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ホタル

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2章

愛犬?狂犬ポチでしょ。

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「ジェリドさん?どうしてここに?」

決して寝たふりをした訳では無く、寝付けないだけで、やっと眠れたと思ったのにジュリアスに呼ばれ、目が覚めた。
何がなんだか分からず咄嗟に返事をしたら、目の前に男の後ろ姿があった。

その男から爆発しそうなオーラが男の背中を更に大きく見せていた。

だからなのだろうか?

その後ろ姿がジェリドの背中だと理解出来なかった。

命が助かっただけでも幸運な筈なのに、まさかこんなに早くジェリドさんに会えるなんて思っても見なかった。
本当に驚いた。

「『どうしてここに?』そんな事より、ミズキ?怪我はないか?体調は?」
ミズキに近寄りジェリドはミズキの関節、腕、足、くまなく手で触れ傷、腫れが無いかひと通り確認する。

「ぎゃはははは、ジェリドさんくすぐったい。どこ触ってるの?どこ!どこも痛く無いから、くすぐったいから!」

その頃にはさっきまでの爆発しそうなオーラはジェリドから消えていた。

ジェリドが側にいるだけでミズキは言い知れぬ安心を覚える。

「本当になんでもないか?」
うんとジェリドの目の前でミズキは頷く。

「・・・何でも無いんですけどね?」

「気持でも悪いのか?」

チラリとジェリドの顔を覗き込むと、ジェリドさんの方が病人みたいな顔をしています。

心配はかけたと思う。


『ジェリドさんそんな顔をさせたのは、わたしですか?』とジェリドに聞こうか悩んだ。今にも泣きそうな顔のジェリドに、ミズキはなんて声をかけて良いか分からない。


「やっぱり何でも無い」
気付かずに小さく呟いていた。

「本当か?お前は直ぐに無理をするからな、正直に言って良いんだぞ。まさかあの『赤の忌み目』に何かされたのか?もしそうなら・・・」

ジェリドからまたさっきの怖いオーラが溢れ出してくるのが伝わってくる。

「ちっ、違うから何もされてないから」

「・・・本・・当か?」

「当たり前です。もし何かあったらジェリドさんに今頃言いつけて、ジェリドさんにやっつけて貰っていますよ」
やられたらやり返せ!胸を張って言える。
ミズキは胸を張って、フンと鼻息荒く言った。

「そうか・・・良かった・・・良かった」
ミズキに怪我がない事に安堵したジェリドはミズキを宝物を包み込む様に抱きしめた。
「本当に良かった・・・ミズキ、ミズキ」
ミズキの首元に顔を埋めて何度も、何度もミズキの名前を呼ぶジェリドの体は小刻みに震えていた。

やっぱりわたしのせいですか?

「ジェリドさん?もしかして泣いてるの?なんてね?あははは・・・はは・・・えっ?本当に泣いてるの?冗談でしょ?」
笑って誤魔化そうとしたが、ジェリドは本当に泣いてる。

ジェリドは黙ってグッとミズキを抱きしめる腕に力を入れる。

「・・・煩い、黙っていろ」

「・・・」
『ごめん』というつもりだったが、ジェリドに、そんな事を言われたら本当に黙ってしまう。

なんかとってもジェリドさんが可哀想になってきた。
やっぱり泣かせた原因は・・・わたしですよね?

ミズキはジェリドの背中を優しく叩こうとして背中に腕を回した。

背中というよりジェリドの脇腹までしか腕が回らない。なんだろう?抱き合ってる?と言うより!これじゃジェリドさんに縋り付いているみたいだぞ!あたし!


さっき覚えたての恋心さえなければこんな事平気なのに!この気持ちに気付いてからは恥ずかしい。

恥ずかしくても、ジェリドが良い。
男の人が本気で泣いているのを初めて見た。
ジェリドが私のために泣いてくれた。
耳元で嗚咽混じりの震える息に、愛おしく感じるこの温もりを守りたい。ミズキは思った。

