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ホタル

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2章

ジュリアス

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殺しのプロが潰す集落なんてロクな集落である訳がない。

そうこの集落はギルバルド ・フォン・オーエングリムと西のギアラムと密会や薬物の売買に人身売買にも使われているどうしようもない場所だった。

そしてお頭を殺そうと目論んだギルバルト・フォン・オーエングリムが潜伏していた場所でもあった。

だから、こんな集落は潰して皆殺しで丁度いい。

楽しかったのはギルバルト・フォン・オーエングリムの身体を切り刻んでいる時の奴の絶望の瞳に最後に映ったのが俺だと言う事だ。

楽しいねぇ~、実に楽しい。
家という家に油をまいて、火だるまになって燃えた家から出て来た所を殺した。

後は、1人、1人確実に息の根を止めるのは簡単過ぎて拍子抜けするほどだった。

まあこんな殺しもたまには良い。
気分良く鼻歌でもしようかと思ったら。

そこへ丁度、馬車が集落に入っていた。
また獲物がやって来た。
殺して欲しいとやって来た。
今度は首でも切り落としてやろうかな?
さて馬車には何人乗っているのかな?

遠くから見ると馬車から出て来たのはタレ目に男ととツリ目の男、そして、忘れる訳にはいかない今まで生きて来てただ一度殺しを躊躇した相手。

その馬車には氷の貴婦人が乗っていた。

ちっ!何やってんだあの女、簡単に捕まりやがって。
よりにもよってあんな愚鈍そうな奴等に捕まるなんて馬鹿じゃないかと、捕まった氷の貴婦人に腹が立った。


殺し損ねた女を横取りされた感覚は無性に腹が立つ。

さっきまでの爽快感は最早何処にもない。

そして、勘違いで殺そうとした贖罪のつもりで初めて人を助けてやろうと思った。



※※


火の揺らめきがジュリアスの瞳に移り赤い目がユラユラと炎の光りを反射させる。
ただ一点を見つめるその瞳にミズキに背中も映っていた。

「・・・・」

おかしい!
だっておかしいだろ。
こんな状況で、寝てるし!
しかもイビキをかいてるし!
一体どう言う神経をしているんだ。
寝言でも言い出したら首でも締めてやろうか?などと負の感情がジュリアスの中で暴れ回る!

焚き火の番は普通2人で交代しながらするもんじゃなかったか?
面倒は全部こちらに押し付けてくるなんて、更に驚いたのは俺に一度殺されそうになっているのに、なんで俺の目に前で寝ていられるんだ?

図々しいにも程がある。

でも・・・このミズキっていう女をもっと知りたいと思っている自分も嫌になる。

納得がいかない。

何故こうなったのだろう?
どうしてこうなったのだろう?

