方から、チリーン、チリン、チリーン、チリン、と鈴の音がだんだんと近づいてくる音がした。
森の中でこんな夜更けだというのに、集団が歩いてくる気配がする。
どういうこと?
「ジェリドさん?」
「亡者の行進が始まった」
静かにしろと、ジェリドは唇に人差し指を立てた。
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