至高の光玉

ホタル

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一章

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一度風呂に行ったグイドは当分返って来ない事を今までの付き合いで知っている。


グイドは当分返って来ない。


グイドの風呂は長風呂だった。
しかも温泉なら尚更だろう。

ホットする。

さっきのグイドに対する態度は申し訳無いと思っている。

それでも彼には悪いが、もう少しだけ一人で落ち着きたい。

このままでは何も知らないグイドに苛立ちをぶつけてしまう。

グイドはだけは怖く無かったが、露天風呂での出来事はステフが男装するきっかけとなった過去の出来事が蘇る。

『信じられるのは自分だけ。』
あの頃の私は周りの全ての人が敵に思えた。

まあ実際、自分の国を滅ぼした敵国の領地にいるのだから決して間違いでは無いが。

すぐに元の口の悪いステフに戻るから、許して欲しい。

甘い物を買ってあげるから。

気をとりなおして、薄いラベンダー色のタンクトップにペパーミントグリーンの短パンといった格好で鏡台の前に座って丹念に髪に着いた湯の花を、櫛でお落し始めた。

鏡に映ったステフの肌は、温泉の効果でほんのりと桃色に染まっていた。

そしてタンクトップの色がステフの肌をより一層滑らかに見せていた。

そして肌の色より濃いピンク色の艶のある唇が半開きになっていた。

蛹が蝶へと変化する様に、少女から女へと成長する、一番輝いている時期のステフは、自分の魅力に気が付いていない。

そんなステフを間近で観ているグイドの精神を少しずつ壊している事にも幸か不幸か気が付いていなかった。


今のステフは艶かしいいと言う言葉が似合う。




※※



時々鏡を見て髪に付いた湯の花の取れ具合を確認するが、中々湯の花は髪にへばり付いて取れない。

はぁ~とため息が漏れる。
ため息が口から漏れると、呼吸が楽な事に気がついた。

ステフの胸は普段、晒しで締めてけて巻いているせいか、タンクトップだけだと有り余る胸の脂肪が一時の解放を満喫している。

息が楽に出来る素晴らしさ!素敵。


なんて思いながら櫛で髪を梳いていたが、髪に着いた湯の花はしぶとかった。

畜生めんどくせぇ。

これは本当にもう一度風呂に行って頭を洗い直さないといけないかと思い。鏡台の椅子から立ち上がると、トントンとドアを叩く音がした。


ステフの視線が音のしたドアに向かう。


誰?まさかグイドさん?

グイドに晒しも巻いていない、こんな姿を見られる訳にいかない。

でもグイドならさっき出て行ったばかり、忘れ物をして戻ってくるにしても自分の部屋に入るのにノックなどする様な事はしない。


ノックのをしたのがグイドで無いと分かると少しだけ安心した。


こう言う時は、無視で良い。
無視に限る。



ドアには鍵が掛かっていないが、こんな朝早くから泥棒に入るわけが無い、それに泥棒ならドアをノックするわけが無い。


どうせ宿の者が何かの確認に来たに違いない。それに返事が無ければ直ぐにその場からいなくなるだろうと、ステフは安易に考えていた。


それに今は誰にも会いたく無い。

一人になりたくてわざわざグイドを追い出したのだから。


正直まだ怖い。

露天風呂での出来事がステフを支配する。

普段は男として振舞っているが、月のものが来ると否応無しに女性としての臓器が痛みを伴って主張する。そして自分が酷く無力に感じる時。

そんな自分がステフは嫌いだった。

なんで弱い女になんて生まれたのだろうと思わずにはいられない気持ちになる。

男だったらこんな想いはしない。


旅先で知り合った仲間達は、ステフが女性だと知ると、舐める様な目で見つめ、何か理由を付けて体を触り出し、挙句には抱かせろと言って無理矢理ベッドに押し倒された事が1度や2度では無かった。

友人だと信じていた者の変貌にステフの心は悲鳴を上げた。

誰も信じない!これからは誰とも友人になどならないと心に誓った。

自分を守る事に限界を感じて、一人で旅を続けた。

そして旅の途中でペンダントを盗まれて、グイドと出会った。

最初はグイドの事が迷惑だったが、今では結構グイドを気に入っている。

出来ればこのまま旅が続けば良いとさえ思っている。


目付きの悪い男だが、どこまでもステフを子供扱いをする。

そして甘い物が好物なグイド。

そんな彼をステフは好きになっている。

だけど今はグイドにも側にいて欲しくない。


コンコンと又ドアをノックする音が聞こえる。
今度はさっきと違って少し乱暴に聞こえる。

ビクッとステフの体が反応する。

襲われる恐怖は、中々ステフから出て行ってはくれなかった。

ステフの体は動けない恐怖がステフの体を支配して、体が小刻みに震え出した。

用心に越した事は無い。
静かにして入れば相手は諦めて返って行くだろう。

自分が震えている事にも気が付かないステフの手から櫛が溢れた。


カランと床に落ちた櫛はドア越しに聞こえた様で、今度はドンドンと強く叩く音と共に男の声で、「お寛ぎのところ申し訳ありません。赤い髪の女性がそちらにいらっしゃいますか?」と言って、すぐに違う声が聞こえた。

「店主邪魔だ退け!女出てこい、隠れるとためにならないぞ」

「騎士様どうかここは穏便に、穏便に、他のお客さまも驚いております」


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