「・・うへぇへへ・・うぅん、むにゃ、むにゃ」とミズキは寝言を言っていた。

ジュリアスの額に筋が立った。
本当に首でも締めようか?一回だけで良い!一回だけ!力一杯首を絞め付けたい。今なら簡単に首の骨をへし折れる。

妄想の中でミズキの首をへし折ると少しは溜飲が下がった。
あぁぁ失敗した。
・・・こんな奴、助けるんじゃなかった・・・。


生き残りが剣を振り上げたその時、ミズキは微笑む様に笑っていた。
・・・アレを見たら勝手に体が動いた。
そんな自分自身が信じられなかった。

「あり得ない」
ジュリアスは自分勝手に動いた手を見て呟いた。

それに殺されると分かった瞬間に微笑む人を見た事が無かった。
殺される瞬間は大抵は恐怖で顔が歪む。

微笑む気持ちが分からないし、分かりたいと思わない。
手を見つめていたジュリアスはまた、背を向けて寝ているミズキを見る。

「・・・あり得ない」
焚き火の薪が小さく爆ぜる音が静寂を一層強調させる。





「・・・何か来る」

微かに耳に響く足音。
真っ直ぐこっちに向かって来る。
この女の護衛か?
こないだあの女を助けたあの髭野郎か?
これはトラブルにいなるなぁ~めんどくせぇ~。

「ちっ!めんどくせぇ~!おい、おい、起きろ」

寝ているミズキに声を掛けて身体を揺さぶろうと近付こうとすると。

ジュリアスに向かってナイフが飛んで来た。
ジュリアスはそれが分かっていた様にひょいとミズキから一歩遠ざかった。

「そいつに近付くな!!」
ナイフを投げて怒鳴った男はジェリドだった。

「やっぱアンタか?」
思った通りの男が目の前に現れた事にジュリアスはニヤリと笑うと素早く火の中にあった燃えてる薪を取りジェリドに向かって投げる。
ジェリドは飛んで来た薪を払ったが、次の瞬間横腹に衝撃が走った。

ジュリアスの投げた薪はフェイクでジェリドが薪を払った瞬間に脇が甘くなった横腹に蹴りを入れた。


歪む顔を見たジュリアスは楽しそうに目が細くなった。

大した事はないな。楽勝!楽勝!
ジュリアスの余裕はここまでだった。

ジェリドは何か小さく呟くと、ジュリアスの目の前に小さな光が輝くと光は糸の様に細長くなりジュリアスに巻きついた。

束縛の術に見事に引っかかった。

「ちっ!ついてねえな!魔法持ちかよ」
吐き捨てる様に言うと真っ直ぐジェリドの顔を見た。


「その顔は忘れもしないぞ!ミズキを殺そうとしたやつだな?」

「・・・」

「答えろ赤目」
鞘から剣を抜いて剣先をジュリアスの喉元に突き刺すと薄っすらと血の玉ができて滴り落ちた。

「ミズキをさらったのはお前か」
ジェリドの目に殺意の光が見える。

「・・・だったらどうするつもりだい?」

「殺す」
ジュリアスはジェリドの強い殺意を肌で感じた。

「殺すって?普通は役所なりに突き出して終わりだろう?それに俺はそこの女を助けてやったんだぜ?感謝の1つも無いのかよ!」


「そんなたわ言、誰が信じる!赤の忌み目」


「アンタこの女の護衛のくせにコイツの事何にも知らないんだなガッカリだよ」

そう、ミズキはこの瞳が綺麗だと言った。キラキラ光って綺麗だと。決してこの瞳を馬鹿にしなかった。

やっぱりミズキと言いう女だけが変わっていたと言うことか。

現実とはこんなもんだ。
ミズキの様な人間が沢山居れば良いのに。
この状況で考える事ではないのに、つい頭の中に、ミズキの顔がよぎった。

「誰がミズキの事を知らないって?俺から大事な者を奪っておいてなにを言う」
ジュリアスの言った一言がいたく気に食わなかったようだ。

おもしれえこの男、食いつきやがった。
「アンタもしかして、コイツに懸想でもしてるのか?護衛対象に懸想なんて、護衛失格だな」

ジュリアスは思った。
もっと怒れ!!と。
こっちはだいぶ前からイライラしっぱなしだ。

そして馬鹿にする様にジュリアスは鼻で笑う。
なんとかこの男から隙を見つけないと本当に殺される。

人助けをした挙句殺されるなんて真っ平だ。
それにしても計算外だったのはこの髭男魔法持ちだった事だ。

畜生!ついてねぇ!
ジェリドを睨むとジュリアスはニヤリと笑った。
ここで弱みを見せる訳にはいかない。

「だからなんだ!」
隙を作るにも会話が全く続かない。
ジェリドは冷え切った瞳でジュリアスを見ている。

何とかしないと殺られる。
髭野郎の気を削がないと。

「へぇ~そこの女が知ったらアンタどうするんだい?」

「・・・どうもしない。このままこの世界に居れば・・・」

「だってよ!どうする?そこで狸寝入りしているお嬢さん」

「・・・バレてたか?」
横になっていたミズキは起き上がるとジェリドの後ろからジュリアスを見て言った。

ジェリドが驚いてミズキに向かって振り向くとミズキと目が合い、ミズキはジェリドとの目線を避けた。

ジェリドの術が途切れた瞬間、ジュリアスは暗闇に身を翻して消えていった。

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