勇者さまは私の愚弟です。

ホタル

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私の彼は、愚弟でした

一花の軟禁生活

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「このパイは!なかなかどうして、爽やかな酸味があとを引く!おかわり!」


目の前には、クリームチーズパイを頬張って食べている目が真っ赤で、角が二本生えている。自称魔王がいる。



何故?自称かって?
そりゃ、魔王って自分で言ってりゃぁ~世話がない。

普通言いますかね?
「私!魔王です。ヨロシクねって!」

「・・・目の前の魔王は言ったんですよ。私!魔王です。ヨロシクね!」って!

私の『恐怖心』は、裸足で逃げて行きましたよ。
まぁ~?角と、赤い目で!かろうじて魔王って呼んでやりますよ。

及第点ですがね!

さらわれた時は、本当にビックリしましたが、寮とほぼ変わりない生活ができるのでこれ以上は望めないかと思います。若干、こちらの方が待遇が良いです。
ご飯とデザートを作れば、他は、魔王の手下が全てやってくれます。洗濯から、風呂掃除まで!良い家政婦さんを持っていますね魔王さん!

あっという間にパイを平らげた魔王はほっぺたにクリームを付けています。


「パイ、おかわり!」
「ハイハイ、おかわりね」
魔王はコクリと頷いた。

貴方は子供ですか?

正直魔王がこんなに素直だとは誰が思ったでしょうか?

まぁ~!食物で釣っているのは否めませんが!

「パイはまだか?」
「ハイハイ!今持って行きますよ」
私はパイを持って、魔王の前に3人前のパイを置いた。

「異世界の女!このパイ!少なくないか?」
「少なくないし、これは3人前でしかも、私の分も入っているわよ」

「そうか、お前の分も入っているのか」
「有難く最後のパイを食べなさい!」


「なに?もうお終いなのか?」

一心にパイを頬張っている魔王は私の話を聞いて、顔を上げ、この世の終わりの様な顔になった。

・・・何故か憎めない。

このパイを作る時も、足りない材料は、魔王自ら取りに行っていました。

『部下を使いなさいよ、部下を』と私が思うくらいです。

足りない材料は、ちゃんと街の店に行って買ってくる。
買い方が分から無いせいか?順番待ちの列に並ばず、レジの前に行き、6歳の子供にレジは順番!と叱られ!「すまない」と言って、列の最後尾に並んだそうです。礼儀の正しさに好感が持てます。がどんな格好で買い物に行ったのか?非常に気になります。


まさか・・・角生やしたまま買い物に行っていないですね・・・。

怖いので、聞くのはやめておきます。きっと変身して買いに行ったんでしょう!きっとそうです。そうであって欲しいです。

本当に!この世界の魔王ってなんだろうと疑問が出ました。


「異世界の女!今度は何を作る!」
有りもしないシッポが見えます。ブンブンと左右に千切れんばかりに振っているシッポが!

「あのね~!異世界の女!異世界の女!って、あたしには一花って名前があるの!
ちゃんと呼ばないと、夕飯はパンと水だけになるわよ!」

「一花すまなかった」

すぐに謝る魔王って何処を探してもこの世界の魔王だけでしょうね?


「今日の夕飯は・・・やっぱり、パンと水だけです」
私が言い切ると魔王の手に持っていたスプーンがカランと床に落ちた。

まさに、魔王の顔は絶望の二文字が似合う表情をしていた。

「・・・と言うのは嘘で」

この言葉を聞いた魔王の顔は、晴れやかに輝いた。

揶揄いがいがありますよ!
可笑しい。
魔王!可笑しいですよ。



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