勇者さまは私の愚弟です。

ホタル

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私の彼は、愚弟でした

お母さんのお話

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「・・・えっと・・・」

それは無い!と言い切れるのですが・・・うん~~ん!
だけど、良く分からないのは確かです。
確かにラヴィニスに・・・いいえ、あの人はおじちゃんです。昔会ったのは、おじちゃんです。ラヴィニスでは有りません!

それも夢の中の出会いです。

然も小さい頃の夢なんて殆ど覚えていませんよ!
微かに覚えているだけです。


「どうしたの?難しい顔をして?あの子の初恋の相手すら嫌だった?」
悩んでいるとニースは一花の顔を覗き込みます。
「え?いえいえ!そっ、そんな事は無いです。光栄ですし!嬉しいのですが、それはありえませんよ!」
「あら?どうして?あり得ないの?」
「どうしてって、もし、もしもですよ!私が夢を見たのは5歳くらいの時ですから、ラヴィニスは15歳じゃないでっすか!
何が?好き好んで、恋愛対象にすらなら無い子供なんかに心を奪われるんでしょうか?あり得ませんよね?」

「そうね?普通はそうね~!でも、相手はあの子ラヴィニスよ!」

何でしょう?物凄く納得出来る!

「でっ、でも夢の中です」
「・・・どうして?夢の中だと思うの?」
「それは・・・言われたから・・・」
「言われた?誰に?」
「・・・お父さんです」
「・・お父さんね~?」
うーんと言って手に顎を乗せた。
どこから見ても悩んでいる姿、わざとらしい事!この上無い。
流石、ラヴィニスのお母さん!
「そうね、父親に言われたら信じるわね」
まるでお父さんが嘘をついているみたいです。

ニースは、私の顔を見るとにっこりと笑って言いました。

「私が、貴女をラヴィニスに合わせたのだから、間違い無いのだけれどね?貴女のお父さんは、本当に貴女を手放したくなかったのね」

「・・・・」
この人・・・今、何て言ったの?

「ふふふ、驚いた?」
いやがらせが成功した時のラヴィニスの表情そっくりです。

ラヴィニスの性格はどうやらこの人の遺伝子の賜物ですね 。

「・・・驚いたと言うか?今更ですよ。それ以上にその笑顔!ラヴィニスそっくりです」

「ふふふ、そんなに似ている?あの子と!」
嬉しそうに笑うニースを見て。
    私!
   分かっちゃいました。
   この人はラヴィニスが可愛くてしょうがないのだと!

そして同時に私の中に疑問が生まれます。
本当にこの人が空気の様にラヴィニスを無視し続けた人なのでしょうか?
不思議です。

「昔はラヴィニスに冷ったのに、今はどう言うつもり?何て思っている?」
「・・・はい」
どうやら表情を読まれた見たい。まあ、聞こうと思っていたから良いのだけれど。そこが一番不思議でなりません。

「本当に貴女、面白い子・・・貴女といると退屈しまいわねラヴィニスが貴女の忠臣になるのも分かる様な気がするわ」
「と、忠臣って・・人聞きの悪い・・・ラヴィニスは一度だって、私の言う事を聞いたことは有りませんよ!」
そうです、いつもコッチが振り回されてばかりです。
「そんなことは無いでしょう?もしそうだとしても、あの子は必ずあんたの為にならない事はしてないはずだわ」

「・・・・・・・確かに、でも忠臣って!何でも言う事を聞く人の事じゃ有りませんか?」
確かにそうかもしれない、悪戯、嫌がらせはされていましたが、私が本当に困っていた時は一番に駆け付けて助けてくれていました。
結構いい奴だったのですねラヴィニス!!
今更ですが、お礼を言っておきます。
遅過ぎですが・・・・。

「本当の忠臣はね・・・主人に盾ついても、主人の為に働くものなのよ一花ちゃん、そう考えれば、ピッタリでしょう?」

「・・・はい、ぴったりですね?意地悪さえなければ」
「良かったわ。あなたと意見があって」
ニコリと笑うニース様少女のように笑います。
おい、人の話を聞け!ニース様!!わたしは最後に、悪戯さえなければと言いましたよ!