ミズキの中で育った感情。
初めて気が付いた恋心。

ジェリドを愛している。

『愛しい。』
『恋しい。』
という言葉を始めて理解出来た。
ミズキはジェリドを抱きしめる手に力を入れた。

何分経っただろうか?
「すまん、頭を冷やしてくる、何かあったら呼べ」と言うなりジェリドはミズキの顔を見るなりニヤリと笑って暗闇に消えて行った。



「おい!ミズキ!アイツには気を付けろよ」

突然後ろから声が聞こえた。
ミズキはビックリして後ろを振り向く。
声の主はジュリアスだった。

「・・・居たの?」

「居たのじゃねぇだろ?この『脳足りん』」

「『脳足りん』ってひどく無い?」

「ひどくねぇし!お花畑の頭を持っているアンタには丁度ピッタリな言葉だし」

「お花畑って、どうしてそうなるのよ」

「アンタまだ気が付かないの?氷の貴婦人は頭が回る切れ者だと聞いていたが、頭回り過ぎて脳みそ偏って腐ってんじゃねえの?」

「腐っとらん!腐っとらん!ピッチピチの脳は皺くちゃで脳髄まで詰まっているから!メチャクチャ新鮮!だから!!」

「・・・」
「・・・」

「「・・・ぶっ!ぶはははは」」

ミズキとジュリアスは同時に笑った。
「やっぱりアンタおかしいよ」
「どこがよ!どお言う風におかしいよ!」

「それだよ!それ!」
「それって何よ」

「アンタは、ミズキは俺の事怖く無いのか?」

「武器を持っていれば怖いけど、素手の人間は怖くないよ」
ミズキは少し悩んでヘラっと笑って答えた。

「・・・いや、そう言う事じゃなくて・・・質問間違えたかなぁ」

「ダメじゃ無いジュリアス、ホント肝心な所は抜けているんだから!」

「少しは黙っていろ!首へし折るぞ」
ジロリとジュリアスに睨まれ、ウンウンとミズキは素直に頷いた。

「ミズキが口を開くと全然話が進まない」

『ごもっともです』
ミズキもっと同感だと頷く。

ミズキの頷きを肯定と受け取ったジュリアスは話の続きを始めた。

「本当に俺の事は怖く無いんだな」

ウンウンと頷いた。
だって助けてくれたじゃない。
怖がる必要がどこにあるの?
ミズキは首を傾げる。

「ミズキといると調子狂う」
ホント狂うわ。

ジュリアスは『あぁあもう』と言って、ミズキにペンダントを手渡した。
「何かあったらコレで俺を呼べ!一度だけ助けてやる。良いか一回だけだぞ」


「・・・」
手のひらにあるペンダントのトップは3センチくらいの小さな笛だった。
笛を吹くと音が出ない。
空気だけが漏れる。

もしやコレは!

「お手」
ミズキは素直に手を出す。
これからジュリアスをポチと名付けようか?

だって犬笛ですよね。これ。


「・・・何か言うかと思っていたが・・・相変わらずひでぇ事言いやがる!まさか名前はチビとかポチなんて考えていないよな?」

「・・・・」

「・・・へぇ~~本当に考えていたんだ」
赤い目が輝きを増してきます。

まずい!
話題を変えなければ!

「そっ、そういえばコレを吹けば助けに来てくれるんだよね!」

「ん?ああそうだな」

「うわぁ、凄い!凄い!永久仕様だね」

「・・・ちょっと待て!何が永久仕様だ!何が!」

「コレ」
ミズキは当然だと言って犬笛をジュリアスの目の前に出した。

「ふざけんな!そんな事をしたらずっとミズキの近くに居なきゃならないじゃないか!それに俺の商売あがったりだ」

「別にいいんじゃない?それで!」

「俺にだって生活が有るんだよ。生活がな!金を稼がないといけないの!わかる?花畑の脳を持つ貴婦人様よ!働いた事がない奴はコレだから」

「失礼ね!働いた事くらい有るわよ!それにね誰もタダで側にいろなんて言ってないわよ!私の護衛をやらないかって聞いているのよ」

「護衛?この俺が?」

「そうよ!人殺しではなく人助けでお金を稼ぐのよ!丁度、護衛グレンが居なくなるから、信頼出来る人を探して居たのよ」

「護衛って髭のよアイツジェリドか?アイツジェリドを護衛から外したほうがいいな」

「えっ?ジェリドさんは護衛なんかじゃ無いわよ!どちらかと言うとお兄さんの様な大事な人」
『大事な人』の言葉に恥ずかしさが込み上げる。
恥ずかしさを誤魔化すためにあえて『お兄さん』も付け加えたが恥ずかしさに大きいも小さいも無かった。

恥ずかしい。

「あれ!にぃちゃんかよ」
そうか!あの髭野郎ジェリドはにぃちゃんなのかよ!そりゃ~妹が拐われれば血相を変えてを探し出すわなぁ?納得だぜ。
でも容姿も思考も似てねぇ兄妹だなぁ。

ちょっと待て・・・俺が挑発した時『懸想してる』と言ったがアイツジェリドは否定しなかった・・・。

おいおい妹に惚れてるのかよ!護衛対象に懸想してるのより、もっとタチが悪い。

悩んでるジュリアスを不思議そうに見ると納得をしている様でまぁ良いか。
理解してくれたなら良いのです!