「意地悪は、貴女が大好き過ぎるから暴走しての事よ!!諦めてね・・・なにせあの人の子ラヴィス陛下の子だから」
一瞬ですが、ニース様の顔が曇りました。
あの人ラヴィス陛下のあれも愛情表現だったのね・・・」ニースは瞼を閉じた。

ああ、ちゃんと聞いていたんですね!良かった。
でも、そんなにラヴィニスの事が大事なら、どうしてラヴィニスに冷たくしたのでしょうか?
ますます。分らなくなっていきます。
ラヴィニスをどう思っているか?

「それではラヴィニスの為に聞きます。ニース様はどうして、小さい頃のラビニスをその・・・存在しない様に接したのですか?」

「・・・あの頃の私は、本当におかしかった。まわりの者がすべて憎くて!憎くて!お腹を痛めて産んだあの子が一番憎かったの」
「どうしてなんですか?お腹まで痛めて産んだんでしょう?」
「ええ。そうね、産みたくないと懇願したら、手足を縛られてベッドから身動きが取れない状態で、あの子を産んだのよ・・・本当にあれは地獄だったわ・・・」
「・・・だったらなぜ、ラヴィニスのお父さんと結婚したんですか?」
「・・・私は、終焉の女神ラシスの筆頭巫女だったわ・・あの人ラヴィス陛下にご挨拶に行ってそのまま私は・・・あの人ラヴィス陛下にすべてを奪われたの・・・筆頭巫女としての地位も・・・私が生涯捧げるはずの終焉の女神ラシス様への忠誠も・・・・」

その言葉を聞いて、私は知らずに涙が流れていた。
この涙は同情なのだろうか?
正直私には想像もできない事だが、女性としての尊厳をすべて踏みにじられた。という事だけは理解できた。

「・・・でもね、あの人ラヴィス陛下が亡くなる数日間だけはとても幸せだったわ、あの人ラヴィス陛下が私をどういう風に思っていたかをやっとわかることが出来たから・・・」

「・・・そうですか」
私は、言葉が見つからなかった。

「いやよ。一花ちゃんそんなに深刻にならないで!私は最後、とても幸せだったの・・・あの子を連れて行かなくて良かったわ・・・」


「これで納得した?一花ちゃん?」
「はい、大体は理解しました。本当にラヴィニスの初恋の相手は私なんですね?」
「そうよ、一花ちゃん、私が居なくなった後、あの子はすべてを憎み初めていたの。私はそれだけは、あの子にさせたくは無かった。あの子に一花を与えてやることしかできなかったのよ」だから、ラヴィニスをよろしくねと、ニースは一花にウインクをした。

「それじゃ、ラヴィニスの所に戻りましょうか?一花ちゃん」
「戻るって、どうやって戻るんですか?魔法陣も転移石も無いのに」
本当にどうやって帰ろうかしら?途方にくれます。
もし戻れたら、ラヴィニスにお母さんとの事を話して謝ろう。許してくれないかもしれないけれど自分が勘違いをしてラヴィニスを振り回したんだから仕方がない。
そして、悠馬を連れて今度こそお母さんの許に帰ろう。


「準備は良い?一花ちゃん?」
「はい、ニース様よろしくお願いします」

「目を閉じて、大きく深呼吸をして、あの子の事だけを考えて」
そう言うとニース様は、呪文を唱え始めました。
呪文を唱え終わるとニースは忠告とばかりに、私に話しかけてきました。
「ラヴィニスはあなたを決して放さないわよ。あの子の執着は父親ラヴィス陛下譲りだから。それから、一花ちゃん私の事はお母様と呼ぶ事を許します。さようなら」

「お世話になりました、お母様」
消える瞬間、ニースの輝く笑顔が印象的でした。

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