「ミズキ、にぃちゃんには気を付けろよ!隙を見せるなよ」

「えっ?どうして?」

「妹に手を出す様になったらマズイだろ」
ジュリアスは小さく呟いた。

「はぁ?何?小さくて聞こえない!護衛の件はよろしくね」


ミズキが握手を求めると、しぶしぶジュリアスもっと握手しようと手を伸ばして、気配を感じ取ってミズキの目の前から消えた。



「ジュリアス!お願い!いつでもいいからまた、私の前に現れて!!約束よ」

ミズキは暗闇に消えていった赤い目のジュリアスに向かって叫んだ。

返事も無く静寂がミズキを包むはずだったがそうは問屋がおろさなかった。

「何を行っているんだミズキ?アイツはお前を殺そうとした奴なんだぞ?今だってお前は誘拐されて殺されかけたんだぞ?自分が何を言っているのか分かっているのか?」

ジェリドが淡々と言葉を紡いでいるが、怒りの感情がひしひしと伝わってきた。

でも違う!ジェリドさんは勘違いをしている。


「違う!ジェリドさん!ジュリアスは助けてくれたの!私が殺されそうになった時、彼が私を助けてくれたの!命の恩人なの!だから・・・」ミズキはジェリドにジュリアスに助けられた事を説明する。

「だから?何だ!ミズキ!助けてくれた?ふざけるな!アイツに一度殺されそうになっただろうが!」
説明したにもかかわらずジェリドの怒りは一向に消えない。

ここまで怒り心頭のジェリドを見たのは初めてで、どう言えばジェリドが落ち着くのか見当がつかない。

「でも、今回は助けてくれたの」
ジェリド怒鳴り声を聴くとミズキは小さく呟く様に答えた。
ジェリドが本気で怒る姿はミズキを萎縮させた。

それすら気に入らないのかジェリドはミズキをせね立て始めた。
「だったら次会う時は殺されるつもりなのか?ミズキ」

「・・・そんなつもりは・・・」
どう言えばジェリドはいつものジェリドに戻るのだろうか?ミズキの頭の中はそれしか思い浮かんでこない。

「じゃぁ、どう言うつもりで会いたいなんて言った」

「助けてくれたお礼とか・・・少し頼みたい事が・・・」

「ああいう奴らにお礼なんて必要ない!それに、人殺しの集団に頼みたい事?誰を殺したいんだ?ミズキ」
皮肉混じりのジェリドの歪んだ笑いはミズキを心底怖がらせた。
「殺し?・・・だなんて考えていないわ!ジェリドさん?おかしいよ、私の言った事を捻じ曲げて受け止めるの?」
ミズキの声も段々と震え始める。


「当たり前だろミズキ!お前には何度も!何度も騙されたからな」
ジェリドはミズキにとってキツイ一言を言った。


今の一言でミズキの何かが弾けた。

酷いジェリドさん!

ミズキの意思を歪められて受け取られるのは流石に頭にくる。
いつものジェリドさんでは無い。

「それじゃ、ジェリドさんには何を言っても無駄ですね!」
ジェリドさんの顔も見たく無いと言ってそっぽを向く。

売り言葉に買い言葉!ジェリドの一言にミズキは本気で怒り出した。
だが、怒っていたのは何もミズキだけでは無い。

ミズキの一言にジェリドは言い知れない怒りが爆発した。

「こっちを見ろ!ミズキ」
ジェリドはミズキの顎を掴むと無理やりジェリドの方へ向けた。

「いい加減にして!手を離して!私に触れないで」

「いい加減にして欲しいのは俺の方だ!ミズキ、あれのおかげで俺がどれだけ苦しんだか分かっているのか?」

「・・・本・・当に悪いと思っているわよ」

「いいや全然分かっちゃいない!どれだけ!どれだけ苦しかったか!お前も同じ目に会えばわかる・・・同じ目に合えば・・・」

ジェリドの目は虚ろにさまよい、つかんでいたミズキの顎から離すとミズキを力一杯抱きしめた。

「・・・もう手放すものか、二度と手放すものか、俺のものだ。俺の・・・」


ジェリドの行動が益々おかしくなっていく様に見える。

もしかしてこのままジェリドの側に私がいてはジェリドが壊れるのではないのだろうか?

「ジェリドさん?」

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